英国は筆者が28年の年月を過ごした思い出深い国であり、第二の故郷でもある。その英国がEU(欧州連合)から離脱して1年が経過した。実際には2020年末まで1年間の移行期間が設けられていたので、筆者も含め欧州の人々が「Brexit(ブレクジット)」の影響を肌で感じるのは、むしろこれからといえる。英国を愛する者として歴史的な変化を見守り続けたい。
ところで、読者のみなさんは「Scotxit(スコットジット)」をご存知だろうか。ネットで「スコットジット」と検索すると、ホテルの予約サイトやカナダの観光ガイド、女性用サイクリングシューズの販売ページなどが上位に並んでいる。どうやら日本では「スコットランドの英国からの独立(=Scotxit)」を巡る問題は、ほとんど伝えられていないようだ。
今回は「Brexitの代償」の一つとも指摘される、スコットランド独立を巡る問題や経済への影響についてリポートしたい。
数々の不満、そして独立への機運
周知の通り英国はイングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドで構成する連合王国である。ちなみに、スコットランドは1707年にイングランドと併合している。
Scotxitの最大の特徴は、まず離脱先がEUではなく英国であること。すなわち、英国から離脱しスコットランドの「独立性」を確立することにある。そして、もう一つの特徴がEUへの再加盟を目指すことだ。スコットランドの「独立性」とは政権基盤を英国からスコットランドへ完全に移行させることを指し、たとえば北海油田の利権やBrexit交渉の論点となった漁業権問題も含まれる。
Scotxitを巡る議論は今に始まったことではない。2014年9月には「スコットランド独立住民投票」が実施され、その結果、離脱賛成派44.70%、反対派55.30%で英国への残留が決定している。当時はこれで一件落着かと思われたが、その後2年足らずで再び独立への機運が再燃することとなる。きっかけは2016年6月、英国のEU離脱の是非を問う国民投票で離脱派が勝利したことだ。スコットランドの多くの人々にとって、英国のEU離脱は意に反する結果だった。スコットランドの投票結果はEU離脱賛成派の38%に対して、反対派が62%と圧倒していた。