久しぶりに古い映画を観た。1967年公開の米国映画『卒業』だ。この映画で女優のアン・バンクロフト演じるミセス・ロビンソンが、大学を卒業したばかりの主人公(ダスティン・ホフマン)に自宅まで送ってもらうシーンがある。その自宅のシーンでの彼女のタバコ片手の立ち居振る舞いが印象的だ。ネタバレになるので詳細は避けるが、タバコでここまで繊細に心情を表現する女優を筆者は他に知らない。『卒業』に限らず昔の映画では登場人物がタバコを吸うシーンが数え切れないほどあるが、筆者の中ではアン・バンクロフトこそが「タバコの似合う女優」ナンバーワンである。

21世紀の現在、映画の登場人物の喫煙シーンはほとんど見られなくなった。あのジェームズ・ボンドでさえ2002年公開の『007 ダイ・アナザー・デイ』を最後にタバコを吸わなくなっている。少し寂しい気もするが、これも時代なのだろう。

注目されるのは、タバコ大手のフィリップモリス・インターナショナル(以下、フィリップモリス)のヤツェク・オルザックCEO(最高経営責任者)の発言だ。オルザックCEOは「2030年までにディーゼル車やガソリン車の販売が禁止されるように、(紙巻き)タバコ商品も禁止すべきだ」との考えを明らかにしている。世界最大のタバコメーカーがタバコ商品を禁止するとはどういうことなのか。そこにビジネスチャンスを見出すことは可能なのだろうか。

今回は「脱タバコ社会(Smoke Free Society )」の話題をお届けしたい。

フィリップモリスが目指す「スモークフリーな世界」

電子タバコ,健康
(画像= yamasan / pixta, ZUU online)

英国は欧州で最も喫煙率の低い国の一つである。2007年、英国はパブ、レストラン、ナイトクラブなどでの喫煙を禁止する法律を施行した。2016年にはタバコのパッケージを「禁煙を促す効果がある」とされるデザインに統一規格化、同時に小売店ではタバコが「扉付きの棚」に陳列され、客の視界から完全に遮断されるようになった。さらに2019年3月に英国政府は「2030年までに脱タバコ社会を実現する」方針も示している。ちなみに、脱タバコ活動の支援団体ASH(アクション・オン・スモーキング&ヘルス)の調査によると、1948年に英国の成人男性で82%、女性の41%に達していた喫煙率は、2019年には男女共に14.7%にまで減少したことが明らかになっている。同様の動きは欧州全域で広がっており、喫煙者は年々減少する傾向にある。