本記事は、ジョー・ボアラー氏の著書『「無敵」のマインドセット 心のブレーキを外せば、「苦手」が「得意」に変わる』(ハーパーコリンズ・ジャパン)の中から一部を抜粋・編集しています

新しい神経回路の形成

神経回路
(画像=PIXTA)

数年前、私たちは83人の中学生をスタンフォード大学のキャンパスに招待し、18日間の数学キャンプを行った。学習の到達度と考え方の面で一般的な生徒ばかりで、初日に83人全員が「自分は数学に向いていない」と言った。そして、「クラスメートの中で、算数脳を持っていると思うのは誰?」ときくと、全員が同じ名前を挙げた。それが常に質問に真っ先に答える生徒だったのは、意外ではなかった。

私たちは、子どもたちの有害な思いこみを変えることを主眼にして、共に時間を過ごした。生徒は皆、キャンプに来る前に、それぞれの学区で数学のテストを受けていた。18日後の終了時に同じテストを受けさせたところ、平均して50%の成績の伸びが見られた。学校で学ぶなら2.8年が必要な伸び率だ。信じられないほどの結果が、適切なメッセージと教育方法が伴えば学習能力は高められることの新たな証拠となった。

教師陣と私は、生徒の否定的な思いこみを払拭するために、キャメロンの片側しかない脳の画像を見せ、脳切除の手術を受けたこと、キャメロンが回復し、残った片側の脳が成長していて、医師たちに大きな衝撃を与えたことについて伝えた。それが中学生たちへの刺激になり、その後の2週間、「自分にもできるはず!」と互いに声をかけているのをよく耳にした。

きわめて多くの人が、自分の脳は算数および数学、科学、芸術、英語、その他の分野に適していないという有害な考えを抱いている。難しいと感じると、脳の領域を強化するのではなく、生まれつき脳が適していないと決めつけてしまうのだ。しかし実際は、特定の教科に適した脳を生まれつき持っている人などいない。すべての人が、必要な神経回路を成長させなければならないのだ。

学習すると、3つの方法で脳が成長することがわかっている。1つめは、新しい神経回路の形成だ。2つめは、すでに存在する神経回路の強化。はじめは微細な回路も、深く学ぶほどに強くなる。3つめは、以前はつながっていなかった回路間の接続である。

この3種類の脳の成長は、学習するときに起こる。そして回路が形成または強化される過程で、さまざまな学科を習得できるのだ。神経回路は生まれつき存在するのではなく、学習によって発達し、苦労すればするほど、習熟度と脳の成長が高まる。これについては次章以降で詳しく説明するが、要するに、脳の構造はさまざまな活動を行うたびに変化し、直近の作業に適した神経回路を形成しようとするのだ。

「無敵」のマインドセット 心のブレーキを外せば、「苦手」が「得意」に変わる
ジョー・ボアラー(Jo Boaler)
スタンフォード大学教育学部教授。世界で2億3千万人の生徒が参加する非営利の学習リソースサイト、ユーキューブド(youcubed)のディレクターでもある。オンライン大学講座(MOOC)の数学教育カリキュラム制作の第一人者であるほか、これまでに9冊の本を上梓し、研究論文や記事も多数執筆。ニューヨーク・タイムズ紙、タイム誌、テレグラフ紙、アトランティック誌、ウォール・ストリート・ジャーナル紙など多くの媒体に掲載されている。英国BBC局が選ぶ、「教育を変える8人」に名を連ねる。カリフォルニア州スタンフォード在住。

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