シンカー:6月16日に通常国会が閉じられ、6月20日に東京都などの地域は緊急事態宣言は解除され、21日からまん延防止等重点措置に移行した。7月23日の東京オリンピックの開幕、9月末の自民党総裁の任期満了、10月21日の衆議院の任期満了と、政治的スケジュールが詰まっている。更に、秋までのタイミングで、新型コロナウィルスに関する新たな対策と終息後を見越した経済成長促進策を含む経済対策が計画され、臨時国会を開いて補正予算を成立させるとみられる。これらが組み合わされる主なシナリオを考える。そして、経済対策の規模感と内容について考察する。
メインシナリオ
条件:オリンピックが成功し、新型コロナウィルスの感染も抑制され、菅内閣の支持率が上昇傾向に転じる。
8月8日のオリンピック終了後に、新型コロナウィルスに関する新たな対策と終息後を見越した経済成長促進策を含む経済対策を発表する。
世論調査の結果を確認し、9月5日のパラリンピック終了後に、経済対策の是非を争点に衆議院を解散する。
消費税率引き下げなどでの野党共闘の中でも、自民党会派は過半数(465議席中233)を上回る議席を獲得する。
(サブシナリオとして、衆議院選挙の前に大規模な経済対策の補正予算を臨時国会を開いて成立させることができれば、議席の大幅な上積みが期待できるだろう。)
衆議院選挙で現在の277議席から大きく減少した責任で、菅総裁の求心力はやや低下する。
選挙後の新内閣発足では、自民党内での不満の解消に努める。
10月に臨時国会を開き、経済対策の補正予算を成立させる。
先送りされた自民党総裁選は、衆議院選挙での国民の信認を背景に無投票で菅総裁の継続が決まる。
1月に開かれる通常国会で自民党内の要望を多く盛り込む形の更なる経済対策の補正予算を成立させ、政権の求心力を強くし、景気回復に勢いを付けることで夏の参議院選挙に臨む。
リスクシナリオ
条件:オリンピック・パラリンピック中に新型コロナウィルスの感染拡大が起こり、菅内閣の支持率が低下する。
8月はオリンピック・パラリンピック中の新型コロナウィルス感染拡大の抑止に追われ、政策論争の余裕はなく、政府予算の予備費の活用で対応する。
9月のパラリンピック終了後に感染拡大や経済の状況を見て、払底した予備費の拡充を含め、新型コロナウィルス感染拡大防止策と企業・家計支援の経済対策を発表する。
臨時国会を開き、経済対策の補正予算を成立させ、支持率の持ち直しを目指す。
9月下旬の自民党総裁選は投票の結果、菅総裁の継続が決まるが、候補間の支持の分裂で、菅総裁の求心力は低下する。
10月21日の衆議院の任期満了にともなう衆議院選挙で、消費税率引き下げなどでの野党共闘の前に苦戦し、連立与党(現在306議席)は過半数(465議席中233)を若干上回る議席獲得にとどまる。
2022年の夏の参議院選挙では菅内閣の下では戦えないという意見が自民党内に徐々に広がる。
選挙後の新内閣発足では、自民党内で菅政権と距離をおくグループの巻き返しがあり、レームダック化のリスクが大きくなる。
1月に開かれる通常国会で、新型コロナウィルス感染拡大によって先送りされた経済成長促進策を含む経済対策の補正予算を成立させるが、後手の対応と国会での野党との厳しい論戦により支持率の回復は見込めない。
田キャノンの政策ウォッチ:
補正予算について予想する。
経済対策の規模は30兆円程度とみている。与野党で30兆円程度の補正予算案が提案されているからだ。しかし、30兆円はあくまで経済対策全体の規模であり、追加の真水では10兆円程度だとみている。(昨年度の一人あたり10万円給付金の13兆円程度の予算と同規模を目指す。)経済対策のうち一部は30兆円の繰越しがある2020年度第3次補正予算の付け替えが含まれるだろう。
中身は新型コロナウィルス対応の継続と成長戦略が中心となるとみている。コロナ対応では、事業継続や事業再構築を支援したり、企業の財務基盤強化のため、資本性資金の供給や優先株の引き受けを更に推進するだろう。また、非正規雇用から正規雇用への労働移動の支援、雇用調整助成金等の特例措置の継続や拡充を予想している。
成長戦略では、先端半導体の設計や製造技術の開発を、研究開発基金などで積極的に支援することや、先端半導体の生産拠点の日本への立地を推進して、確実な供給体制の構築を図ると見ている。
その他、緊急雇用創出事業の創設や、少子化対策支援の拡充も含まれると見ている。
大規模なこども手当が実施されればサプライズである。
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岡三証券チーフエコノミスト
会田卓司
岡三証券エコノミスト
田 未来