2021年4月16日、ホワイトハウスでの日米首脳会談後に発表された「日米共同声明」は、台湾に歓迎と好意をもって迎えられた一方で、中国の逆鱗に触れることとなった。中国は、台湾、香港、新疆ウイグル自治区問題への言及を「内政干渉」とし、断固として撥ねつけると同時に、「必要なすべての措置をとる」と対戦的な構えだ。果たして、中国の報復は現実となるのか。

中国の逆鱗に触れた「日米共同声明」

中国激怒?「日本は米国の邪悪な共犯者」 逆鱗に触れた日米共同声明の行方
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声明文の内容は、「自由で開かれたインド太平洋を形作る日米同盟」、イノベーションから新型コロナ感染症対策、国際衛生政策、健康安全保障、グリーンな世界経済の復興などのビジョンを示す、「新時代における同盟」を宣言するものだった。

中国が強く反発しているのは、「日米両国は、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す」「日米両国は、香港及び新疆ウイグル自治区における人権状況への深刻な懸念を共有する」の二ヵ所である。

日米が共同声明に台湾を盛り込んだのは、日中国交正常化(1972年)以来約50年 ぶりだ。これまで中国との対立に消極的だった日本が、米国と組んでインド太平洋の平和に動き出した。これは中国にとって、決して歓迎すべき動きではない。他国から「内政」に口出しされるだけでも面白くないはずだが、相手が最大の対立国である米国、そして米国に肩を押される形で重い腰を上げた日本となれば、なおさら、牙をむかないわけにはいかない。

中国、日本に警告 「必要なすべての措置を講じる」

中国共産党の機関紙「人民日報」のタブロイドである「環球時報」は、「米国の邪悪な共犯者」「中国の発展に羨望、嫉妬、憎悪しており、中国を封じ込めようとしている」などと、日本を厳しく批判している。第二次世界大戦以降、日米は「外交面で強い主従関係にある」とし、強調したのは日本が米国に抵抗できない立場である点だ。

さらに、1940年に日本、ドイツ、イタリア三カ国で発足した攻守軍事同盟「日独伊三国同盟」を引き合いに出し、「アジア太平洋地域の平和に致命的な破壊をもたらす軸になろうとしている」と糺弾している。「台湾問題から距離をとらない限り、巻き込まれて身を滅ぼすことになる」と警告した。

一方、中国外務省が首脳会談後に明らかにしたのは、「中国の国家主権や安全保障等の断固たる擁護に向け、必要なすべての措置を講じる」意向である。「日米共同声明は中国の内政を著しく妨害し、国際関係の基本的規範に深刻な違反を犯している」「日米同盟は自由と開放を説いているが、実際には集団を形成して小さな輪を形成し、集団対立を引き起こしている」などと批判している。また、日米両国に対し、「中国の懸念を真摯に受け止め、中国の原則を遵守し、中国の内政への干渉、および、中国の利益を害する行為を直ちに停止するよう」要求した。

習近平国家主席は共同声明から4日後、オンライン国際会議で沈黙を破った。慎重に日米を名指しにすることは避けながらも、「一国主義で世界を扇動すべきではない」「他国に指図し内政に干渉しては人心を得られない」などと日米をけん制した。

日本への対応 武力行使より経済制裁?

懸念されているのは、「必要なすべての措置」という表現だ。現時点において、中国は具体的にどのような「措置」を検討しているのかについては明らかにしていない。しかし、現在の日米中のバランス関係を考慮すると、「単なる威嚇」と受けとめるのは楽観的過ぎる。

たとえば、中国による台湾侵略が現実となった場合、米国は駐日米軍を派遣する可能性がある。そうなれば、沖縄基地などが中国の標的となり、日本が戦場と化すシナリオが想定される。しかし、実際にそのようなことが起こり得るのだろうか。中国側は一貫して「日中平和友好条約」の遵守を主張しており、今のところ、日本と決定的な一線を超えるつもりはないという印象を受ける。

まずは、日本政府への圧力を強める形で様子見し、板挟みの日本がどちらに傾くかによって対応の仕方を決めるのではないだろうか。何らかの制裁措置があるならば、武力行使ではなく経済的な措置になる可能性がある。

近年の例として、韓国製品のボイコットやビジネスビザの韓国人への発給制限などが挙げられる。これは2016年、米国が開発した「ターミナル高度地域防衛ミサイルシールド(THAAD)」を在韓米軍への配備を発表したことを受け、中国が「朝鮮半島の平和と安定の維持に不利である」ことを理由に、韓国に対して経済的制裁を加えたものだ。他にも、オーストラリアに課しているような輸入規制や、トランプ前政権下で繰り広げた追加関税など、さまざまな措置が考えられる。

日本にとって中国は、輸出入総額の約2割を占める重要な貿易相手国であり、約1万3600社の日本企業が進出するビジネス相手国でもある。中国関連ビジネスに携わる企業は3万社に及ぶ。いずれの報復も、痛手になることは疑念の余地がない。

「内政干渉」ではなく「国際問題」

中国が「内政干渉」と反発している問題は、今や「国際問題」だ。日米のみならず、欧州諸国やオーストラリア、カナダなど、多数の国が対中制裁に乗り出している。5月に予定されている菅首相のフィリピンとインド歴訪は、対中けん制を強化する狙いもあるようだ。日米共同声明が口先ではないことを裏付ける動きではあるが、日本がどこまで中国の脅威に立ち向かえるのか、また本当に戦闘準備が整っているのか、一抹の不安は拭えない。

文・アレン琴子(オランダ在住のフリーライター)

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