シンカー:遅行する国内消費の影響を受ける鉱工業生産指数に対する、海外の先行する投資の動きを反映する資本財の出荷の比率は、グローバルな景気循環をよく表すことがわかっている。昨年後半から勢いよく上昇している。半導体をはじめとしたサプライチェーンの再編、消費者の財の需要の拡大だけではなく、データセンターをはじめとした中国からの分断への対処などによる各国の生産設備の拡大が、資本財の出荷を後押ししているようだ。第四次産業革命、デジタル・トランスフォーメーション、脱炭素などの投資テーマの動きは続くため、資本財の出荷がアウトパフォームする形は続くだろう。グローバルな景気循環はまだ上昇のトレンドの序盤戦にあると考える
5月の鉱工業生産指数は前月比?5.9%と、コンセンサス(同?2.1%程度)を大きく下回った。3・4月の同+1.7%・+2.9%の後、上昇が一服した。ゴールデンウィークが緊急事態宣言下であったため、休日を長めに設定し、生産を止めたところもあったのだろう。半導体不足の影響で自動車工業が同?19.4%の大きな減少となっている。5月の実質輸出は同?0.2%と生産対比の落ち込みは軽微だったため、テクニカルな生産活動の低下であったと考える。米国と中国の経済活動の持ち直しを反映して、生産の増加基調は続くだろう。6・7月の経済産業省予測指数は同+9.1%・?1.4%となっている。経済産業省の判断は「生産は持ち直している」で据え置かれている。
半導体をはじめとしたサプライチェーンの再編、消費者の財の需要の拡大を含め、各国は生産設備の拡大に動き始めている。第四次産業革命、デジタル・トランスフォーメーション、脱炭素などの投資テーマも健在だ。資本財がけん引する形で、既に新型コロナウィルス前の水準を上回っている鉱工業生産指数は、新たな水準に向けて上昇を続けるだろう。日本でもワクチン接種が進捗し、いずれサービス消費が増加する時に、IT関連を中心に財の需要も拡大し、生産の増加基調に勢いがつくだろう。5月の在庫指数が2011年4月以来の低水準となっており、需要の拡大が、すぐに生産の持ち直しにつながりやすい状況となっていることも追い風だ。
日本から海外への資本財(除く輸送機械)の出荷は大きく増加している。4月は前年同月比45.1%となった。遅行する国内消費の影響を受ける鉱工業生産指数に対する、海外の先行する投資の動きを反映する資本財(除く輸送機械)の出荷の比率(海外への資本財(除く輸送機械)出荷/鉱工業生産指数)は、グローバルな景気循環をよく表すことがわかっている。12か月移動平均でみて、昨年後半から勢いよく上昇している。半導体をはじめとしたサプライチェーンの再編、消費者の財の需要の拡大だけではなく、データセンターをはじめとした中国からの分断への対処などによる各国の生産設備の拡大が、資本財の出荷を後押ししているようだ。第四次産業革命、デジタル・トランスフォーメーション、脱炭素などの投資テーマの動きは続くため、資本財の出荷がアウトパフォームする形は続くだろう。中長期的な強い投資テーマがあるので、今回の比率のピークは前回を極めて大きく上回るだろう。グローバルな景気循環はまだ上昇のトレンドの序盤戦にあると考える。
図:海外への資本財(除く輸送機械)の出荷の対鉱工業生産指数比
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岡三証券チーフエコノミスト
会田卓司
岡三証券エコノミスト
田 未来