シンカー:景気拡大へ向けたチェックの仕方は、信用サイクル、リフレ・サイクル、設備投資サイクルの順となる。まずは、短観などで、信用サイクルが堅調であることを確認する必要がある。次に、秋とみられる衆議院選挙前後に経済対策が実施され、財政拡大の継続で、リフレ・サイクルも堅調であることを確認する必要がある。信用サイクルとリフレ・サイクルが堅調であれば、2022年度以降の設備投資サイクルの上振れに期待感が出てくる。労働需給逼迫などによる生産性と収益率の向上の必要性、第四次産業革命を背景としたAI・IoT・ロボティクスを含む技術革新、遅れていた中小企業のIT投資、老朽化の進んだ構造物の建て替え、都市再生、研究開発、そして新型コロナウィルス感染拡大後の新状態への適応などの投資テーマがある。コロナショック下でのIT技術の活用の経験がイノベーションを促進するかもしれない。設備投資がけん引役となり、企業の新たな商品・サービスの投入が消費を刺激する好循環が、景気を緩慢なU字型から強いV字型に進展するだろう。設備投資サイクルが天井の突破に向けて動き出すことで、企業の長期的な成長期待と収益期待がついに上昇したことが意識される。デフレ構造不況からの脱却の機運で、景気拡大と株価上昇は加速していく可能性がある。

会田卓司,アンダースロー
(画像=PIXTA)

株価と実体経済が乖離した背景には、信用が拡大できる環境なのかを左右する信用サイクルが腰折れなかったことがあった。現在、企業の資金調達環境の悪化と事業継続の困難化で、信用サイクルが腰折れるリスクがある。日銀短観の中小企業金融機関貸出態度DIが信用サイクルをきれいに示す。政府・日銀による給付金、信用保証、金融緩和などで中小企業の資金繰りを支え、DIは下落を回避し、高原状態を続けている。大都市圏の緊急事態宣言は地域が拡大され延長された。一方、政府の企業支援のための政策は拡大ではなく縮小傾向にあり、本予算の予備費の大きな取り崩しや、新たな補正予算の編成による支援拡大に及び腰なようだ。7月1日に公表となる日銀短観で、中小企業金融機関貸出態度DIが急落し、信用サイクルが腰折れたことが確認されれば、マーケットが総崩れになるリスクとなる。DIは失業率の先行指標になっており、政府の雇用助成に加え、政府・日銀の積極的な流動性対策が雇用の下支えに貢献してきたことが分かる。企業は何とか雇用調整をせずに難局を乗り切ろうと懸命にコスト削減に努めてきたが、いよいよ雇用を削減せずにはいられなくなる。株式市場のアップサイドの動きには、まずは信用サイクルが堅調であることを短観で確認する必要がある。

図1:信用サイクルを示す日銀短観中小企業金融機関貸出態度DIと失業率

信用サイクルを示す日銀短観中小企業金融機関貸出態度DIと失業率
(画像=日銀、総務省 作成:岡三)

株価が実体経済を引き離して上昇していった背景には、市中のマネーの拡大・縮小を左右するリフレ・サイクルの上振れがあった。マネーの拡大には、政府と企業の支出の拡大が必要になる。企業貯蓄率と財政収支の合計であるネットの資金需要(GDP比、マイナスが強い)が、マネーの拡大・縮小を左右するリフレ・サイクルをきれいに示す。これまで消費税率引き上げを含む緊縮的な財政スタンスなどで消滅していたネットの資金需要が、新型コロナウィルスの感染拡大の影響を抑制するために財政政策の拡大などで復活し、リフレ・サイクルが上振れた。4?6月期のほとんどは緊急事態宣言下にあった。しかし、政府は予算の予備費をすべて取り崩し、新たな補正予算を編成して、財政支出拡大で家計・企業を支援することに及び腰にみえる。新型コロナウィルス問題の打撃を受けた企業は、借入などで日々のコストを賄うことが限界にきて、リストラやデレバレッジなどの事業の縮小が起こり、企業貯蓄率が上昇するリスクがある。財政スタンスが拡大に及び腰であるから、ネットの資金需要がピークアウトし、リフレ・サイクルが弱体化するリスクになる。それは、株価が弱い実体経済の水準に向けて急落していくリスクでもある。メイン・シナリオは、秋とみられる衆議院選挙の前後には、新型コロナウィルス感染抑制後の経済再生の力を強くしようとする経済対策が策定されるなどして、財政スタンスが緩和的であることが示され、ネットの資金需要(リフレ・サイクル)が維持される期待がつながれると考える。信用サイクルのチェックの後に、リフレ・サイクルが再度の財政拡大で強いままでいられるのかを確認する必要がある。

図2:リフレ・サイクルを示すネットの資金需要(企業貯蓄率+財政収支)

リフレ・サイクルを示すネットの資金需要(企業貯蓄率+財政収支)
(画像=内閣府、日銀 作成:岡三証券)

信用サイクルとリフレ・サイクルが堅調であれば、2022年度以降の設備投資サイクルの上振れに期待感が出てくる。実質設備投資のGDP比が設備投資サイクルをきれいに示す。労働需給逼迫などによる生産性と収益率の向上の必要性、第四次産業革命を背景としたAI・IoT・ロボティクスを含む技術革新、遅れていた中小企業のIT投資、老朽化の進んだ構造物の建て替え、都市再生、研究開発、そして新型コロナウィルス感染拡大後の新状態への適応などの投資テーマがある。コロナショック下でのIT技術の活用の経験がイノベーションを促進するかもしれない。2022年度から2023年度にかけてはバブル崩壊後の17%弱の天井を打ち破る動きが起こるだろう。その低く固い天井は、日本企業の長期的な成長期待と収益期待が低いままであったことを表していた。設備投資がけん引役となり、企業の新たな商品・サービスの投入が消費を刺激する好循環が、景気を緩慢なU字型から強いV字型に進展するだろう。設備投資サイクルが天井の突破に向けて動き出すことで、企業の長期的な成長期待と収益期待がついに上昇したことが意識される。これまで異常なプラスの企業貯蓄率が示す弱い企業活動が、総需要を破壊する力として内需低迷とデフレの長期化の原因となってきた。設備投資サイクルが上振れれば、企業貯蓄率は異常なプラスから正常なマイナスに戻り、過剰貯蓄としての総需要を破壊する力が消滅する。デフレ構造不況からの脱却の機運で、景気拡大と株価上昇は加速していく可能性がある。

図3:設備投資サイクルを示す実質設備投資GDP比

設備投資サイクルを示す実質設備投資GDP比
(画像=内閣府、日銀 作成:岡三証券)

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岡三証券チーフエコノミスト
会田卓司

岡三証券エコノミスト
田 未来