株式投資を始めようと考えたとき、銘柄の特徴のほかに、株式市場の種類や仕組みについて知っておくことも必要です。

  • 株式市場には「発行市場」と「流通市場」の2種類がある
  • 一般的に株の取引を行う「株式市場」と呼ばれているのは「流通市場」。ここに「東証一部」「東証二部」などと呼ばれる市場が存在し、それぞれに上場している銘柄が異なる

ここでは株式市場の種類や、各市場の違い、株式市場が開いている時間、初心者がどの市場の銘柄を選ぶべきかについて紹介します。

目次

  1. 1.日本国内の証券取引所と株式市場
    1. 1-1.東京証券取引所(東証)
    2. 1-2.名古屋証券取引所(名証)
    3. 1-3.札幌証券取引所(札証)
    4. 1-4.福岡証券取引所(福証)
  2. 2.そもそも株式投資とは?株式投資の仕組みと基本
    1. 2-1.株式投資の仕組み
    2. 2-2.「流通市場」と「発行市場」の違い
    3. 2-3.「上場」とは?株式会社で「上場」するための要件
  3. 3.株式投資の初心者が取引をしやすい市場は?
  4. まとめ:市場を知れば株式の世界をより深く理解できるようになる

1.日本国内の証券取引所と株式市場

2020年11月現在、日本には株式を売買できる証券取引所が4つあります。証券取引所ではさまざまな商品が取り扱われていますが、このうち「株式」の売買を行う市場を「株式市場」と呼びます。

日本にある証券取引所は「東京証券取引所」「名古屋証券取引所」「札幌証券取引所」「福岡証券取引所」です。かつては大阪証券取引所なども存在しました。一例として大阪証券取引所は東京証券取引所グループと2013年に経営統合されてできた、日本取引所グループ傘下の市場として、「大阪取引所」という名称で先物などのデリバティブ(金融派生商品)専門の取引所として機能しています。

ここでは、2020年11月現在の日本国内の証券取引所と、それぞれの特徴について説明します。

1-1.東京証券取引所(東証)

項目\市場名 東証一部 東証二部 マザーズ JASDAQ※
スタンダード
株主数 800人以上 400人以上 150人以上(上場時までに500単位以上の公募を行うこと) 400人以上
流通株式(上場時見込み) 流通株式数 20,000単位以上 2,000単位以上 1,000単位以上 2,000単位以上
流通株式時価総額 100億円以上 10億円以上 5億円以上 10億円以上
流通株式数(比率) 上場株券等の35%以上 上場株券等の25%以上 上場株券等の25%以上 上場株券等の25%以上
時価総額(上場時見込み) 250億円以上
事業継続年数 新規上場申請日から起算して、3ヵ年以前から取締役会を設置して、継続的に事業活動をしていること 同左 新規上場申請日から起算して、1ヵ年以前から取締役会を設置して継続的に事業活動をしていること 同左
純資産額(上場時見込み) 連結純資産の額が50億円以上(かつ、単体純資産の額が負でない) 連結純資産の額が正 連結純資産の額が正
※JASDAQグロース内国株については、2020年11月現在、新規上場等を停止
【出典】日本取引所グループ 東京証券取引所:上場審査基準

東京証券取引所は「東証(とうしょう)」という略称で呼ばれ、日本国内で最大の証券取引所として知られています。所在地は「東京都中央区日本橋兜町2-1」です。

東京証券取引所には2020年11月現在、全部で5つの株式市場があります。本則市場(ほんそくしじょう)と呼ばれる「市場第一部」と「市場第二部」のほか、「マザーズ」、「JASDAQ」、プロ投資家向け市場とされる「TOKYO PRO Market」です。なお、現在、東京証券取引所では市場構造の在り方が検討されており、近い将来に再編が行われる可能性が高い状況です。

【参考】日本取引所グループ 東京証券取引所:「市場構造の在り方の検討
2020年11月20日時点における「上場」2-3で詳細説明)企業数は以下の通りです。(最新情報をご確認ください)

第一部 第二部 マザーズ JASDAQスタンダード JASDAQグロース Tokyo ProMarket 合計
2,177 480 332 663 37 40 3,729

以下、詳しく各市場の特徴を説明します。

(1)市場第一部

「市場第一部」は一般的に「東証一部」と呼ばれます。東証一部に上場するための形式的な要件としては、上場時に見込みベースで流通額が250億円以上であること、連結純資産の額が50億円以上であること、直近2年間の利益額が総額25億円以上であること、などが挙げられます。

有価証券報告書などに虚偽記載が過去2年間で発生していないことなども条件とされ、東証一部に上場している企業は大企業であり、かつ信頼性が高い企業として広く認知を得ることが可能になります。ブランド力も一気に高まる傾向にあります。

(2)市場第二部

「市場第二部」は一般的に「東証二部」と呼ばれています。東証一部よりも上場するための形式要件が一部緩く、たとえば流通株式時価総額が10億円以上であることが東証一部に上場するための形式要件との違いです。そのため、東証二部に上場している企業は東証一部に上場している企業と比較すると事業規模が小さいケースが多くなっています。

とはいうものの、東証二部も簡単に上場できるわけではありません。上場のための条件項目「虚偽記載又は不適正意見等」もすべて第一部と同じになります。東証二部に上場していることは、その企業への大きな信頼につながります。

(3)東証マザーズ

「東証マザーズ」は東京証券取引所が1999年11月に開設した株式市場です。主に「継続性」「収益性」に審査のウエートを置く東証一部と東証二部よりも、「企業の成長性」に重きをおいて上場審査が行われます。簡単にいえば、将来有望なベンチャーなどの新興企業が中心の株式市場です。

上場審査の形式要件としては、上場時の見込みベースで流通株式時価総額が5億円以上であることなどが挙げられます。実際の審査の際には、事業を不正なく公正に遂行しているか、リスク情報などについて適切に開示が行える状況かどうかなどが厳しくみられます。

一般的に、将来的に東証一部や東証二部に上場を目指す企業が東証マザーズに上場する形となります。

(4)JASDAQ

「JASDAQ」は「ジャスダック」と読みます。JASDAQは「スタンダード市場」と「グロース市場※」に分かれており、スタンダード市場では実績、グロース市場ではその企業の将来性に重きを置いた上場審査が行われます(※JASDAQグロース内国株については、2020年11月現在、新規上場等を停止)。

2020年11月1日より、JASDAQの上場審査の形式要件は、市場二部と同等となりました。たとえば、流通株式の時価総額が10億円以上であることなどが挙げられています。

(5)TOKYO PRO Market

「TOKYO PRO Market」は、日本国内で唯一の「プロ投資家向け市場」と位置付けられています。一般投資家の買い付けはできません。

1-2.名古屋証券取引所(名証)

「名古屋証券取引所」は略して「名証(めいしょう)」と呼ばれる証券取引所で、主に中部地区が地盤となっている証券取引所となっています。所在地は「愛知県名古屋市中区栄三丁目8番20号」です。

名古屋証券取引所は1949年に開設され、全部で3つの株式市場があります。具体的には、本則市場である「市場第一部」と「市場第二部」のほかに「セントレックス」が設けられています。「セントレックス」は、1999年にベンチャーなどの新興企業や中堅企業向けの市場として開設されました。市場第一部・市場第二部と比較すると、セントレックスは上場基準が比較的、低めになっています。

2020年11月20日現在における各株式市場の上場企業数は以下の通りです。(最新情報をご確認ください)

最終更新日 市場第一部 市場第二部 セントレックス 合計
2020/11/20 195社 83社 14社 292社

1-3.札幌証券取引所(札証)

「札幌証券取引所」は略して「札証(さっしょう)」と呼ばれています。1949年に開設されました。所在地は「北海道札幌市中央区南一条西5丁目14番地の1」です。

現在は「本則市場」と「アンビシャス市場」の2つの株式市場が設けられています。アンビシャス市場は名古屋証券取引所の「セントレックス」と同様に、中堅企業やベンチャー企業向けの株式市場という位置付けとなっています。上場時の時価総額は審査要件には含まれていませんが、今後の成長性や成長の安定性などが求められます。

札幌証券取引所の2020年4月28日時点における上場企業数は以下の通りです。(最新情報をご確認ください)

最終更新日 上場会社数 単独上場会社数※ 合計
2020年4月分 58 16 74
【出典】札幌証券取引所:上場銘柄情報
※単独上場会社数16社(本則市場8社 アンビシャス市場8社)

1-4.福岡証券取引所(福証)

名古屋証券取引所、札幌証券取引所と同様に、地方の証券取引所として知られているのが「福岡証券取引所」です。略称は「福証(ふくしょう)」、所在地は「福岡県福岡市中央区天神2丁目14番2号」です。

株式市場としては、「本則市場」と、新興企業や中堅企業向けの株式市場として2000年に開設された新興市場「Q-Board」があります。Q-Boardでは主に本社を近畿や中国、九州エリアに構えている企業が対象となっています。Q-Boardもセントレックスやアンビシャスと同様、本則市場に比べると上場基準は高くありません。

2020年10月時点における上場企業数は以下の通りです。(最新情報をご確認ください)

最終更新日 本則市場 新興市場(Q-Board) 合計
2020年10月分 93 16 109
【参考】日本の証券取引所・株式市場の立会時間は?

証券取引所ではそれぞれ「立会時間(たちあいじかん)」が決まっています。立会時間は株式の売買取引が可能な時間帯のことを指し、立会時間外では各証券取引所において取引を行うことができません。

立会時間は午前中の「前場(ぜんば)」と午後の「後場(ごば)」に分かれており、前場と後場の間にはお昼休みの時間が設けられています。日本の各証券取引所の前場と後場の立会時間は以下の通りです。

●東京証券取引所

前場:午前9時~午前11時30分
後場:午後0時30分~午後3時

●名古屋証券取引所
前場:午前9時~午前11時30分
後場:午後0時30分~午後3時30分

●札幌証券取引所
前場:午前9時~午前11時30分
後場:午後0時30分~午後3時30分

●福岡証券取引所
前場:午前9時~午前11時30分
後場:午後0時30分~午後3時30分

こうして立会時間を比べてみると、前場はどの証券取引所も立会時間が同じですが、後場は東京証券取引所のみ30分短くなっていることがわかります。取引を考えている場合は注意しましょう。
また、各証券取引所には本則市場と新興市場がありますが、株式市場による立会時間の違いはないことも覚えておきましょう。

2.そもそも株式投資とは?株式投資の仕組みと基本

株式市場の種類について具体的にひととおり知ったところで、株式市場の基本について、あらためて理解を深めましょう。

2-1.株式投資の仕組み

正式な会社名の前か後に「株式会社」という名称がついている企業が、資金を拠出してくれた人に発行する有価証券のことを「株式」と呼びます。「株式会社」はこの「株式」を発行することで資金を集め、事業を拡大することができます。

事業拡大の結果、儲かった収益の一部が株主(投資してくれた人たち、投資家)に配当金や株主優待という形で還元されます。また、事業が拡大し会社が成長するにつれ、その会社の株式も価値が上昇し、価格が上がっていくため、株を保有している株主の資産も増えていきます。

2-2.「流通市場」と「発行市場」の違い

株式市場は「流通市場(Secondary Market)」と「発行市場(Primary Market)」の2つに分類されます。

1章で見た株式市場は「流通市場」を指します。ここではこの二つの違いについて説明します。

(1)流通市場(Secondary Market)とは

「流通市場」とは、すでに企業によって発行され、広く流通している株式を売買するための市場を指します。一般的に「株式市場」と言う場合は「流通市場」を意味します。流通市場(株式市場)の中心となるのが「証券取引所」です。

(2)発行市場(Primary Market)とは

発行市場は「資本調達市場」などとも呼ばれ、企業や国が「新規に」「最初に」発行した株式や債券などの有価証券を、投資家がその株式や債券を発行した「発行者」から直接的、もしくは証券会社の仲介者などを通じて取得するための市場のことを指します。具体的な市場があるわけではなく、新規に発券された株が最初の投資家に保有されるまでの間を指します。ここから最初に保有した投資家が転売をすることで「流通市場」へその株は出回っていくことになります。

これは一般に株式が広く流通する前の取引であることもあり、株式投資家の中には「発行市場」という言葉自体を聞いたことがない人も少なくありません。また日本では発行市場は欧米に比べてマーケットとしてはあまり発達していないとされています。

2-3.「上場」とは?株式会社で「上場」するための要件

株式会社は「上場企業」と「未上場企業」に分けられます。

上場企業の株式は証券口座を開設することで、基本的に誰でも証券取引所・取引市場を通じて売買できるようになります。一方、未上場企業の株式は誰でも取得できるわけではなく、企業が創業時や事業拡大時に個別に発行したり、証券会社などを通じて取得したりする形となっています。

上場するための形式要件は、株式市場によってルールが異なります。新興市場よりも本則市場、第二部よりも第一部の方が形式要件や審査が厳しくなり、同時に信用力が高まります。日本国内では東証第一部の上場企業が最も株式市場的には信用力が高いといえます。取引量(売買高)においても、市場第二部より第一部のほうが多い傾向にあり、流動性の高さが担保されています。

機関投資家や海外投資家の中には、投資方針として投資できる企業が東証一部上場企業のみといった規定を設けているケースがあります。特に東証一部は国際的に広く知られる株式市場となっています。

【参考】重複上場とは

同じ企業の株式銘柄でも、複数の株式市場に上場しているケースがあります。このことを「重複上場」と呼びます。

一般的には、地方の証券取引所に上場した企業がその証券取引所で上場廃止をしないまま、東京証券取引所でも上場する場合に重複上場となります。

3.株式投資の初心者が取引をしやすい市場は?

初めて株式投資を行う株初心者の場合、「市場をどこにするか」は考える必要はあまりないでしょう。買いたい銘柄、応援したい企業など、自由に選んで問題ありません。

ただし、初心者が株式投資を行うひとつの目安として、以下を留意しておきましょう。

  • 初心者でも値動きがわかりやすい銘柄が豊富である市場を選ぶ
  • 出来高(流通量)が多い銘柄を選ぶ
  • 大きな利益より、値動きが比較的安定している銘柄を選ぶ

ここから、「出来高が多く、値動きなどがわかりやすい銘柄の多い市場」として、最初は東証一部に上場している銘柄を選ぶとよいでしょう。

【参考】海外の証券取引所・株式市場について

日本の証券取引所について紹介してきましたが、海外にも証券取引所があります。その一例を紹介します。株式投資に慣れてきたら、海外株の取引にも目を向けてみてください。
◆アメリカ
(1)ニューヨーク証券取引所(NYSE)
ニューヨーク証券取引所に上場している企業は約2,400社で、世界的なグローバル企業が多く上場しています。ニューヨーク証券取引所に上場していることは世界に認められた証であるともいえます。各国の取引所別の時価総額ではニューヨーク証券取引所がトップとされています。

(2)ナスダック(NASDAQ)証券取引所
米国を代表する株式市場で、米国国内における取引所別の時価総額はニューヨーク証券取引所に続き2位、世界でも2位となっています。

ニューヨーク証券取引所とは異なり、ナスダックはベンチャー企業や新興企業向けという性質があります。

このほか、中国には「上海証券取引所」「香港証券取引所」などがあります。

まとめ:市場を知れば株式の世界をより深く理解できるようになる

いかがでしたか。この記事では以下のことをお伝えしました。

  • 株式市場には「発行市場」と「流通市場」の2種類があり、一般的に「株式市場」と呼ばれるのは「流通市場」である。
  • 国内には証券取引所は4つあり、東京、名古屋、札幌、福岡に所在している。ここで株式は取引される。
  • 各証券取引所に「東証一部」「東証二部」などさまざまな市場があり、それぞれに上場基準がある。
  • それぞれの市場において、上場している企業銘柄は異なる。
  • 初心者は「出来高が多く、値動きなどがわかりやすい銘柄の多い市場」として、最初は東証一部に上場している銘柄を選ぶとよい。
岡本 一道
政治経済系ジャーナリスト。日本の国内メディアと海外メディアの両方でのジャーナリスト経験を経て、現在は国内外の政治・経済・社会・文化など幅広いジャンルにおけるトピックスで多数の解説記事やコラムを執筆。ニュースメディアのコンサルティングなども手掛ける

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