「木陰に座って涼を楽しむことができるのは、誰かがずっと昔にその木を植えてくれたからだ」
筆者が尊敬してやまない、ウォーレン・バフェット氏の名言の一つである。その「木」には様々な意味が込められているように思う。筆者が家族と幸せに暮らせているのも、ずっと昔に誰かが植えてくれた「木」のおかげだ。常に現状への感謝の気持ちを思い出させてくれる大切な言葉である。資産の半分以上を慈善事業に寄付する「ギビング・プレッジ」をビル・ゲイツ夫妻と共同設立するなど、慈善活動家としても知られるバフェット氏ならではの名言だ。
さて、そんなバフェット氏であるが、かつて「企業に社会貢献という見解を押し付けるのは間違いだ」と発言して話題になったことがある。フィナンシャル・タイムズ(FT)で伝えられたバフェット氏の発言は各方面で議論を呼んだが、そこにはどのような意味が込められていたのだろうか。バフェット氏のこれまでの発言を交えながら「よりよい社会づくり」について考察してみよう。
経済活動と社会貢献のジレンマ
「Doing Well By Doing Good =善行を尽くすことで社会が上手くいく」。近年、そのような考えがビジネスや投資の世界で浸透しつつある。サステナビリティ(持続可能性)やESG(環境・社会・ガバナンス)はそれを象徴するワードであるが、いまや「企業は社会への貢献活動なしには利益を期待できない時代」が到来しつつあるようにも見受けられる。しかし、一方で企業や株主にとっては利益創出も重要な課題だ。
環境等に配慮せずに利益ばかりを追求すると様々な社会問題を引き起こしかねないが、かといって社会貢献だけで企業経営が成り立つものでもない。こうした「経済活動と社会貢献のジレンマ」はESG経営や投資が直面する課題でもある。