「現在の株価はバブルでしょうか?」筆者が主催するFund Garageでは、最近そのようなご相談を多く頂戴している。セミナーなどで頂く質問でもやはり一番多い。ちょうど1年前の2020年3月に世界中の株価が大きく下落した記憶がまだ生々しく、単純に高所恐怖症になっている人が多いからかも知れない。或いはその後のリバウンドで「儲け損なった」という想いがあり、今度何かあったらうまく立ち向かいたいと思っているからなのかも知れない。理由はどうあれ、現在の株価水準は多くの投資家(機関投資家も個人投資家も同様)にとって居心地が悪いようだ。

ならば筆者自身はどうかというと個人的には非常に心地良く思っている。勿論、自分自身の資産も最近のボラタイルなマーケットに無縁ではない。だがそれがどこかでストレスになっているかと言えば全くそんな事は無い。そんなマーケット環境だと思っている。また、そもそもこうしたマーケットで心穏やかでいられないようなポートフォリオの組み方はしていない。当然、投資環境の分析は昔から変わらずの習慣であり、日課でもあり、自らの専門領域なので、自分の概ね想定通り(100%当たるなんてことは有り得ないので)に推移していることに寧ろ満足しているとも言える。

プライベートバンカーに求められる「最重要ミッション」の一つ

富裕層ビジネス,金融
(画像=DmitriyRazinkov / pixta, ZUU online)

ただこんなことを言えるのも、職人が職人として35年も続けてきた仕事の延長線上だからこそであり、一般の方に同様の事を求めるのは無理だろう。だが、プライベートバンカー(以下、バンカー)に求められる「最重要ミッション」の一つは、ある意味では今の筆者と似たような境地をお客様に提供すること、若しくは資産が市場リスクに晒されていることさえもお客様に感じさせないことだと言える。勿論バンカーが担当しているのだから、何らかの金融取引があり、それが市場リスクに晒されている筈だ。だがもしそれでもお客様にストレスを感じさせず、寧ろ心地良いと感じて貰えるならば、これ以上のカスタマーエクスペリエンスはない。

余談になるが、超富裕層はそんな市場リスクなどの下世話な話題から離れる為にも、コストを掛けてでも資産管理会社を作ったり、「番頭さん」と呼ばれる財務顧問を置いたりして一歩離れていることが多い(実はこうした仕事もバンカーの重要な役割のひとつではある)。筆者は前職時代からその「番頭さん」と呼ばれる職責の方を何人か存じ上げているが、超富裕層に対する細やかな心配りはいつも驚くばかりだ。実は彼ら「番頭さん」の前職がバンカーだったりするから納得してしまう。バンカーの意図も、お客様(超富裕層)の意図も両方が分かっているからこそ出来る振る舞いであることが多い。難点がもしあるとすれば、それはその「番頭さん」を担当するバンカーが怠惰で出来が悪い場合だ。何故なら、番頭さんからのリクワイヤメント水準は決して低いものではなく「なんちゃってバンカー」などあっという間に切られてしまうからだ。

超富裕層に「ストレスをかけない資産運用」

では、お客様(超富裕層)にストレスをかけない運用とは如何なるものか。そもそもお客様がストレスを感じるとはどういうことか。究極の答えはその投資が成功しない可能性を感じる、或いは損失が発生しそうだと感じることだ。だから市場が不安定になって来ると、ハラハラドキドキしてしまうのだろう。一方でその変動の中に収益機会を見つけて楽しむことが出来る人も居る。「この下げは絶好の買い場では無いかな?」とISSヘッドの筆者に直接お電話を頂くような超富裕層もいらっしゃった。正に市場変動を楽しんでおられるのだ。そういう方は寧ろ市場が単調だと「面白くない展開ですね」と電話を頂戴したりする。正にその辺りは富裕層によって十人十色だ。