シンカー:マクロ経済・マーケットのダウンサイド・リスクは、新型コロナウィルス問題が長期化し、企業の資金調達環境の悪化と事業継続の困難化が起こり、企業のデレバレッジとリストラで企業貯蓄率が上がってしまうことである。一方、政府が予算の予備費をすべて取り崩し、新たな補正予算を編成して、財政支出拡大で家計・企業を支援することに及び腰だ。企業貯蓄率の上昇と財政赤字の縮小でネットの資金需要が消滅してリフレ・サイクルが腰折れてしまった場合、名目GDPの拡大期待が維持されたとしても、日経平均はマクロ・フェアバリューである24000円程度まで即座に下落するリスクとなる。考えられる大きめのマクロ下押しリスクとして、コロナ増税などによる財政緊縮で、もしリフレ・サイクルの腰折れとともに名目GDPの拡大期待が消失した場合、マクロ・フェアバリューは20000円を下回ってしまう。政府は、コロナ禍から立ち上がる経済の足かせとなりかねない2025年度のプライマリーバランスの黒字化目標を放棄し、財政拡大の継続で強いリフレ・サイクルが強い水準で維持されることを目指す必要がある。

会田卓司,アンダースロー
(画像=PIXTA)

株価が実体経済を引き離して上昇していった背景には、信用サイクル、設備投資サイクル、リフレ・サイクルの三つのサイクルがあると考える(三つのサイクルの詳細は5月13日のアンダースロー「次の転換点を読むための三つのサイクル」)。信用サイクルと設備投資サイクルが持ちこたえ、財政拡大によりマネーの拡大・縮小を左右するリフレ・サイクルがようやく活性化したことが理由である。

設備投資サイクルは大きく考えれば、企業貯蓄率の動きを介して、リフレ・サイクルの一部を形成する。企業活動の強さを表す企業貯蓄率の水準を前提として、財政政策の緩和度合いを表す財政収支がどの水準であるかが、リフレ・サイクルを表すネットの資金需要(企業貯蓄率+財政収支、マイナスが強い)の強さを決める。小さくは三つのサイクル(信用・設備投資・リフレ)、大きくは設備投資サイクルを企業貯蓄率を介して統合した二つのサイクル(信用とリフレ)の枠組みになる

経済活動が強く、名目GDPが強く拡大すれば、株価には上昇圧力がかかる。それに加え、大きな枠組みとしての二つのサイクル(信用とリフレ)が株価に強い影響を及ぼしていると考えられる。日経平均を、名目GDP、信用サイクル、そしてリフレ・サイクルで推計する(02年4-6月期からの四半期データ、モデルの詳細は6月17日のアンダースロー「日経平均のマクロ・フェアバリュー」)。推計値は名目GDPと大きな枠組みの二つサイクルでの日経平均のマクロ・フェアバリューと呼ぶこともできる。

日経平均=-92781.2+202.3 名目GDP(兆円)+120.3 日銀短観中小企業貸出態度DI (1期ラグ)-1267.7 ネットの資金需要(1期ラグ); R2=0.91

今後、これまでの新たなデジタル・テクノロジーなどの発展のモーメンタムなどを背景に、政府の経済政策などの支援もあり、コロナショック下でのIT技術の活用の経験がイノベーションを促進し、第四次産業革命や脱炭素などの投資テーマで投資活動が活性化することで設備投資サイクルが上振れ、企業貯蓄率が低下していくことが見込まれる。一方、コロナ増税などの拙速な緊縮策がなければ、財政赤字は景気回復とともにある税収増で緩やかに縮小していくはずだ。

企業貯蓄率の1ptの低下にたいして、財政収支が1ptの改善となるペースであれば、企業貯蓄率と財政収支の合計であるネットの資金需要はGDP比-4%程度(現在は-5%程度)で安定化するはずだ。望むべき財政再建は、企業活動の活性化で企業貯蓄率が-5%程度まで低下し、景気拡大による税収の自然増と過熱抑制の財政引き締めで、財政収支が0%に戻り、望ましい水準のネットの資金需要のすべてが企業によって生まれる形になることだろう。企業貯蓄率が異常なプラスで過剰貯蓄と総需要不足の状態で、緊縮財政で無理に財政収支を0%に改善させようとし、ネットの資金需要が消滅し、リフレサイクルが腰折れ、デフレ脱却に失敗し、景気悪化で財政の状態が更に悪化してしまったこれまでの間違いは反省すべきだろう。その失敗のツケを回された家計はもう限界にきている。

リスクは、2025年度の基礎的財政収支黒字化の従来の目標が変更されていないことだ。民間経済がウィルス問題による打撃からまだ完全に立ち直ってない状態で、黒字化の目標を無理に目指し、コロナ増税、消費税率や社会保険料を引き上げるなど、また増税や財政支出削減を行ってしまえば、ネットの資金需要は消滅し、リフレ・サイクルが腰折れるリスクとなる。企業貯蓄率の1ptの低下にたいして、財政収支が増税で2ptの改善してしまえば、ネットの資金需要は1ptの縮小となるからだ。企業貯蓄率が異常なプラスで過剰貯蓄と総需要不足の状態で、緊縮財政で無理に財政収支を0%に改善させようとし、ネットの資金需要が消滅し、リフレサイクルが腰折れ、デフレ脱却に失敗し、景気悪化で財政の状態が更に悪化してしまったこれまでの間違いが繰り替えされることになる。

+20程度で安定している信用サイクルを示す日銀短観中小企業金融機関貸出態度DI を前提とすれば、名目GDPとリフレ・サイクルを示すネットの資金需要で、日経平均のマクロ・フェアバリューのマトリクスを作ることができる。縦軸にネットの資金需要の水準、横軸に名目GDPの水準をとる。ネットの資金需要がが現在の―5%程度のトレンドを維持し、名目GDPがまだウィルス問題で抑制されている現在の544.4兆円から新型コロナウィルス拡大前のピークである562.8兆円まで戻れば、日経平均のマクロ・フェアバリューは29500円程度となる。名目GDPが565兆円まで拡大すれば、マクロ・フェアバリューも3万円を超える。

マクロ経済・マーケットのダウンサイド・リスクは、新型コロナウィルス問題が長期化し、企業の資金調達環境の悪化と事業継続の困難化が起こり、企業のデレバレッジとリストラで企業貯蓄率が上がってしまうことである。一方、政府が予算の予備費をすべて取り崩し、新たな補正予算を編成して、財政支出拡大で家計・企業を支援することに及び腰だ。企業貯蓄率の上昇と財政赤字の縮小でネットの資金需要が消滅してリフレ・サイクルが腰折れてしまった場合、名目GDPの拡大期待が維持(565兆円までの拡大)されたとしても、日経平均はマクロ・フェアバリューである24000円程度まで即座に下落するリスクとなる。考えられる大きめのマクロ下押しリスクとして、コロナ増税などによる財政緊縮で、もしリフレ・サイクルの腰折れとともに名目GDPの拡大期待が消失した場合、現在の544.4兆円を前提とすれば、マクロ・フェアバリューは20000円を下回ってしまう。政府は、コロナ禍から立ち上がる経済の足かせとなりかねない2025年度のプライマリーバランスの黒字化目標を放棄し、財政拡大の継続で強いリフレ・サイクルが強い水準で維持されることを目指す必要がある。

表:日経平均の推計マトリクス

日経平均の推計マトリクス
(画像=岡三証券)

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岡三証券チーフエコノミスト
会田卓司

岡三証券エコノミスト
田 未来