シンカー:2021年4−6月期の実質GDPは前期比+0.3%(年率+1.3%)と、コンセンサス(年率+0.5%程度)を上回った。1−3月期の前期比−0.9%(年率−3.7%)からリバウンドした。しかし、1−3月期の大きな落ち込みの割に、リバウンドは小さかった。1−3月期と4−6月期の合わせた年前半でみれば、実質GDPはマイナス成長である。実感に近い名目GDPは4−6月期に前期比+0.1%とほぼ横ばいで、1−3月期の同−1.0%に続き弱い。新型コロナウィルスの感染抑制のため、緊急事態宣言が連発され、経済活動が大きく下押されている姿を表している。経済活動の回復力は弱く、緊急事態宣言下でも回復モメンタムを維持するため、すぐにでも政府の民間経済を支えるための家計・企業支援を含む経済対策が必要になっている。秋の衆議院選挙前には大規模な経済対策の計画が発表されるだろう。堅調なのが設備投資だ。設備投資サイクルを示す実質設備投資のGDP比は4−6月期に16.0%となり、1994年からの平均を上回っている。これだけ経済活動が抑制される中でも、第四次産業革命、デジタル・トランスフォーメーション、脱炭素などの中長期の強い投資テーマに支えられて設備投資サイクルは良好な状態を維持している。設備投資サイクルは企業の長期的な期待成長率・期待収益率の代理変数であり、短期的な経済活動の縮小ほどには長期的な期待が悪化していないことを示す。期待をつなぐためには、企業の収益の源である家計消費が早く回復しなければならず、経済対策でダメージを受けている家計を強く支援する必要があるだろう。

会田卓司,アンダースロー
(画像=PIXTA)

2021年4−6月期の実質GDPは前期比+0.3%(年率+1.3%)と、コンセンサス(年率+0.5%程度)を上回った。1−3月期の前期比−0.9%(年率−3.7%)からリバウンドした。しかし、1−3月期の大きな落ち込みの割に、リバウンドは小さかった。1−3月期と4−6月期を合わせ年前半みれば、実質GDPもマイナス成長である。輸入物価の上昇で交易条件が悪化しているなど、デフレーターが下押されている(前期比−0.3%、3四半期連続マイナス)。実感に近い名目GDPは4−6月期に前期比+0.1%とほぼ横ばいで、1−3月期の同−1.0%に続き弱い。新型コロナウィルスの感染抑制のため、緊急事態宣言が連発され、経済活動が大きく下押されている姿を表している。実質消費は同+0.8%となった。しかし、1−3月期の同−1.0%の落ち込みをオフセットできなかった。5月のゴールデンウィークの消費活動が、緊急事態宣言などにより、飲食・宿泊を含むサービスを中心に極めて弱かったことが理由であろう。4月に携帯電話の通信料が大きく落ち込み、実質ベースの消費をテクニカルに押し上げた可能性があり、消費活動はGDPが示すより弱い。経済活動の回復力は弱く、緊急事態宣言下でも回復モメンタムを維持するため、すぐにでも政府の民間経済を支えるための家計・企業支援を含む経済対策が必要になっている。秋の衆議院選挙前には大規模な経済対策の計画が発表されるだろう。

堅調なのが設備投資だ。4−6月期の実質設備投資は同+1.7%と増加している。1−3月期の同−1.3%の落ち込みを上回った。第四次産業革命、デジタル・トランスフォーメーション、脱炭素などの中長期の強い投資テーマに支えられて、新型コロナウィルスの感染拡大による緊急事態宣言下でも設備投資サイクルは腰折れていないことが確かになった。実質設備投資のGDP比が設備投資サイクルをきれいに示す。過去2回の大きな不況期と比較し、比率の低下はかなり小さかった。4−6月期は16.0%と、1−3月期の15.8%から大きく上昇している。直近のピーク(16.8%)よりは落ちているものの、1994年からの平均(15.8%)を上回っている。これだけ経済活動が抑制される中でも、中長期の強い投資テーマに支えられて設備投資サイクルは良好な状態を維持している。設備投資サイクルは企業の長期的な期待成長率・期待収益率の代理変数であり、短期的な経済活動の縮小ほどには長期的な期待が悪化していないことを示す。期待をつなぐためには、企業の収益の源である家計消費が早く回復しなければならず、経済対策でダメージを受けている家計を強く支援する必要があるだろう。

新型コロナウィルス問題の不安が残る2021年度はまだ比率16%台前半に戻るだけで、景気回復と株価の動きは鈍いだろう。第四次産業革命を背景としたAI・IoT・ロボティクスを含む技術革新、デジタル・トランスフォーメーションという新しいビジネスモデル、遅れていた中小企業のIT投資、脱炭素への取り組み、老朽化の進んだ構造物の建て替え、都市再生、研究開発、そしてウィルス問題後の新常態への適応などの投資テーマがある。コロナショック下でのIT技術の活用の経験もイノベーションを促進するだろう。経済活動が回復してくれば、労働需給逼迫で、生産性と収益率を投資によって向上させる必要性が強く意識されるだろう。2022年度から2023年度にかけて、バブル崩壊後の17%弱の天井を打ち破る動きが起こるだろう。設備投資サイクルが天井の突破に向けて動き出し、バブル崩壊後初めて低いレンジを脱すれば、企業の長期的な期待成長率・期待収益率が上昇したことが意識され、構造不況からの脱却の機運で景気拡大と株価上昇は加速してくる可能性がある。

図:設備投資サイクルを示す実質設備投資GDP比

設備投資サイクルを示す実質設備投資GDP比
(画像=内閣府、日銀、岡三証券 作成:岡三証券)

田キャノンの政策ウォッチ:7月の全国消費者物価の予想

8月20日に公表される7月全国生鮮食品を除く消費者物価は前年比−0.3%と予想する。消費者物価は7月から2020年基準に基準改定され、指数は2020年1月から、前年比は2021年1月から遡及改定された。遡及改定の結果2020年基準の6月は前年比−0.5%だったので、7月は6月から下げ幅が縮小すると予想する。前月からの変化は主にエネルギーが影響しており、ガソリン小売価格の前年比が拡大していることから、エネルギーが下げ幅縮小に寄与したと予想する。

・本レポートは、投資判断の参考となる情報提供のみを目的として作成されたものであり、個々の投資家の特定の投 資目的、または要望を考慮しているものではありません。また、本レポート中の記載内容、数値、図表等は、本レポート作成時点のものであり、事前の連絡なしに変更される場合があります。なお、本レポートに記載されたいかなる内容も、将来の投資収益を示唆あるいは保証するものではありません。投資に関する最終決定は投資家ご自身の判断と責任でなされるようお願いします。

岡三証券チーフエコノミスト
会田卓司

岡三証券エコノミスト
田 未来