会社は、妊娠して出産を控える女性社員に対して、産前産後休業などの制度利用を促し、会社側の産前産後のサポートについても周知徹底する義務がある。今回は、妊娠中の社員が取得できる産前産後休業などの制度や、産前産後休業時に受けられる経済的支援、出産後の復職支援について解説する。
目次
産前産後休業の対象となる社員に対して企業が行うこと4つ
自社の社員が妊娠した場合、会社側は、妊娠した女性社員に対して産前産後休業の付与や就労制限を設けるなど、仕事を続けながら無事に出産するためのサポートを行うことが、『男女雇用機会均等法』や『育児・介護休業法』などの法律によって義務付けられている。
ここでは、産前産後休業など、妊娠・出産する女性社員が利用できる制度について紹介する。
1)産前休業
産前休業は、妊娠した女性社員が請求することで利用できる休業制度であり、出産予定日の6週間前から取得可能である。なお、双子を出産する場合には、出産予定日の14週間前から取得できる。
2)産後休業
産後休業は、産前休業と違って取得が義務付けられており、基本的には出産翌日から8週間は取得しなければならない。ただし、産後6週間経過後に、医師から就労が認められた場合には、社員本人が請求することで復職が可能となる。
なお、産前産後休業に関しては『労働基準法第65条』に規定されており、正社員だけでなくパートやアルバイト契約の社員も取得できる。
3)産前産後休業以外の制度
妊娠から出産後1年未満は、労働基準法で母性保護について規定されている。また、母性健康管理制度が適用され、健康診断の受診や母体の健康状態に合わせた就労措置が必要となる。
出産後には、子どもが原則1歳になるまでの期間に、育児休業制度を活用できる。また、女性の雇用を守る観点から、産前産後休業の取得期間中はもちろん、復職後30日間は会社側からの解雇が禁止されている。
4)妊娠中の女性への配慮
妊娠中の女性に対しては、労働基準法によって以下のような企業側の配慮が義務付けられている。なお、これらに違反した場合には、6ヵ月以下の懲役刑や30万円以下の罰金といった罰則が適用される。
・時間外労働や休日労働などの勤務時間に関する制限
社員が妊娠していて社員からの申請があった場合、時間外労働や休日出勤、夜勤等の深夜業務を免除しなければならない。また、月単位などの労働時間調整を行う「変更労働時間制」を適用している場合、法定時間内までの勤務が義務付けられている。
・軽易業務への転換措置
妊娠している女性社員の負担となるような、長時間におよぶ立ち仕事や前屈みの体制で行う業務などへの従事は禁止されており、軽易作業への転換が義務付けられている。
・危険及び有害業務への就業制限
妊婦に対して危険がおよぶ業務に関しては、『労働基準法第64条の3』において就労が禁止されている。具体的な業務については、『女性労働基準規則第2条第1項』に定められているが、必ずしも業務自体に対する制限だけではなく、有害なガスを発散する場所や高温下や寒冷下などでの業務も禁止されている。
産前産後休業対象の社員に対するマタニティハラスメント防止の義務付け
『男女雇用機会均等法第9条』や『育児・介護休業法第10条』では、社員の妊娠や出産等に際して、就労上不利益となるような異動・減給などは禁止されている。それと同時に、同法律ではマタニティハラスメントに関しても禁止されており、ハラスメントの防止措置も義務付けられている。
妊娠中のマタニティハラスメントの事例
妊娠中の女性社員に対するマタニティハラスメントの事例としては、以下のようなものがある。
- 妊娠中にも関わらず時間外労働や深夜労働を強制された
- 産前産後休業の申請時に退職を促される
- 忙しい時期に妊娠するとは信じられないといった言葉を浴びせられる
産前産後休業後の復職支援4つ
産前産後休業期間中は、社員も職場復帰への不安を抱えている可能性が高く、企業側のフォローが非常に重要である。ここでは、産前産後休業明けの女性社員に対して、どのような就業上の配慮などが必要かを説明する。
1)母性健康管理措置
出産後1年未満の女性社員は、主治医等からの健康診断の指示があった際に、会社に健康診断の時間確保の申し出が可能である。また、医師等から働き方などに関する指導があれば、会社側は必要な措置を取る必要があるため、主治医に「母性健康管理指導事項連絡カード」を作成してもらうことで、会社と社員との連絡もスムーズに行えるだろう。
2)育児時間の承認
生後1年未満の実子や養子の育児を行う女性社員に対しては、請求を受けた際に1日2回の育児時間を与えなければならない。1回の育児時間は少なくとも30分以上であり、取得タイミングについては当事者間に任される。
3)妊娠中と同様の就業配慮
妊娠期間中の女性社員に対して行っていた下記のような業務上の配慮を、産後1年未満の女性社員に対しても引き続き適用する必要がある。
- 時間外労働や深夜労働などに関する制限
- 軽易業務への転換措置
- 危険を伴う業務や有害な環境における業務の制限
4)ハラスメント行為の禁止
産前産後休業を経て復職した後もハラスメント行為は禁止されており、会社側には防止措置が義務付けられている。
復職後に発生しやすいハラスメントには、以下のようなものがある。
- 正社員からパートへの雇用契約転換を要請された
- 出産前の仕事に比べて明らかにレベルの低い雑用を任せられた
- 育児休暇などの制度を利用しないように上司に言われた
- 看護休暇を取得したら同僚から嫌味を言われた
産前産後休業と育児休業の違い
産前産後休業が終了した後、子どもが1歳になるまでの期間中は、育児休業の取得を会社に申請できる。産前産後休業と育児休業の大きな違いは、産前産後休業が妊娠・出産を行う女性社員のみが取得できるのに対し、育児休業は1歳未満の実子や養子がいる男女社員の両方が取得できることである。
パパ・ママ育休プラス
育児休暇は、基本的に子ども1人について1回の取得が可能であり、「パパ・ママ育休プラス」という、休業取得期間の延長に関する制度も設けられている。
「パパ・ママ育休プラス」とは、両親が育児休業を分担して取得することで、育児休業期間が延長される制度だ。通常、育児休業は子供が1歳になるまでだが、「パパ・ママ育休プラス」を利用すると、父親と母親が共に育児休業を取得する場合、育児休業の期間が最大で子供が1歳2ヵ月になるまで延長される。
この制度は、両親が協力して育児を行うことを支援し、職場復帰のタイミングを柔軟にするために設けられている。
育児休業は雇用形態によって取得要件がある
産前産後休業は、正規雇用社員はもちろん、パートやアルバイトなどを含めて、全ての女性が取得できるのに対し、育児休業には、労使協定によって以下のような労働者は適用が除外されることがある。
- 会社における雇用期間が1年に満たない労働者
- 育児休業の取得期間中に雇用が終了する労働者(期間の規定あり)
- 1週間のうち、会社で働く期間が2日以下の労働者
また、有期契約の労働者の場合は、一定の要件を満たせば育児休業を取得できる。
社員の妊娠から育児までのサポートの流れ
社員が安心して出産や育児に取り組み、安心して復職できるようにするためには、企業側に産前産後のさまざまなサポートが求められる。以下では、企業側が行う具体的なサポートを紹介する。
妊娠の報告と相談の窓口等の設置
社員が妊娠を報告し、相談できる専用の窓口の設置が求められる。妊娠に関する健康管理や勤務条件の調整について、迅速に対応するための体制を整えることで、社員は安心して出産や育児ができる。
また、産業医や人事担当者との定期的な面談を設定し、個々のニーズに応じたサポートを提供すれば、社員の負担を軽減することができる。
妊娠中の通勤や職場での過ごし方のフォロー
妊娠中の社員が安全に通勤し、快適に職場で過ごせるように、企業側は以下のようなフォローを行う必要がある。
- 通勤時間の短縮や混雑を避けるためのフレックスタイムの導入
- 座りやすい椅子の提供や休憩スペースの確保など、職場環境の改善
産前産後休業のサポート
産前産後休業を円滑に取得できるように、企業側は適切なサポートを求められる。社員が休業を取得する際には、必要な手続きの申請などを支援し、休業中の給与や福利厚生についての情報を提供する。また、休業期間中の連絡体制を確保し、復職時にスムーズな業務復帰を支援するための復帰プラン作成が大切だ。
育児休業のサポート
育児休業の取得を支援するために、企業は柔軟な勤務制度や育児支援制度を整備する必要がある。育児休業中の収入補填策や、育児休業から復帰する際のキャリアサポートを提供することで、社員が安心して育児に専念できる環境を構築できる。
また、育児休業後の職場復帰に際しては、業務内容や勤務時間の調整を行い、スムーズな復職を支援する。
育児とキャリア形成の両立支援
育児とキャリア形成を両立させるために、リモートワークやフレックスタイム制度を活用し、柔軟な働き方を支援するなど、継続的なサポートが欠かせない。また、育児休業中や復職後のキャリア開発プログラムを提供し、社員が長期的に成長できる環境整備が求められる。
産前産後休業に関係した給付金と経済的支援4つ
産前産後休業時には、ハローワークや各市町村などへの申請によって、非課税の一時金や給付金を受け取ることができる。ここでは、産前産後休業に受けられる経済的な支援について紹介する。なお、産前・産後休業や育児休業中に受給できる一時金等の金額計算に関しては、「女性にやさしい職場づくりナビ」の自動計算ツールが役立つだろう。
各種給付金の自動計算ページ:https://www.bosei-navi.mhlw.go.jp/leave/leave2.html
1)出産育児一時金
子ども一人の出産につき、42万円の一時金が支給される制度だ。もちろん、双子出産の場合には、二人分に当たる84万円の出産育児一時金を受給できる。
要件としては、健康保険への加入が義務付けられている。妊娠している期間が22週に達していないなどの場合は、支給額が1万6,000円減額される。相談に関しては、協会けんぽや健康保険組合、在住の市区町村役場が利用できる。
出産育児一時金には、出産を行う医療機関などへの直接支払制度が適用されており、支給額を活用して出産にかかる費用を支払うことができる。
2)出産手当金
産前産後期間に会社を休業している女性は、直近1年間の給与月額から算出した1日の給与相当分の3分の2の出産手当金を、期間中毎日受給できる。要件としては、健康保険の加入が義務付けられているが、退職後に健康保険を任意継続している場合は対象外となる。
被保険者期間が1年未満の場合には支給額の計算方法が変わるため、不明点については、協会けんぽや健康保険組合への確認が可能である。
3)育児休業給付金
出産した後に、1歳未満の子どもの養育を目的とした育児休業を取得した場合には、育児休業給付金が支給される。受給金額は、会社を休業する前の給与の67%相当額だが、育児休業の期間が半年を経過した時点で支給額は50%に減額される。
育児休業給付金の受給要件は、原則として休業開始前の2年間で1年以上の雇用保険加入が必要であるが、条件が緩和されるケースもあるため、状況に応じて確認が必要である。また、育児休業期間中に退職した場合には、給付金の支給も停止される。
育児休業給付金は、子どもが1歳6ヵ月または2歳になる前日まで支給延長が可能な要件もあるため、支給詳細や不明点については、最寄りのハローワークに確認するか、厚生労働省の「Q&A~育児休業給付~」を参考にしてもらいたい。
4)産前産後休業期間等の社会保険料支払い免除
産前産後休業や育児休業の期間中は、健康保険や厚生年金保険といった社会保険料の支払いが免除されるため、健康保険組合や年金事務所に申請するとよい。同様に、産前産後休業期間中の給与支給がなければ、雇用保険の支払いも免除される。
産前産後休業に関するQ&A
産前産後休業は何日間ある?
日本では、産前産後休業について労働基準法第65条で定められている。産前休業は出産予定日の6週間前から取得可能で、多胎妊娠の場合は14週間前からとなる。一方、産後休業は出産翌日から8週間と義務付けられているが、産後6週間を経過した女性が希望し、医師が認めた場合には仕事に復帰することもできる。
産前産後休業は有給か?それとも無給か?
産前産後休業期間中の賃金支払いについて、法律上の義務はない。ノーワーク・ノーペイの原則が適用されるため、通常は無給となる。ただし、健康保険から「出産手当金」が支給され、出産日前42日(多胎妊娠ならば98日)から出産後56日までの期間に対して支給される。また、企業の就業規則により、産前産後休業中に賃金が支払われる場合もある。
産前産後休業は義務なのか?
産前産後休業は女性労働者が請求した場合、使用者はこれを認めなければならない。産前休業は労働者の希望に基づいて取得するものであるため、企業側に付与の義務はない。しかし、産後休業は法律で義務付けられており、申請がなくとも出産後8週間は就業が禁止されている(労働基準法第65条)。
産前産後はいつまで働けるか?
産前休業は、出産予定日の6週間前から取得可能でだが、対象の女性が希望するならば、出産日まで働くこともできる。産後は、出産から8週間は基本的に仕事をしてはならず、医師の許可がある場合を除いて産後6週間は必ず休業が必要だ。
産前産後休業や復職に関する適切なサポートを行い、社員のキャリア構築を促進
産前産後休業期間中、社員は、生活面はもちろん会社でまた同じように働けるのかといった不安を抱えやすい。企業側は、産前産後休業期間中はもちろん、妊娠期間中や出産後の職場復帰にいたるまで社員への配慮が必須である。
産前産後休業中などに支給される、出産育児一時金や育児休業給付金などについて社員に周知し、社会保険料支払いの免除申請などの申請サポートをすることで、社員に安心して出産・育児に専念してもらえる環境の構築を心がけよう。
産前産後休業を経た後も、社員が引き続き活躍してキャリア構築できるような仕組み化ができれば、社員の定着率向上も期待できるだろう。
文・隈本稔(キャリアコンサルタント)
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