シンカー:日銀短観の中小企業金融機関貸出態度DIが信用サイクルをきれいに示す。政府・日銀による給付金、信用保証、金融緩和などで中小企業の資金繰りを支え、DIは下落を回避し、高原状態を続けている。3月に民間金融機関を通した無利子・無担保の融資申し込みが終わり、緊急事態宣言下でもあり、企業の資金調達環境の悪化と事業継続の困難化で、信用サイクルが腰折れるリスクがあった。4-6月期の中小企業貸出態度DIはなんとか踏みとどまり、信用サイクルは持ちこたえた。政府系金融機関の無利子・無担保の融資が続いていること、雇用助成金が拡大されたまま継続したこと、そして日銀が金融機関に積極的な流動性供給を続け支援していることなどが支えになったとみられる。新型コロナウィルス感染の抑制策がまだ効かず7-9月期の経済活動の持ち直しはまだ緩慢であるとみられ、企業の資金繰りが安定を保てるのか、10月1日の短観で再度チェックが必要だろう。秋の衆議院選挙前後に経済対策の補正予算で、しっかりとした企業支援が行うことが安定のためには重要であると考える。信用サイクルが堅調であれば、2022年度以降の設備投資サイクルの上振れに期待感が出てくる。実質設備投資のGDP比が設備投資サイクルをきれいに示す。短観の設備投資計画は強かった。2021年度の後半から設備投資サイクルが上向いたことが明らかになるだろう。2022年度から2023年度にかけてはバブル崩壊後のGDP比17%弱の天井を打ち破る動きが起こるだろう。

会田卓司,アンダースロー
(画像=PIXTA)

4-6月期の日銀短観大企業製造業業況判断DIは+14となり、コンセンサス(+16程度)なみの結果となった。1-3月期の+5から改善した。米国と中国の経済持ち直しを反映して、生産が増加基調にある。半導体をはじめとしたサプライチェーンの再編、消費者の財の需要の拡大を含め、各国は生産設備の拡大に動き始めていることも、資本財の生産に追い風だ。資本財(はん用機械+34、生産用機械+26)と電気関連(電気機械+28)の業況が大きく改善した。鉱工業生産指数は新型コロナ前の水準を回復し、日銀実質輸出は過去最高の水準にある。2021年度のドル円の想定レートは106.7円であり、それより円安で推移していることも追い風となっている。半導体不足により生産が下押されている自動車は+3と前回の?10から低下したが、プラスを維持した。

4-6月期の大企業非製造業業況判断DIは+1となり、コンセンサス(+3程度)なみの結果となった。1-3月期の-1から若干改善した。2020年3月期以来のプラスとなった。製造業と比較して改善ペースはかなり緩慢だ。4-6月期は緊急事態宣言下にあり、宿泊・飲食(-74)や対個人サービス(-31)などの業況に引き続き大きな下押し圧力がかかっている。一方で、全体でみればフラットになったことは、新型コロナウィルス対策の負荷が、業種ごとにかなり偏っていることを表している。例えば、不動産(+13)、通信(+31)、情報サービス(+26)などは、製造業に劣らぬ強さになっている。秋の衆議院選挙前後に経済対策の補正予算で下押しを受けている業種への大きな支援が必要だろう。

7-9月期の大企業製造業先行きDIは+13となった。大企業非製造業は+3となった。両者とも横ばい圏内となっている。オリンピックが無事に開催されるのか不透明であることに加え、サービス消費の回復が遅れていることが、非製造業ではなく、製造業の見通しにも下押し圧力となっているようだ。鉱工業生産は、輸出より国内サービス消費との相関関係が強いからだ。デジタル革新などにより、サービス消費の拡大のため、デジタル関連製品を中心に、より多くの財が必要になってきているとみられる。自動車は+12と大きく改善が見込まれており、半導体不足の影響を克服できると考えているようだ。

株価と実体経済が乖離した背景には、信用が拡大できる環境なのかを左右する信用サイクルが腰折れなかったことがあった。日銀短観の中小企業金融機関貸出態度DIが信用サイクルをきれいに示す。政府・日銀による給付金、信用保証、金融緩和などで中小企業の資金繰りを支え、DIは下落を回避し、高原状態を続けている。3月に民間金融機関を通した無利子・無担保の融資申し込みが終わり、緊急事態宣言下でもあり、企業の資金調達環境の悪化と事業継続の困難化で、信用サイクルが腰折れるリスクがあった。4-6月期の中小企業貸出態度DIは+19となんとか踏みとどまり、信用サイクルは持ちこたえた。政府系金融機関の無利子・無担保の融資が続いていること、雇用助成金が拡大されたまま継続したこと、そして日銀が金融機関に積極的な流動性供給を続け支援していることなどが支えになったとみられる。新型コロナウィルス感染の抑制策がまだ効かず7-9月期の経済活動の持ち直しはまだ緩慢であるとみられ、企業の資金繰りが安定を保てるのか、10月1日の短観で再度チェックが必要だろう。秋の衆議院選挙前後に経済対策の補正予算で、しっかりとした企業支援が行うことが安定のためには重要であると考える。

図1:信用サイクルを示す日銀短観中小企業金融機関貸出態度DIと失業率

信用サイクルを示す日銀短観中小企業金融機関貸出態度DIと失業率
(画像=日銀、総務省 作成:岡三証券)

信用サイクルが堅調であれば、2022年度以降の設備投資サイクルの上振れに期待感が出てくる。実質設備投資のGDP比が設備投資サイクルをきれいに示す。労働需給逼迫などによる生産性と収益率の向上の必要性、第四次産業革命を背景としたAI・IoT・ロボティクスを含む技術革新、遅れていた中小企業のIT投資、老朽化の進んだ構造物の建て替え、都市再生、研究開発、そして新型コロナウィルス感染拡大後の新状態への適応などの投資テーマがある。コロナショック下でのIT技術の活用の経験がイノベーションを促進するかもしれない。2021年度の大企業設備投資計画は前年比+9.6%となり、コンセンサス(+7.2%程度)を上回った。前回の同+3.0%から上方修正され強い。

実質設備投資のGDP比が設備投資サイクルをきれいに示す。2021年度の後半から設備投資サイクルが上向いたことが明らかになるだろう。2022年度から2023年度にかけてはバブル崩壊後のGDP比17%弱の天井を打ち破る動きが起こるだろう。その低く固い天井は、日本企業の長期的な成長期待と収益期待が低いままであったことを表していた。設備投資がけん引役となり、企業の新たな商品・サービスの投入が消費を刺激する好循環が、景気を緩慢なU字型から強いV字型に進展するだろう。設備投資サイクルが天井の突破に向けて動き出すことで、企業の長期的な成長期待と収益期待がついに上昇したことが意識される。

図2:設備投資サイクルを示す実質設備投資GDP比

設備投資サイクルを示す実質設備投資GDP比
(画像=内閣府、日銀 作成:岡三証券)

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岡三証券チーフエコノミスト
会田卓司

岡三証券エコノミスト
田 未来