預金金利の長期低迷や金融商品の多様化、各種の法改正などを受けて、投資を始める人は年々増えています。しかし、実際に利益を得ている人は、それほど多くはありません。たとえば金融庁が公表したデータでは、2018年3月時点に調査対象となった29の投資信託を保有していた顧客の、実に46%が損失を抱えています。

ところが、株価のバロメーターである日経平均は、短期的な変動はありながらも年を追うごとに上昇し続けています。2011年の始値1万398.1円に対し、2015年始値は1万7,408.71円と5年で約1.67倍に、2020年始値では2万3,204.86円と9年間で約2.2倍にまで値上がりしています。

多くの株価は時間とともに値上がりするにも関わらず、約半数の個人投資家が損をしているのはなぜなのでしょうか。株取引で効率良くリターンを得るための思考法について解説します。

目次

  1. どうすれば「お宝銘柄」を見分けられるのか
    1. 宝くじで「儲かる」確率は?
    2. 「勝ち負け」よりも「期待値」の高さを重視する
    3. 将来の「益回り」で期待値を見極める
  2. 勝つ確率を高める長期投資・分散投資
    1. 勝つ確率を高めるための長期投資とは
    2. 勝つ確率を高めるための分散投資とは
  3. 「損小利大」の思考法
    1. 利食い千人力
    2. 見切り千両
    3. 「空振り三振」より「見逃し三振」すべし?
  4. 「心の癖」を知る
    1. ディスポジション効果
    2. 逆張り
  5. 「二次的思考」のすすめ

どうすれば「お宝銘柄」を見分けられるのか

平均株価が上がっているからといって、もちろんすべての銘柄が一律に値上がりするわけではありません。たとえば2019年の日経平均は2万3,014円から2万3,656円と2.8%の伸びを示しました。時価総額3,000億円以上の大型株に限っても、レーザーテックが+245%、ジャストシステム+185%、ワークマンが+160%など、10の銘柄が倍以上も値上がりしています。

もちろんその一方で半分以下に下落した銘柄も多くあります。では、どうすれば「お宝銘柄」を発掘できるのでしょうか。そもそも株取引に「絶対儲かる必勝法」などは存在しません。それでも、上昇株を見分ける確率を高めることは不可能ではありません。

また、すべての株で利益を出す必要はありません。損益を合計してプラスになっていれば、投資としては成功なのです。ここで重要なのは、「期待値」という概念です。

宝くじで「儲かる」確率は?

世の中には数多くの「宝くじ必勝法」が存在しますが、宝くじが「当たる」確率ではなく、宝くじで「儲かる」確率はどのくらいなのでしょうか?

たとえば2020年9月発売の「ハロウィンジャンボ宝くじ」の1等賞金は3億円ですが、発売総数1.1億本のうち1等本数は11本なので、「当たる確率」はおよそ1,000万枚に1枚です。1枚の当たりくじを確実に手に入れるためには、300円×1,000万枚=30億円が必要ということになります。

では、「1万円分の宝くじを買えば当選金はいくらになるのか?」を確率的に考えてみましょう。宝くじ事業の受託銀行である、みずほ銀行が過去に公開したデータによれば、売上金に対する当選金の率は45.7%(2008年度)です。つまり、1万円分の宝くじで得られる当選金の平均は4,570円となります。

もちろん、1等が当たる確率も、ごくわずかではありますがゼロではありませんし、1万円の購入を繰り返せば繰り返すほど、当選金の平均は4,570円に近づいていきます。このような「発生する値の平均値」のことを「期待値」といいます。投資原本よりも見込まれる期待値が低い取引を繰り返せば、損失ばかりが増大していくことになります。

宝くじの購入代金は、抽選まで「夢」を見る対価と考えることもできますが、それは投資とは呼べません。運任せで売買するのではなく、期待値の高い取引を繰り返して確実にプラスを生まなければ、長期間の投資を続けることは困難になるでしょう。

「勝ち負け」よりも「期待値」の高さを重視する

そもそも投資と、宝くじを含むギャンブルとは、期待値の大きさにより根本的に区別されます。

宝くじは正式には「全国自治宝くじ」といい、売上金から当選金を差し引いた残りが各都道府県や政令指定都市に分配され、インフラ整備や医療・教育などに使われています。競馬や競輪、ボートレースなどの公営競技も、その売上を国や自治体の行政資金となることを目的としています。日本中央競馬会(JRA)など競技主催者は売上から一定率を控除した上で、当選者に配当を行っています。

公営競技の控除率は通常は25%となっていますので、購入者の期待値は賭け金の75%ということになります。宝くじや公営ギャンブルの期待値が賭け金を超えることは、原理的にはありえないのです。

ところが株式の場合は、期待値が投資額の100%を上回ることがありえます。株価は相場での需給関係や、相場全体の強弱などの「テクニカル要因」にも左右されますが、それ以上に企業の業績や財務、将来性などの「ファンダメンタルズ」の影響を強く受けます。

ファンダメンタルズが強い銘柄は、一時的には相場の需給により下振れしたとしても、長期的には値上がりを続けます。競争力の高いビジネスモデルを有する企業であれば、中長期的投資の期待値は投資額を超えると考えられるのです。

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将来の「益回り」で期待値を見極める

ファンダメンタルズを表す指標の代表格といえば「PER(株価収益倍率)」です。PERはその企業の株価を、当期純利益を発行株式数で割った「EPS(1株当たり純利益)」で割ったものです。EPSの何倍まで株価が買われているかを見ることで、その株価が割高なのか割安なのかを判断する目安となり、PERが小さいほど割安と判断されます。

PERの逆数(1÷PER)にあたるのが「株式益回り」です。PERが25倍なら益回りは4%となりますが、この数値が高いほど株価は割安と判断され、将来の値上がりが期待できるとされています。

2020年8月末に、「投資の神様」と称されるウォーレン・バフェット率いるバークシャー・ハザウエイが、初めて本格的に日本株投資に乗り出したことで話題となりました。伊藤忠商事など総合商社5社の株を5%以上保有し、この情報が市場に伝わった31日以降、商社株は一斉に上昇しました。

日経平均225種の平均益回りは4.50%なのに対し、商社株の益回りは相対的に高く、たとえば三菱商事の株式益回りは13.6%です。バフェット氏は総合商社銘柄を割安と見込み、出資に踏み切ったものとみられ、今後は最大10%までの出資を目指すと表明しています。

しかし、高益回りの銘柄がすべてお買い得であり、低益回り銘柄は割高なのかといえば、そうとも言い切れません。公表されている益回りはあくまでも現時点での数値です、現在は高益回りだとしても、業績が悪化すれば益回りが低下する可能性もあります。

つまり、大切なのは「将来の益回り」です。現在が低益回りの株でも、業界の将来性を見込み、買いを入れる投資家も少なくありません。いかに見通すかが投資家としての腕の見せ所です。証券会社のアナリスト・レポートや、企業のプレスリリースなどにしっかり目を通し、将来性を見極める眼力を養いましょう。

勝つ確率を高める長期投資・分散投資

期待値の高い銘柄を見つけたとしても、必ずしもその目利きが正しいとは限りません。また、短期間で結果が出るわけでもありません。期待値と結果を結びつけるカギとなるのが、長期投資と分散投資です。

勝つ確率を高めるための長期投資とは

期待値の高い株でも、短期的には相場の波にもまれて下落することも珍しくありません。ただし多くの場合、時間の経過により下落分は回復していきます。半年や1年といった短期間で売買を繰り返すよりも、3年から5年、さらには10年と投資スパンを伸ばしていくほうが、下落リスクを平準化しやすくなります。

たとえば野村アセットマネジメントが販売する「TOPIX連動型上場投資信託」の2015~19年の基準価額(1万口当たりの金額)を例に取ると、2018年は年初が191,902円、年末が155,166円と約2割の下落となっていますが、5年間の平均リターンは3.23%、さらに10年で9.46%といずれも伸びています。1年単位でマイナスになることはあっても、中長期はプラスに転じることが多いのです。

勝つ確率を高めるための分散投資とは

投資信託の運用実績は、以前は基準価格の上昇率や、ファンド全体の値上がり幅から販売手数料を差し引いた「トータルリターン」で見ることが一般的でした。しかし、投資家ごとに投資信託の購入タイミングは異なるため、一人ひとりの損益を表すものではありませんでした。

そこで金融庁は投資家保護を目的に、2017年から不特定多数の投資家が実際に手に入れたリターンの平均値の近似値となる「インベスターリターン(IR)」を公表するようになりました。一般的に個人投資家は高値づかみしやすいため、IRは基準価格上昇率を下回るとされています。

それに対し確定拠出年金(DC)では、過去10年の基準価格上昇率が4.2%なのに対し、IRは5.7%と基準価格上昇率を上回るリターンが出ています。

DC専用投資信託は、毎月ごとの定額積立を基本としています。そのため基準価格が下がれば多くの投資信託が購入され、上がれば購入数は少なくなり、結果として高値づかみのリスクが低減されています。このように一定額の投資を続けることで一時的な価格変動のリスクを分散させる手法を「時間分散」といいます。

行動経済学の研究では、長期分散投資を実践する個人投資家の方が、短期集中投資を行う投資家よりも運用パフォーマンスも安定する傾向があり、投資満足度や幸福感、ストレスの小ささの面でも優位にあることがわかっています。

「損小利大」の思考法

「損小利大」とは「株価の下落時はなるべく早く売り、上昇時はできるだけ長く持つ」というもので、FX(外国為替)取引のように変動の激しい相場では特に重視されていますが、株式市場でも理にかなった思考法といえます。

ただし損小利大を実現するには、絶えずチャートを追いつつ相場の状況を見極めることが必要で、それほど簡単ではありません。ここでは、有名な2つの「相場格言」をご紹介します。

利食い千人力

「利食い千人力」は「まずは利益を確保することが大事」という意味の格言です。どれだけ株価が上がっても、売らなければ利益は生まれません。「××%上がったら売る」など、利益確定のタイミングをルールとして決めておくことが重要です。

見切り千両

含み損を抱えると、「いずれ値が戻るだろう」と考えがちで、ますます値が下がって売るに売られなくなり、最悪の場合は含み損を抱えたまま「塩漬け」となってしまいます。売って損失を確定するのは心理的な抵抗が大きいものですが、放置すれば損失は膨らむばかりです。損切りは勇気がいりますが、早く見切って損切りをすることで損失を小さくすることができるのです。

「空振り三振」より「見逃し三振」すべし?

野球ではボールに手を出さない「見逃し三振」するくらいなら、思い切ってバットを振り「空振り三振」するほうが次につながるという考え方が主流です。しかし、株の世界では、何でもかんでも手を出して失敗すると深手を負うことになります。

ベテラン投資家であっても、しばしば高値づかみで失敗するものです。上昇を続ける注目株に乗り遅れまいと手を出したら、そこが株価の天井だったということも珍しくないのです。

迷って手を出さない「見逃し三振」なら、損失はありません。急上昇銘柄がマーケットの注目を集めるころには、多くの場合は天井に近づいています。見逃して待っていれば、望ましい価格で買えるタイミングが訪れるかも知れません。

「心の癖」を知る

投資において利益を上げるには、取引を行わなければなりません。株は買うだけでなく、売ってはじめて利益が確定します。この取引をいつ行うのか。なにを買うのか。これらを決める時に大きく影響するのが投資家の心理状態でしょう。この心理状態を理解するため、人の“心の癖”を知っておきましょう。

ディスポジション効果

どんなに合理的な人でも、判断や嗜好には万人共通の癖=心理的バイアスが影響します。それは投資であっても同様です。

よく知られている心理的バイアスに「保有効果」があります。人には自分が所有している物の価値を、それを所有していないときよりも高く感じる癖があり、その物を手放すことに強い抵抗を感じます。長く所有すればするほど保有効果は高まるといわれています。

株取引では「ディスポジション効果」がこれと似ています。投資家は絶えず不安心理に駆られているので、上昇した株をすぐ売りたくなりますが、逆に値下がりしたときはなかなか手放せなくなるのです。

残念ながら、バイアスそのものを消すことはできません。それでもバイアスの存在を知ることで、自分の心理をうまくコントロールすることで、投資の成功確率も高まることでしょう。

逆張り

マーケットでは買いがさらなる買いを呼び、売りが売りを呼ぶという状況がしばしば現れます。群集心理はときに相場を極端に過熱させますが、過熱のあとには過度な冷却が訪れがちです。

この流れに乗る「順張り」は、いわば投資スタイルの王道であり、多くの機関投資家の基本スタンスといえます。投資ファンドがしばしば採用する「トレンドフォロー」は、「上昇基調なら買い、下落基調なら売る」運用法で、まさに順張りそのものです。順張りは大きな失敗もしにくい代わりに、大きな成功の可能性も小さくなります。

一方で、資金力などで見劣りする個人投資家が、機関投資家を上回る運用実績を上げるとき、多くの場合は「逆張り」戦略が採られています。2020年3月から4月にかけての世界的な経済活動の低下で株式相場も急落しました。そのようななかでこのタイミングで「逆張り」を行い、大きな利益を上げた個人投資家も少なくありません。

千利休が詠んだともいわれる句に「人の行く裏に道あり花の山 いずれを行くも散らぬ間に行け」というものがあります。ときにはリスクを負ってでも「人の行く裏」を歩く者だけが、並外れた成果を手に入れるのかも知れません。

「二次的思考」のすすめ

アメリカの投資家ハワード・マークスは著書『投資で一番大切な20の教え』で、投資で成功するための秘訣として「二次的思考」の重要性を説いています。二次的思考とは、目の前の課題解決について思考をめぐらせるだけでなく、解決後の長期的な影響についても熟慮するといった、思考のあり方のことです。

長期的な投資では、相場の急激な変動や、持ち株に影響を与えるような事件・出来事といったピンチがしばしば訪れます。このようなとき、人は直感的に解決策を思いつくと、すぐさま実行に移したくなるものですが、その解決策で本当に乗り切れるのかも、それが長期的にどんな影響を及ぼすのかも、まったく定かではありません。

そんなとき、はやる感情を抑えて二次的思考を行うことで、より多面的な検証が可能になるとマークスは説いています。二次的思考の結果、何もしないことが最善の解決ということもありえますが、その間に行われた検証が次のアクションへのヒントもたらしてくれることもあります。

この記事で紹介した思考法や手法は、すべてが二次的思考の産物といっても過言ではありません。遠回りのようでも、二次的思考は投資成功への近道なのかも知れません。

野口 孝雄
上場企業(大手日用品メーカー)にて、事業戦略・財務に携わる。とくに財務部門所属時には、株主総会運営・決算開示を経験、経営分析の力をつける。個人としての投資経験に合わせ、「投資される」企業側からの視点を加味した、独自の切り口によるコラムを真骨頂としている。

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