1982年公開のSF映画『ブレードランナー』をご存知だろうか? 2019年のロサンゼルスを舞台にハリソン・フォード演じるブレードランナー(専任捜査官)のリック・デッカードが、人間社会に紛れ込もうとする脱走レプリカント(人造人間)を次々と処分していくうちに、「人間とレプリカントを分けるものは何か?」という大きな疑問に直面するというストーリーだ。筆者は中学時代にVHSのセルビデオを購入して擦り切れるまで繰り返し観たお気に入りの映画の一つだ。
ある意味人間以上に人間らしいレプリカントの悲しい宿命にも心を打たれたが、当時の筆者が最も衝撃を受けたのはリドリー・スコット監督が描いた「未来の世界」だ。「30年後にはこんなことになっているのか!?」と、人間とテクノロジーが創り上げたディストピアを怖いもの見たさと好奇心から覗き込んでいた。
現実の世界では2021年になってもレプリカントは存在せず、人類が他の惑星を植民地にしていることもない。だが一つだけ、映画の予想が的中しそうなものがある。「空飛ぶクルマ(Flying Car)」だ。今回はアーバン・エアモビリティ(UAM=空の都市交通システム)の実現を目指し、スタートアップから大手自動車メーカーまで開発競争を繰り広げる空飛ぶクルマ市場についてリポートする。
大手自動車メーカーも参戦する「空飛ぶクルマ」開発競走
「空飛ぶクルマ」の構想は、長きにわたり人類を魅了してきた。1917年に米航空宇宙エンジニア、グレン・カーチスが発表したアルミニウム製のオートプレーンが、世界初の空飛ぶクルマの原型と言われている。これは40フィート(約12.2メートル)の機体に3つの翼を備えた、クルマとヘリコプターを融合させたような代物で、数回の小飛行に成功した。だが、他にも複数のモデルが開発されたものの、実用化できるほどのレベルに到達したものはなかった。
ところが近年のテクノロジーの進化により、空飛ぶクルマの実用化が急速に現実味を帯び始めている。その火付け役となったのは、米配車サービスのウーバー・テクノロジーズが2016年にホワイトペーパーを発表した空飛ぶタクシープロジェクト「ウーバー・エレヴェート」だ。これはeVTOL(電動垂直離着陸機)を利用し、空の配車サービス「Uber Air Taxis」の実現を目指すというものだった。