「マム、大変!」9歳の娘が窓を指差して叫んだ。その日、筆者が暮らすオランダ南部の街は災害級の豪雨に見舞われていた。娘に促されて窓の外に視線を向けると、家の前の小さな川を鴨の親子がこちらに向かって泳いでくるのが見えた。川は氾濫危険水位を示す赤い線に達している。水位が増したせいで、川辺から水面へとうねるように伸びた大きな柳の枝に進路を阻まれ、鴨の親子は一旦停止した。「引き返すのかな?」と様子を伺っていると、母鴨が意を決したようにヒョイと頭を右側に傾け、柳の枝を小器用に避けながら難関を突破した。3羽の子鴨も間髪を入れずにそれに従い、ヒョイヒョイヒョイとあっという間に「柳抜け」に成功した。
7月のその日、ドイツ西部の記録的な豪雨による洪水は国境を接するベルギーやオランダにまで広がった。土砂崩れで忽然と消滅した集落、濁流に流される家や車、家族が行方不明だと泣き崩れる女性、それを呆然と眺める人々の映像は、自然災害の残酷さを際立たせた。「ドイツ語にはこれほどの惨状を言い表す言葉はない」テレビのニュース番組は、ドイツのメルケル首相が絶句する様子を伝えていた。
筆者が暮らす街は大事に至らずに済んだが、気候変動リスクを改めて痛感する出来事だった。実際、ドイツのホルスト・ゼーホーファー内相は「この惨事が気候変動に関係していることを疑うことはできない」と指摘、スベンヤ・シュルツェ環境相も「ドイツに気候変動が到来した」とコメントしている。だが、気候変動リスクを軽減し対策を強化するには先立つモノ(資金)が必要となる。投資する側(投資家)にとってはどれくらいのリターンをもたらすのかも重要な判断材料だ。たとえば、近年気候変動で注目されている「クリーンエネルギー投資(Clean Energy Investments)」の社会的意義は大きいが、一方で「本当に儲かるの?」と懐疑的な見方も根強い。そう、投資はあくまで投資であり、ボランティアではないのだ。
今回は「クリーンエネルギー投資」の話題をお届けしよう。
化石燃料企業と再エネ企業、トータルリターンを比較すると?
省エネルギーや再生可能エネルギーを含む技術開発・設備導入など、気候変動リスクを軽減し対策を強化するには莫大な労力と費用が必要となる。たとえば、世界的な金融機関グループのモルガン・スタンレーは、2050年までに世界のエネルギー関連の二酸化炭素排出量を正味ゼロにするためには、総額50兆ドル(約5513兆3699億円)が必要との見積もりを示している。資金の一部には税金等も含まれるが、より重要なカギを握っているのが投資マネーである。だが、IEA(国際エネルギー機関)によると、現状では気候変動対策を強化する上で十分な投資マネーがマーケットに流入していないという。先に述べた通り、クリーンエネルギー投資の社会的意義は大きいが、一方で肝心のパフォーマンスについては懐疑的な見方が根強いことも原因の一つのようだ。