本記事は、ジョー・ボアラー氏の著書『「無敵」のマインドセット 心のブレーキを外せば、「苦手」が「得意」に変わる』(ハーパーコリンズ・ジャパン)の中から一部を抜粋・編集しています
「ミス」と「練習」の先に
どのようにすれば「超一流の回路」が育つのだろう?理解力のぎりぎりのレベルの問題に取り組み、困難な状況の中で試行錯誤をし、間違いを修正し、次の問題へと進んで、さらに間違いをする、というプロセスを経験することだ。常に難しい内容に取り組んで、自分に負荷をかけるのだ。
コイルは著書の冒頭で、興味深い学習体験について紹介している。クラリネットを習っている、クラリッサという名前の13歳の少女の事例だ。クラリッサは音楽的な「才能」がなく、「良い耳」でもなく、リズム感は平均的で、意欲も平凡だ。
しかし10倍の速度で技術を習得したために、音楽業界の有名人になった。10倍という速度は、音楽心理学者の計算によるものだが、驚くべき学習の偉業は録画され、音楽の専門家によって研究された。
コイルはクラリッサが練習する様子のビデオを見て、「6分間で1ヵ月分の練習を成し遂げた少女」というタイトルがふさわしい、と表現している。以下が、コイルが描写したクラリッサの練習の様子だ。
クラリッサは息を吐いて、2つの音を演奏してから、ストップする。唇からクラリネットを離して、楽譜を見つめる。にらむような目つきになる。曲の冒頭のひとまとまりの7つの音を演奏する。最後の音符を外すと、すぐに演奏をやめて、唇からクラリネットを離す……再び練習を始め、曲の最初から、今度は数音先まで演奏して、最後の音を外すと、前に戻って、間違いを正す。 音に勢いが出て、感情がこめられ、冒頭のフレーズが曲らしくなってきた。ひとまとまりのフレーズを演奏し終えると、6秒間ストップし、頭の中で曲を再現するように、考えながらクラリネットを触っている。前かがみになり、一息ついて、再び演奏を始める。 聴き心地はかなり悪い。音楽というよりも、停止とミスで埋めつくされた、ばらばらで断続的な、スローモーションの音のつぎはぎである。常識的に考えれば、クラリッサの演奏はひどい出来だ。しかしこの場合、常識がまったくの間違いなのである。
ビデオを見た音楽の専門家は、クラリッサの練習は驚異であり、誰かがこのやり方を瓶に詰めて売り出したら数百万ドルで売れるだろう、と述べた。コイルは次のように指摘している。
「これは通常の練習ではなく、まったく別ものだ。高度に目標を絞った、ミスに焦点を当てたプロセスと言えるだろう。何かが成長し、構築されている。徐々に曲が形を帯びて、それと共にクラリッサの内部に新しいクオリティが生まれるのだ」
コイルは、著書で紹介する学習者たちが「特定のパターンの目標を絞った訓練によって技術を構築する神経学的メカニズムを利用した」と述べている。「彼らは、それと気づかないうちに、学習を加速させるゾーンに入っている。瓶詰めすることは難しいが、方法を知っている人は利用できる。要するに彼らは、才タレントコード能の暗号を解読したのだ」
きわめて効果の高い学習法の特徴からわかるのは、ミスをして、間違いに苦労して取り組むという学習によって、初心者が達人へと成長するということだ。これは、脳の研究結果と一致している。苦労してミスをすると脳の活動が増え、正しく仕事を行うと脳の活動が減少するのだ。
残念なことに、ほとんどの学習者は常に正解しなければならないと考え、多くの人は、ミスやつまずきがあると、優秀な学習者ではないと感じてしまうが、実際には、ミスやつまずきをすることが最高の学習法なのだ。
知識を高めたり、スキルを上達させたりするときに、大切なのが練習だ。「超一流」と呼ばれる人たちの研究を世に知らしめたアンダース・エリクソンは、超一流の成功者は知能の高さではなく、「意図的な練習」の量に関係していることを発見した。成功者が一生懸命努力しているのはもちろんだが、超一流になる人は「正しい方法」で一生懸命努力している。
さまざまな研究者が、効果的な練習法について、同じことを言っている。それは先に述べた、自分の限界より少し上に挑戦し、ミスをして、それを正すことを繰り返すという方法なのである。
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