シンカー:首相が菅氏でも岸田氏でも、マクロのインプリケーションに大差はないと考える。自民党内の主導権が、これまでの主流派のミクロ政策から、リフレ派のマクロ政策に再び移っていく可能性があるからだ。両者ともに細田派(事実上の安倍派)と麻生派を含めたリフレ派の支持が必要で、国民の信頼をつなぎとめるためには、大規模な経済対策で家計と企業への支援を大きくして国民に寄り添う姿勢を示さなければならない。衆議院選挙にからむ自民党執行部や新内閣の人事で、拡張的なマクロ政策を支持するリフレ派が多く登用される可能性がある。アベノミクスの主軸を担っていた麻生派の甘利自民税制調査会長、強いリフレ政策を主張する無派閥だが安倍前首相と近い高市前総務相、プライマリーバランス黒字化目標の撤廃を主張する岸田派の山本自民党金融調査会長などのリフレ派が、内閣や自民党執行部のマクロ政策を左右する要職につくのかが注目だ。格差是正を目指す令和版所得倍増計画を主張する岸田前政務調査会長が自民党総裁選で善戦し、主張が政策と人事に反映されやすくなるだろう。岸田氏の背後には、リフレ派の細田派と麻生派が備えるという構図になるだろう。細田派・麻生派が中心となり岸田氏も参加しているリフレ政策でデフレ脱却を目指す議員連盟(ポストコロナの経済政策を考える議員連盟)と、岸田派と両派が中心となる格差是正を目指す議員連盟(新たな資本主義を創る議員連盟)の動きが鍵を握るだろう。菅首相が再選されても、これらの勢力の支持の上で政権運営をせざるを得ない。財政政策はこれまでの緊縮路線から拡大路線に向かっていくことになるだろう。これまでの緊縮路線は新型コロナウィルスとの戦いで所得環境の悪化に苦しむ国民からの支持を失ったとみる。2025年度のプライマリーバランスの黒字化目標が棚上げされれば、財政政策の束縛がなくなり、株式市場にとってはポジティブ・サプライズになるかもしれない。

会田卓司,アンダースロー
(画像=PIXTA)

衆議院選挙にからむ自民党執行部や新内閣の人事で、拡張的なマクロ政策を支持するリフレ派が多く登用される可能性がある。アベノミクスの主軸を担っていた麻生派の甘利自民税制調査会長、強いリフレ政策を主張する無派閥だが安倍前首相と近い高市前総務相、プライマリーバランス黒字化目標の撤廃を主張する岸田派の山本自民党金融調査会長などのリフレ派が、内閣や自民党執行部のマクロ政策を左右する要職につくのかが注目だ。格差是正を目指す令和版所得倍増計画を主張する岸田前政務調査会長が自民党総裁選で善戦し、主張が政策と人事に反映されやすくなるだろう。岸田氏の背後には、リフレ派の細田派(事実上の安倍派)と麻生派が備えるという構図になるだろう。細田派・麻生派が中心となり岸田氏も参加しているリフレ政策でデフレ脱却を目指す議員連盟(ポストコロナの経済政策を考える議員連盟)と、岸田派と両派が中心となる格差是正を目指す議員連盟(新たな資本主義を創る議員連盟)の動きが鍵を握るだろう。菅首相が再選されても、これらの勢力の支持の上で政権運営をせざるを得ない。自民党内の主導権が、これまでの主流派のミクロ政策から、リフレ派のマクロ政策に再び移っていく可能性がある。

その意味では、首相が菅氏でも岸田氏でも、マクロのインプリケーションに大差はないと考える。両者ともに細田派と麻生派を含めたリフレ派の支持が必要で、国民の信頼をつなぎとめるためには、大規模な経済対策で家計と企業への支援を大きくして国民に寄り添う姿勢を示さなければならないからだ。二階氏が自民党幹事長を退任するようだが、主張する国土強靭化のインフラ投資の拡大を約束させた上での動きである可能性もある。長年、連立パートナーの公明党の指定席であった国土交通大臣が二階派から出るかもしれない。自民党総裁選が先送りされれば、権力争いに嫌気がさした国民の菅内閣への支持が低下し、衆議院選挙での自民党の単独過半数割れと菅内閣退陣の確率がともに50%まで上昇するとみる。消費税率引き下げなどで野党が強固な連携をとらないかぎり、連立与党が過半数を維持できる可能性はまだかなり高く、連立与党の政権は維持されるだろう。

菅内閣の新型コロナウィルスの感染抑制策は、国民に評価されていないようだ。緊急事態宣言などの政府の施策も有効であるとは感じられていないようだ。結果として感染拡大が抑制されただけでは、国民は菅内閣の功績とはみなさないだろう。菅内閣を支持しない理由として、指導力がないという国民の回答が多いようだ。国民から評価されていない現行の政策の延長線上では、感染拡大が抑制されただけでは、支持率の強い持ち直しにはつながらないとみられる。支持率の強い持ち直しには、新たな能動的な政策によって結果を出す必要があるだろう。国民は、民主主義における政治が試行錯誤と妥協を繰り返しながら遅々たる歩みで政策を遂行しなればならないことには、もどかしさを感じながらも、理解はしているだろう。決して、権威主義的な国家のような強権と人権抑圧をともなった政治の指導力を求めてはいないだろう。民主主義における政治に求められるのは徳性であると考えられる。国民に寄り添う形で政府が責任と負担を大きく負うことで、国民を目的に向かって動かすことが望まれる指導力だろう。

首相が菅氏でも岸田氏でも、財政政策はこれまでの緊縮路線から拡大路線に向かっていくことになるだろう。これまでの緊縮路線は新型コロナウィルスとの戦いで所得環境の悪化に苦しむ国民からの支持を失ったとみる。政府が懐事情の厳しさを強調すればするほど、それ以上に厳しい懐事情の国民に寄り添っていないと感じるからだ。国民への支援を「ばらまき」と批判する意見も、新型コロナウィルスとの戦いで安全圏にいる強者の論理だと受け入れられなくなっているだろう。2025年度のプライマリーバランスの黒字化目標が棚上げされれば、財政政策の束縛がなくなり、株式市場にとってはポジティブ・サプライズになるかもしれない。

田キャノンの政策ウォッチ:リフレ政策への転換の鍵を握る要人の主張

自民党内の主導権が、これまでの主流派のミクロ政策から、リフレ派のマクロ政策に再び移っていく可能性がある。鍵を握る要人の主張をまとめる。

l 岸田前自民党政調会長
低金利時代はしばらく続く。今は非常時、財政出動はしっかりやる。
早急に相当規模の経済対策を行う。
基礎的財政収支黒字化は大きな流れを見ながら、しっかり考える。
令和版所得倍増を目指す。
子育て世代への住居費の支援拡充。
格差是正に取り組む。分配機能を強化し、所得を引き上げる。

l 甘利自民党税制調査会長
海外の物言う株主への監視体制の厳格化。
半導体産業の基盤強化。兆円規模の支援必要。
原子力や半導体など重要技術を持つ日本企業に海外投資家が出資することについて、安全保障の観点から監視していく必要がある。
経済安保は政治主導でやるしかない。
補正予算は11月の臨時国会で成立させて直ちに執行するのがいい。
経済回復なくして財政再建なし。企業や家計が納税し得る体力を早く取り戻す。

l 高市前総務相
菅内閣はアベノミクスの二本目の矢「機動的な財政出動」を踏襲していない。
アベノミクスを引き継ぐ、サナエノミクスを実行する。
第2の矢「機動的な財政出動」は緊急時の迅速な大型財政措置に限定。
第3の矢「民間活力を引き出す成長戦略」は「改革」が主だったが、これを「投資」に変える。
2%の物価上昇目標を達成するまでは、財政健全度を示す基礎的財政収支黒字化を時限的に凍結。 経済を立て直すことが社会保障を確保する道。
一刻も早い補正予算の編成が必要。
自然災害やサイバー犯罪などの危機管理投資が必要。
産業用ロボットやマテリアルなどの技術分野や新技術への成長投資が必要。
日本国債は自国通貨建て国債なのでデフォルトしない。
名目金利を上回る名目成長率を達成すれば、財政は改善する。
企業は借金で投資を拡大して成長する。国も成長に繋がる投資に必要な国債発行は躊躇するべきではない。
国家安全保障・投資法、経済安全保障包括法の制定が必要。

l 山本幸三自民党金融調査会長
補正予算の編成時期は衆院選後の10月か11月だろう。
基礎的財政収支黒字化目標は堅持する必要はない。
財務目標は債務残高対GDP比に変えるべき。
「GDPギャップを埋めるための35兆円 + 物価安定2%目標を達成するための10兆円 − 2020年度3次補正の19兆円 = 26兆円」より、26兆円の一次補正が必要。
26兆円の財源は増税ではなく、国債発行で賄うことになる。デフレ気味の現在の状況では国債を発行しても問題はない。
コロナ対策予備費ではGDPギャップは埋められない。
デフレに戻りそうな状況。
日銀は資産買い入れを増やすなどして円安方向にする必要がある。
脱炭素を目的にした社債取引が集まる「グリーン国際金融センター」の実現を支援。
コロナ禍でGDPの20%が失われることを想定し、新規国債発行により100兆円を調達し、給付に充てる。対事業者では、前年と本年の課税所得の差額を給付。対家計では、一律10万円給付、定額所得者には10万円上乗せ給付。

l ポストコロナの経済政策を考える議員連盟(会長は安倍前首相、細田派、麻生派、岸田派)
基礎的財政収支黒字化目標は堅持する必要はない。
財政を立て直すための増税、例えばコロナ復興増税は反対。

l 新たな資本主義を創る議員連盟(会長は岸田前自民党政調会長、岸田派、細田派、麻生派)
人的資本を大切にし、全員参加資本主義を実現する。
分配政策の強化が不可欠。
企業利益のより適切な分配、大企業と中小企業との間の分配の適正化、企業内での人的資本投資の促進、教育費や住宅費負担軽減のための支援、子育て・家庭支援の強化。
働き方改革やセーフティネットの見直し。
従業員や家族、地域社会を守る資本主義の実現。
女性活躍政策の推進。
情報やデータの独占に対する適切な競争政策の実現。

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岡三証券チーフエコノミスト
会田卓司

岡三証券エコノミスト
田 未来