*マネジメント改革を実現する「上司力」の詳細をさらに詳しく知りたい方は、拙著『本物の上司力〜「役割」に徹すればマネジメントはうまくいく 前川 孝雄』(大和出版、2020年10月発行)をご参照ください。
目次
部下のキャリアに寄り添い思いを聴く
リモート下で求められる「支援型マネジメント」を進める第一歩は、部下の仕事の「責任の明確化」です。但し、「管理型マネジメント」にありがちな、部下に対し一方的に仕事を付与し、目標を示し、仕事ぶりを監視し、結果を評価する方法では逆効果です。部下の自律性を引き出し、部下が仕事に目的や意義を感じ、自ら主体的に責任を引き受けようとするように、丁寧な対話と動機づけをしていくことが大切です。
そこで、年度の仕事開始の期初に部下との面談を行い、本人の仕事への思いやキャリア志向、また強み、弱みなどへの理解に努めます。その上で、仕事の目的や意義を共有しながら、本人に任せる役割・仕事をしっかり決めていきます。面談は部下1人1時間程度で、上司はシートを手元に置き肯定的な姿勢で傾聴していきます。私が開発した「メンバー育成計画シート」を図示しますので、活用するとやりやすいでしょう。
部下のキャリアヒストリーを概観する
「メンバー育成計画シート」の左側一列は、部下のキャリアヒストリーを整理する部分です。部下との面談に先立ち、分かる範囲で本人の社歴(+転職暦)や現在の担当業務、そして将来のキャリア展望などを整理し記入しておきます。面談では、それらを確認・補強する形で本人の話を聴いていきます。
担当業務で本人の将来につながると思える部分は、詳しく聴きましょう。本人の将来のキャリア希望も確認しておきます。
会社への思い、現在の仕事への思いを聴く
シート右側・上段では、まず部下が会社に対して感じている満足感や充実感、また反対に不満や悩みを聴き取ります。ポジティブな感想や意見は話しやすく、ネガティブな内容は話しづらいものです。率直な思いを語れるような雰囲気づくりを工夫しましょう。
次いで、現在の自分自身の仕事・役割についての思いも、上記同様に両面で聴き取ります。満足要因と不満・悩みの要因については、無理のない範囲で聞いておくことが、本人理解に役立ちます。
部下の持ち味を知り、「強み」と「弱み」を共有する
「強み」を十分認め、「弱み」をフォローする
以上を踏まえて、シート右側・中段の本人の「強み」(長所)と「弱み」(短所)について対話を進めます。上司が感じている内容は予め記入しておきます。部下からすれば、いきなり「あなたの強みは?(弱みは?)」と尋ねられても答えに窮します。そこで、まず本人の「持ち味」に着目しましょう。これまで自分で成果が上がったと思う仕事や、好きな仕事は何か、反対に苦手は何かなどの話題から入り、対話を深めます。本人の持ち味への光の当て方によって、強みや弱みが浮かび上がってくると考えるとよいでしょう。
ここでは、まず部下本人が自覚する強みと弱みは何か、自己認識を開示させることが第一です。そのうえで、上司としての評価も伝え、双方の認識や思いをすり合わせていきます。本人が気づいていない強みは具体的に伝えて、励まします。また弱みについては、往々にして強みと表裏一体であることも多いので、個性でもある旨を伝えると、前向きに捉えることができます。
部下の強みはさらに伸ばし、弱みは本人の努力と上司・同僚の協力で補強していく姿勢が、「支援型マネジメント」の原則です。すでに面談での対話から、部下への動機づけがスタートしています。部下自身の思いや自己認識の傾聴に努めながらも、適切なアドバイスや励ましによって、上司と部下の信頼関係の基礎をつくっていくことが大切です。
将来への希望と期待をすり合わせる
将来への希望を聴き、期待を語り、共有する
シートの最終項目は、上司の部下に対する「将来への期待」です。これまでの対話を通して、部下の今後の仕事への希望や自己啓発の課題などが、より明らかになってきたことでしょう。そこで部下の意向を十分に踏まえながら、上司としての期待を整理し、しっかりと伝えることが大切です。
今後3年〜5年の将来を見据えて、部下にどのように成長し活躍をしてほしいのか。その一環として、当面どのような役割・仕事を任せ、どのような期待を持っているか。それに応じて、上司自身がいかにフォローをしていくか。日常や定期的な報連相の方法や、部下の自己啓発への支援なども含めて、上司としての関り方も明らかにしておきましょう。
部下との対話では、全てが完全に一致し同意できる内容ばかりではないでしょう。そうした認識のズレについても、上司として自覚しておくことが必要です。その上で、そのズレをいかに前向きに解消していくか。部下に粘り強く働きかけていく事柄や、互いに調整や努力をし合う点は何か。また上司自らが改善し変わらなければならない点もあるでしょう。部下からも学び、共に自分も育つ「共育」の視点も大切にして、上司自身の内省を深めることにも留意しましょう。
「あなたならでは」の役割・仕事に動機づける
チームの中での役割・仕事の位置づけを明らかにする
以上のプロセスを経て、部下に任せたい役割・仕事を明らかにしたら、それが組織・チームのなかでどのような位置づけになるかを言語化し、本人とチーム全体で共有することも大切です。例示した「中堅広告代理店 営業組織の仮想例」を参照してください。このような個性とウィットのある組織図を作成し共有することも効果的ですが、ここではチーム全体に各メンバーを位置付ける意義とポイントを確認します。
「仮想例」の中の面談相手の部下は、営業第二課の11年目の中堅社員の渡部さん(仮称)とします。今期、東部エリア担当の営業主任として抜擢し、本人も受諾しました。面談で上司からは、これまでの本人の活躍と希望を踏まえ、近い将来には営業第二課全体でのリーダーシップの発揮を期待する旨を語りました。また一方で、次の上半期は営業本部全体で「お客様の販売30%UPで、売上目標30%UPを達成しよう」との組織目標を掲げる意義も共有したところです。
「あなたならでは」の活躍に期待し、動機づける
そこで、新たなリーダーの渡部さんには、「あなたならでは」の役割を担ってもらいたいと強調するのです。渡辺さんは、コツコツと顧客本位の提案営業を積み重ねてきたことで、お客様からの信頼が厚く、社内でも定評があります。また上司や後輩との報連相も丁寧で、チームの中で頼りにされる存在です。そこで、そうした自他共に認める「信頼関係作りのプロ」としての力と個性を今後も十分に発揮して、渡部さんらしいリーダーシップで組織に貢献し、大きく成長してほしい。そのことを本人に伝えると同時に組織図にも明記し、チーム全体で共有するのです。
こうして、部下一人ひとりの役割・仕事を組織全体の仕事の目的や目標の中に位置づけ動機づけると同時に、本人のキャリア希望に根差した自分らしい意義ある役割・仕事として、またチームの期待を背負ったものとして動機づけるのです。そのことで、部下一人ひとりの活躍・成長と組織の成長が繋がり、主体的・自律的に遂行する姿勢が芽生えていきます。それがすなわち仕事の責任の明確化となるのです。
人を育て活かす「上司力」提唱の第一人者。(株)リクルートを経て、2008年に人材育成の専門家集団㈱FeelWorks創業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、「上司力研修」「50代からの働き方研修」「eラーニング・上司と部下が一緒に学ぶ、バワハラ予防講座」等で、400社以上を支援。2011年から青山学院大学兼任講師。2017年(株)働きがい創造研究所設立。情報経営イノベーション専門職大学客員教授、(一社)企業研究会 研究協力委員、ウーマンエンパワー賛同企業 審査員等も兼職。連載や講演活動も多数。著書は『50歳からの逆転キャリア戦略』(PHP研究所)、『「働きがいあふれる」チームのつくり方』(ベストセラーズ)、『コロナ氷河期』(扶桑社)等33冊。最新刊は『50歳からの幸せな独立戦略』(PHP研究所)及び『本物の「上司力」』(大和出版)
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