「おかえりなさい」「ただいま。いや、すごかったよ、今日のクライアント。車庫にはアストンマーチン2台とジャガーが1台あったよ」帰宅した夫が興奮気味にそう言った。どうやら商談は上々のようだ。その日、彼は仕事でクライアント宅を訪問したのだが、まるで「美術館のような邸宅」でびっくりしたという。吹き抜けの開放的なリビングに螺旋階段、ステンドグラス、温水プール。そして、車庫にはアストンマーチン2台とジャガー1台。クルマ好きの彼にとっては「オーマイガッシュ!」である。そのクライアントは国内外の投資用不動産を精力的に物色中ということだった。

それにしても、奇妙な状況だ。新型コロナ禍で多くの友人・知人が経済的苦境に立たされる一方で、投資用不動産を物色する人もいる。でも、それが現実である。久しぶりの外出でリフレッシュしたのか、夫は無邪気に話していたが、筆者としては何とも複雑な気持ちになった。

筆者が住むオランダに限らず、新型コロナを背景とした貧富格差は世界的に拡大する傾向にあるようだ。英国の非営利団体OXFAM(オックスファム)が2021年1月に発表したレポートによると、世界のビリオネア(純資産10億ドル=約1065億7914万円以上保有する層)の総資産は2020年3月18日から12月末の9カ月間で3兆9000億ドル(約415兆6586億円)増加し、合計11兆9500億ドル(約1273兆6458億円)に達した。一方、世界銀行は2021年までに極貧困層(1日1.90ドル=約203円以下で生活している層)が合計1億5000万人に増えると予想している。極貧困層が増加するのは実に20年以上ぶりだという。

注目されるのは、富裕層や大企業を対象とする「富裕税(Wealth Tax)」の導入・強化を求める声が世界各国で高まっていることだ。そこには新型コロナ禍による貧富格差(コロナ格差)を背景に、持続不可能な社会状況が生まれつつあるとの危機感がある。今回はコロナ格差と富裕税について考察したい。

新型コロナ禍、貧困層の「経済的損失」回復には10年以上かかる?

富裕層,税金
(画像=J.BOY / pixta, ZUU online)

OXFAMの調査によると、ジェフ・ベゾス氏やビル・ゲイツ氏など「世界で最も裕福な10人の総資産」だけでも、9カ月間で5400億ドル(約57兆5404億円)増えたとしている。そしてこの5400億ドルがあれば、新型コロナに起因する貧困を食い止め、すべての人々が(新型コロナの)ワクチンを受けることができると指摘している。ちなみに、2020年9月にベゾス氏が保有していた資産は、アマゾンの全従業員87万6000人にそれぞれ10万5000ドル(約1119万円)のボーナスを支給しても、パンデミック以前と同等の資産が残る計算になるという。