プライベートバンクが富裕層向けに提供しているメニューを特徴づける大きな要素のひとつに「私募」という概念がある。一般に新聞広告や店頭チラシなどで人々の目に触れる金融商品(有価証券や投資信託など)は「公募」という取扱いのもので、誰もが同じものを買うことができる。投資家数が1万人になろうが、10万人になろうが、誰もが同じものを買うことができる。

反対に「限定商品」とも言える取扱いになるのが「私募」という概念。「公募」ものと違い、細かく言うと50人未満の投資家の方だけが購入出来るという極めて特殊な商品だ。更に詳しく言えば、その50人未満というのは「勧誘」、すなわちお声掛けが可能な人数が50人未満ということで、購入できる人が50人未満という意味ではない。つまりお声掛けしたお客様全員が「それ欲しい」と言って下さらない限り、50人未満、すなわち最大49人の投資家枠が埋まる訳ではない。実際のところを筆者の実感で言えば20人から30人の投資家に行き渡ればかなり多いほうだと思う。

「私募」ならではの凄く尖ったタイプの商品、完全カスタマイズされた商品

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(画像=kornpixta2016 / pixta, ZUU online)

実務的な話で恐縮だが、「私募」の商品の場合、その勧誘人数の管理が商品チーム側でかなり大変になる。商品に関する説明書類には全てナンバリングがされ、どのプライベートバンカー(以下、バンカー)が、どのお客様に渡すために、何番の書類を持って行ったかを厳しく管理する。当然、使い回しはご法度だ。仮に何らかの理由で持ち出し当日に当該お客様にお渡し出来なかった場合は回収される。Aさんが駄目だったから、それをBさんに提示するのに使うということは絶対に許されない。だから勧誘可能人数が50人未満ということは、最大で49部しか書類は準備されないということだ。もしバンカーが不用意にもコピーでも取ろうものなら、発見されれば懲戒対象となる。実はその位厳しい取扱いがされている。

従って、バンカーがいくら自分の担当顧客の中から購入してくれそうなお客様を精一杯推量したところで、予想が100%的中することは少なく、結果として49人の枠が埋まることは有り得ないという理屈だ。もし仮に49人の枠全部を使い切って販売された「私募」の商品があるとすれば、何か如何わしい匂いが漂うとしか言いようがない。

一方でそこまで「限定商品」として特別な扱いになると聞くと、お客様からの引きは逆に強いのではと思われるかも知れない。だがそこは「超富裕層」のお客様、寧ろ仮に10人のお客様だとしても、自分だけではないのかとご不興を買うことがある。すなわち「期間限定」とか、「横浜市民限定」とか言われると何故か特別な購買意欲が湧き上がる筆者のような庶民感覚のさもしさを超富裕層はお持ちではない。では何が違ってくるかと言えば、凄く尖ったタイプの商品、完全カスタマイズされた商品を作ることが出来るということだ。