シンカー:消費者物価指数の基準改定によりデフレ感が強くなったという見方は間違っていて、今後のインフレ圧力を過小評価してしまうことになるだろう。新型コロナウィルス問題の長期化で、値下げで需要喚起ができるほどの企業の体力はなくなってきており、供給の減退もあり、コア消費者物価は落ちにくくなっているとみられる。企業が供給制約を意識することで、シェアではなく収益を最大化するため、値上げと販売数量の減少のバランスをみる価格弾力性をより重要視することになりそうだ。基準改定により、下落幅が大きくなったように見える。しかし、2021年に入り、コア消費者物価指数の前月比で下落したのは4月のみで、他の月はすべて上昇している。4月は携帯電話通信料などの影響でテクニカルに前月比−1.1%と極め弱かった。前月比が今後0.0%と横ばいであれば、コア消費者物価指数は2022年4月には前年同月比+0.8%程度に上昇することになる。新型コロナウィルスの影響が緩和する中で景気回復が進行し、実際には前月比のトレンドは若干のプラスで推移するだろうから、2022年末までにはコア消費者物価の前年同月比は1%程度に達するとみられる。海外に続き日本でも物価基調がこれまでよりも強含んできたことが明らかとなるだろう。基準年が変更になっても、異常なプラスの企業貯蓄率が総需要を破壊する力となっている物価の背後にあるマクロ・ロジックには変化はない。財政支出による財政赤字の拡大はその総需要を破壊する力をオフセットできる。現在の物価上昇圧力を説明するものである。
7月のコア消費者物価指数(除く生鮮食品)は前年同月比−0.2%と、12か月連続の下落となった。基準年が2015年から2020年へ変更になり、下落が大きい品目のウェイトが高まり、下落していた品目の指数がリセットされるなどして、6月は+0.2%から—0.5%へ下方修正になった。しかし、基準改定によりデフレ感が強くなったという見方は間違っていて、今後のインフレ圧力を過小評価してしまうことになるだろう。7月の前年同月比は−0.4%前後のコンセンサスを上回り、前月比は+0.3%と強い。コアコア消費者物価指数(除く生鮮食品とエネルギー)の前月比も+0.3%と強い。
2020年基準でみても、4月の同−0.9%を底に、5月から7月まで同−0.6%・−0.5%・−0.2%となり、下落幅が急激に縮小してきている方向性に変化はない。確かに上昇幅が拡大してきたのはエネルギー価格の上昇の影響がある。しかし基底では、新型コロナウィルス問題の長期化で、値下げで需要喚起ができるほどの企業の体力はなくなってきており、供給の減退もあり、コア消費者物価は落ちにくくなっているとみられる。企業が供給制約を意識することで、シェアではなく収益を最大化するため、値上げと販売数量の減少のバランスをみる価格弾力性をより重要視することになりそうだ。価格弾力性が低下しているとの認識は、コストの増加分の価格転嫁を進めるとともに、需要の回復にともなう値上げの可能性につながる。
基準改定により、下落幅が大きくなったように見える。しかし、2021年に入り、コア消費者物価指数の前月比で下落したのは4月のみで、他の月はすべて上昇している。4月は携帯電話通信料などの影響でテクニカルに前月比−1.1%と極め弱かった。コアコア消費者物価指数でも前月比の下落は4月のみである。前月比が今後0.0%と横ばいであれば、コア消費者物価指数は2022年4月には前年同月比+0.8%程度に上昇することになる。新型コロナウィルスの影響が緩和する中で景気回復が進行し、実際には前月比のトレンドは若干のプラスで推移するだろうから、2022年末までにはコア消費者物価の前年同月比は1%程度に達するとみられる。海外に続き日本でも物価基調がこれまでよりも強含んできたことが明らかとなるだろう。
バブル崩壊後、企業が家計と同じようにリストラで支出を抑えて貯蓄に励み、デレバレッジとして借金を返済し続け、企業貯蓄率は異常なプラス(資金需要がないこと)になってしまった。この異常な企業貯蓄率のプラスの部分が、過剰貯蓄として総需要を破壊する力となってきた。その結果、日本経済は国内の総需要の弱さとデフレに苦しんできた。異常なプラスの企業貯蓄率が総需要を破壊する力となっても、財政政策により政府の支出が拡大すれば、その負の力をオフセットすることができる。財政支出の拡大による財政収支の赤字はデフレの悪化を止める力となる。コア消費者物価指数(前年同期比、四半期)の動きは、企業貯蓄率(GDP%、4四半期ラグ)に加え、財政収支(GDP%、6四半期ラグ)、輸入物価(前年比、1四半期ラグ)、ドル・円(12四半期ラグ)、ダミー変数(消費税などの特殊要因調整)でうまく説明できることがわかっている。2015年から2020年に基準年が変更になっても、異常なプラスの企業貯蓄率が総需要を破壊する力となっている物価の背後にあるマクロ・ロジックには変化はない。財政支出による財政赤字の拡大はその総需要を破壊する力をオフセットできる。現在の物価上昇圧力を説明するものである。
コア消費者物価指数(前年同期比)=−1.4 − 0.3 企業貯蓄率(4期ラグ) − 0.2 財政収支(6期ラグ) + 0.05 輸入物価(前年比、1期ラグ) + 0.02 ドル円(4四半期移動平均、9期ラグ) + 2.5 ダミー(消費税などの特殊要因調整); R2=0.87
図:コア消費者物価指数(除く生鮮食品)の推計
田キャノンの政策ウォッチ:消費者物価指数の基準改定
消費者物価は2020年基準に基準改定され、前年比は2021年1月まで遡及改定された。その結果、総合指数は1月から6月まで全期間で下方改定された。6月は旧基準の0.2%から新基準の−0.5%へ、−0.7% pt も下方改定された。下方改定は主に携帯電話通信料が影響している。携帯電話通信料は4月に大手各社が低廉プランを導入したことで、総合指数の前年比を−0.5% pt 程度押し下げている。これを受けて、日銀の2021年度物価見通しは下方修正される可能性が高い。しかし、(1)新基準でも5月以降持ち直していること、(2)統計上の変化であり、実態経済の変化ではないこと、(3)元々物価目標の2%から遠い状況にあったこと、の3点を考慮すると基準改定が当面の金融政策に影響を与えることはないだろう。
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岡三証券チーフエコノミスト
会田卓司
岡三証券エコノミスト
田 未来