シンカー:岸田前自民党政務調査会長、高市前総務相、そして河野規制改革相が自民党総裁選に正式に立候補を表明したため、「自民党総裁選の政治経済学とインプリケーション」を改訂する。
結論は、次の自民党総裁と首相が誰であっても、自民党内の主導権がこれまでの主流派のミクロ政策からリフレ派のマクロ政策に再び移り、財政政策はこれまでの緊縮路線から拡大路線に向かっていくという経済政策のインプリケーションは変わらない。経済政策はアベノミクスとは違うものになるというのは間違いで、現行の金融緩和の枠組みは維持され、財政政策が緊縮から一線を引いて所得の分配を目指した拡大に転換し、成長戦略もコスト削減ではなく政府の投資を重視することで、事実上、アベノミクスの不完全であったリフレ政策が家計に所得を回すようなより完成したものになるだろう。新たな内閣が大規模な経済対策を策定し、デフレ構造不況脱却までの財政拡大のコミットメントを強くし、マーケットが転換を確信した時、株式市場の水準はもう一段切り上がるだろう。そして、総需要の拡大と成長戦略で企業活動が刺激されることで設備投資サイクルが上振れ、企業の長期的な成長期待と収益期待がついに上昇したことが意識されれば、デフレ構造不況脱却の機運で、株式市場は上昇が更に強くなるだろう。一方、規制緩和を含む構造改革の進展のみが期待されても、成長戦略が作用する設備投資サイクルが上振れるまでに、財政政策が拡大路線から緊縮路線に再び回帰してしまえば、総需要拡大の力がなく構造改革は果実を実らせることはできず、期待で上昇した株式市場には大きな失望が生まれるだろう。
デフレ経済下では家計に極端な負荷がかかる。負荷が大きくかかった部分が改善しないかぎりデフレの問題を解消することはできない。インフレ経済下の処方箋を単純に真似して、デフレ経済下の日本で規制緩和などの構造改革で企業ばかり刺激しようとしても、家計が疲弊して総需要が極めて弱いので、企業の投資の期待リターンは一向に上がらず、企業の投資活動は強くならず、経済政策の果実は実らない。日本は疲弊した家計を、財政拡大で支援することがデフレ脱却のために急務になっている。小泉改革以降の新自由主義的政策から所得分配への政策転換の岸田氏の考え方は正しい。インフレ経済下の処方箋が効いた経験を持つ海外投資家の評価を期待して、規制緩和を含む構造改革のみを推進しても、財政拡大による家計支援で総需要を拡大しなければ、デフレ構造不況は脱却できず、結局のところ海外投資家の失望を生み、日本の株式市場の上昇は持続的にはならないだろう。新たな内閣が国民への所得分配につながる財政拡大への態度がブレなければ、デフレ構造不況からの脱却の機運で、景気拡大と株価上昇は加速していく可能性がある。
日本経済がデフレ構造不況を脱却するには、設備投資サイクルの上振れが必要である。設備投資サイクルの低く固い天井は、日本企業の長期的な成長期待と収益期待が低いままであったことを表しているからだ。バブル崩壊後になかなか打ち破ることのできなかった実質設備投資のGDP比の17%弱の天井を打ち破ることが、デフレ構造不況からの脱却の転換点となる。設備投資サイクルが天井の突破に向けて動き出すことで、企業の長期的な成長期待と収益期待がついに上昇したことが意識されるからだ。労働需給逼迫などによる生産性と収益率の向上の必要性、第四次産業革命を背景としたAI・IoT・ロボティクスを含む技術革新、遅れていた中小企業のIT投資、老朽化の進んだ構造物の建て替え、都市再生、研究開発、そして新型コロナウィルス感染拡大後の新常態への適応などの投資テーマがある。コロナショック下でのIT技術の活用の経験がイノベーションを促進するかもしれない。企業の投資に障害となる規制を取り除き、制度を改変し、既存の需要を取り込むだけではなく、新たな需要を創出するとともに、硬直化した行政が障害となっているのであれば改革を進めようとする河野氏の考え方は正しい。河野氏は、政府の投資と所得分配に前向きで、緊縮的な考え方に一線を引き、コスト削減中心ではなく、ビジネスの領域の拡大と投資を誘発する規制と制度の改革を主張している。
財政政策はこれまでの緊縮路線から拡大路線に向かっていくことが、総需要拡大と財政資金の投資による支援を含め、設備投資サイクルの上振れという転換点への動きを後押しするだろう。規制緩和を含む構造改革を推進しようとしても、これまでは家計が疲弊していて総需要が足りず、投資の期待リターンが低いため、企業は投資に躊躇してしまうことになっていた。財政拡大をともなう所得分配で、家計に所得を回し、総需要を拡大し、企業の投資の期待リターンを上昇させ、企業の投資を拡大するアプローチは重要だ。更に、政府が成長戦略に基づき財政資金を投資することで、企業の投資のファイナンスを支援するとともにコストを削減し、投資の期待リターンを上昇させることも可能だろう。第四次産業革命や脱炭素、そしてサプライチェーンの強化という強い中長期的な投資テーマが存在し、成長戦略に基づく財政資金の投資の方向性は定めやすいだろう。アベノミクスの第三の矢の「民間活力を引き出す成長戦略」を、規制緩和を含む改革中心から、政府の投資中心へ転換し、総需要を拡大しながら成長戦略を推進する高市氏の考え方は正しい。
財政拡大のリフレ政策の基盤の上で、岸田氏の所得分配、高市氏の財政成長投資、そして河野氏の制度改革が合わされば、日本経済はデフレ構造不況脱却に向けて強い推進力を得ることができるだろう。次の自民党総裁と首相が誰であっても、他の候補を登用して政策を取り込み、一丸となって日本経済のデフレ構造不況脱却を目指してもらいたい。候補者同士が激しく対立するこれまでの総裁選とは違い、対立候補を排除するなどして自民党内を分断することはせず、一丸となることは可能だろう。
財政政策は緊縮から拡大へ、日銀の金融政策は不変
菅首相が自民党総裁選への不出馬を決め、9月29日の総裁選を経て、新たな首相が誕生することになる。まずは結論だが、次の自民党総裁と首相が誰であっても、自民党内の主導権がこれまでの主流派のミクロ政策からリフレ派のマクロ政策に再び移り、財政政策はこれまでの緊縮路線から拡大路線に向かっていくという経済政策のインプリケーションは変わらない。当然ながら、2%の物価上昇を目指す日銀の金融政策に影響はないだろう。次の内閣は、リフレ派の細田派(事実上の安倍派)と麻生派が支える構図になるとみられるからだ。リフレ派の主張が人事と政策に反映されやすくなり、リフレ派の多くの議員が自民党執行部と新内閣の人事で登用される可能性がある。菅首相と二階幹事長を中心とするこれまでの主流派は、携帯電話料金の引き下げやデジタル庁の創設などでの通信関連、国土強靭化などでの建設関連を含むミクロ政策が突出していた。日銀の金融緩和の効果にレバレッジを掛けるのが財政拡大で、連携してデフレ脱却を目指すマクロ政策を推進するという思考は弱かった。財政拡大で家計に資金を回すマクロ政策ではなく、最低賃金の引き上げや携帯電話料金の引き下げなどの企業の負担で回すミクロ政策が中心であった。
自民党内の現在の主流派とリフレ派の違いは国家観に根差す
自民党内の現在の主流派とリフレ派の違いは、ミクロとマクロの政策の手法のみのようにみえる。しかし、根本的な違いは国家観に根差す。リフレ派はデフレ脱却を目指すマクロ政策を重要視するが、目的は日本の国力の増強だと考えられる。強いマクロ経済の力なくして、安全保障の強い力は構築できないという考え方だ。一方、主流派がミクロ政策を重視するのは、産業を変革する主導権を政治が握る中で、産業の強い力によって日本を優位な地位に押し上げるという考え方だろう。もちろん、強いマクロ経済も産業も必要だが、問題はどちらにより重点を置くかである。前者は財政拡大などのマクロ政策による経済規模の拡大がより重視され、後者は経済の生産性の向上を目指すミクロ政策がより重視され財政再建の思想と親和性がある。前者は強い総需要が強い総供給を作ると考え、後者は強い総供給が強い総需要を作ると考える。そして、米中対立の中で、日本の中国に対する態度は、安全保障を重視する前者が厳しく、産業の協調を重視する後者は柔らかになりやすい。
岸田氏はこれまでの財政緊縮路線のイメージを払拭しようとしている
総裁選の候補のスタンスがどちらに属するかが論点となる。岸田自民党前政務調査会長は、「中間層の拡大に向け、分配機能を強化し、所得を引き上げる」として、格差是正を目指す令和版所得倍増計画を主張している。細田派・麻生派が中心となるリフレ政策でデフレ脱却を目指す議員連盟(ポストコロナの経済政策を考える議員連盟)に岸田氏も参加し、岸田派と両派が中心となる格差是正を目指す議員連盟(新たな資本主義を創る議員連盟)がある。経済対策の規模を数十兆円に拡大して量を確保し、増税は否定している。そして、財政出動と金融緩和をしっかり続けると明言した。これまで消極的であった国債の大幅な増発も躊躇せず、強い財政出動が必要であると主張している。財政拡大を含むアベノミクスの三本の矢の枠組みでデフレを脱却し、総所得を引き上げながら、所得分配を進める。経済成長なくして財政再建なしと、経済成長の果実を実らせることがまず重要だとしている。細田派と麻生派(岸田派と出身母体は一緒)に近づくことで、財政緊縮路線から財政拡大路線へ転換し、これまでの財政緊縮路線のイメージを払拭しようとしている。スタンスも前者の国家観に傾いてきている。
アベノミクスのリフレ政策を引き継ぐ高市氏
高市前総務相は、菅内閣がアベノミクスの二本目の矢「機動的な財政出動」を踏襲していないとし、アベノミクスを引き継ぐサナエノミクスを実行することを表明している。2%の物価上昇目標を達成するまでは、プライマリーバランスの黒字化方針を時限的に凍結し、日本国債は自国通貨建てなのでデフォルトしないとも主張している。財政赤字による単純な尺度ではなく、名目金利を上回る名目成長率を達成すれば、財政は改善するというリフレ派の基本概念を理解している。企業は借金で投資を拡大して成長する。国も成長に繋がる投資に必要な国債発行は躊躇するべきではないと、財政拡大に積極的である。無所属であるが安倍氏が支持し、政権の維持には細田派と麻生派の強い支持が必要となる。スタンスが前者の国家感が強いのは明確だ。
河野氏は規制改革を重視するが財政拡大による所得分配にも前向き
麻生派の河野規制改革相は、規制と行政の改革を重要視している。一見、ミクロ政策に見えるが、単純な効率性の追求ではなく、需要拡大につながる規制改革を重要視しているようだ。エネルギー、教育、医療福祉、デジタル化などで、コスト削減中心ではなく、ビジネスの領域の拡大と投資を誘発する規制と制度の改革を主張している。そして、改革の対象は特定産業ではなく経済全体に及んでいる。グローバル化を追い風にした需要とビジネスチャンスの拡大にも積極的だ。更に、外務大臣と防衛大臣として、強い安全保障の構築にまい進してきた。所得の低い人に直接給付する「マイナスの所得税」というベーシックインカム的な政策にも理解を示している。労働分配率を引き上げた企業に対して法人税の優遇税率を適用し、人件費を増やした企業の法人税を減免する考えもあるようだ。デジタルの力を使って必要な家計に迅速に支援をする仕組みを構築しようとしている。財政拡大で所得分配を推進することには前向きなようにみえる。プライマリーバランスの黒字化の方針については、コロナ禍であり様々な議論が必要とし、強くは拘らない姿勢だ。「平時の改革、有事の財政、未来の日本経済のために投資する」とし、GDPギャップを政府の投資で埋めることで、緊縮的考え方からは一線を引いている。リフレ派の細田派と所属する麻生派のマクロ政策での経済規模の拡大の基盤の上で、制度改革を推進し、日本の国力の増強を目指すことになるだろう。スタンスは前者の国家感が強いとみられる。
自民党を分裂させるリスクがある石破氏の当選の可能性はかなり小さい
総裁選で善戦した候補が重く用いられることで、自民党が再び一枚岩になれるのかが、衆議院選挙の行方に影響を与える。裏を返せば、自民党内に分断をもたらすような候補は総裁選では支持されないだろう。細田派と麻生派と強く対立してきた石破元自民党幹事長も候補である。石破氏は安倍政権時には党内野党としての存在感があった。アベノミクスに批判的で、ミクロ政策での地方の活性化を主張しており、後者の国家観に近いと考えられる。石破氏が当選した場合のみ、経済政策インプリケーションが変わるリスクがある。しかし、自民党を分断してしまうリスクが感じられることで、国会議員の得票数が伸びず、自民党の古い体質に批判的な支持層が河野氏と被っていることも負担となり、総裁選で当選する可能性はかなり小さいとみる。
決選投票となれば岸田氏が優勢
岸田氏が自民党総裁選で勝利する可能性が現在のところまだ高いと考える。議員と党員・党友の一回目の投票では過半数を獲得する候補はないとみられ、議員と都道府県連代表のみの決選投票では岸田派が一丸となっている岸田氏が有利だろう。細田派と麻生派と強く対立し、安倍政権時には党内野党としての存在感のあった石破元自民党幹事長が、立候補せず、河野氏を支持する可能性が出てきた。二階派も続く可能性がある。そうなると、河野氏を細田派と麻生派が一丸となって支持をする可能性は小さくなり、岸田氏がより有利になるとみる。自民党が再び一枚岩になれるのかが、衆議院選挙の行方に影響を与える。裏を返せば、石破氏が自民党内で力を持って分断をもたらしかねないような動きは支持されないからだ。
財政拡大を含むリフレ政策に強くコミットすればするほど岸田氏当選の可能性は高くなる
岸田氏は財政緊縮路線から財政拡大路線へ転換しているが、国民への再度の給付金や消費税率引き下げに否定的なようだ。プライマリーバランスの黒字化に固執するなどして、財政出動が極めて短期的なものであるとみられて、これまでの財政緊縮路線のイメージを払拭しきれないと、国民に寄り添っているようには感じられず、河野氏または高市氏に党員・党友投票で大きな差をつけられるリスクがある。その場合、岸田氏と河野氏または高市氏の決選投票で、衆議院選挙の顔として疑問をもたれた岸田氏はリフレ派の細田派と麻生派の支持が得られないリスクが生まれる。逆に、岸田氏が高市氏の主張するアベノミクスの強化によるリフレ政策の方向性をほぼ丸呑みし、財政拡大により強くコミットメントすれば、高市氏との差が曖昧になることで、細田派と麻生派の支持を得て、岸田氏の勝利の確率が飛躍的に上昇するだろう。
どの候補が勝利しても経済政策インプリケーションは変わらない
総裁選の主な候補者である岸田氏、高市氏、河野氏は前者の国家観が強いとみられることで、どの候補が勝利しても、自民党内の主導権がこれまでの主流派のミクロ政策からリフレ派のマクロ政策に再び移り、財政政策はこれまでの緊縮路線から拡大路線に向かっていくという経済政策インプリケーションは変わらない。菅内閣は産業政策以外の政策アイディアが限られ、マクロ政策はアベノミクスの大枠を維持していただけで、国家観の移行を考慮すれば、新たな首相の下での経済政策はアベノミクスとは違うものになるというのは間違いで、現行の金融緩和の枠組みは維持され、財政政策が緊縮から一線を引いて所得の分配を目指した拡大に転換し、成長戦略もコスト削減ではなく政府の投資を重視することで、事実上、アベノミクスの不完全であったリフレ政策が家計に所得を回すようなより完成したものになるだろう。国家観や経済政策の方向性のインプリケーションは同じでも、その変化のインパクトの大きさには違いがある。量は大きい順に、高市氏、岸田氏、河野氏だろう。河野氏が下位なのは、リフレ政策の軸がまだ不透明であるからだ。誰がマクロ政策のアドバイザーとなるのかに注目だ。一方、制度改革への期待は最も大きいので、強いリフレ政策が出せれば、相乗効果に期待できる。
まずは大規模な経済対策で国民に寄り添い、衆議院選挙では連立与党が議席過半数を維持
まずは大規模な経済対策が策定され、家計と企業への支援、そして医療体制の拡充が図られるだろう。国民への再度の給付金と、困窮世帯への追加給付金を合わせた二階建ての給付が行われる可能性はあるとみる。企業への支援と合わせて、財政支出で30兆円程度の補正予算が早急に組まれるだろう。感染力の強いデルタ株の想定外の流行で、対策が難しく、緊急事態宣言が延長されてしまうことには国民も理解していると考えられる。緊急事態宣言が延長されるほどに、負担がかかる企業と家計への支援も大きくなるという安心感が重要だ。新首相の誕生により11月に先送りされるとみられる衆議院選挙の前に、政府がこれまでの家計と企業への支援は十分だという突き放した姿勢から、大規模な経済対策で寄り添う姿勢への転換を示すことで、国民からの支持は持ち直すだろう。消費税率引き下げなどで野党が強固な連携をとることは難しく、共産党を含む政権構想には難色を示す党もあり、衆議院選挙で連立与党が過半数を維持できる可能性は高く、連立与党の政権は維持されるだろう。
安定政権となるには国民に寄り添う財政拡大が必要
これまでの緊縮路線は新型コロナウィルスとの戦いで所得環境の悪化に苦しむ国民からの支持を失ったとみる。政府が懐事情の厳しさを強調すればするほど、それ以上に厳しい懐事情の国民に寄り添っていないと感じるからだ。国民への支援を「ばらまき」と批判する意見も、新型コロナウィルスとの戦いで安全圏にいる強者の論理だと受け入れられなくなっているだろう。菅内閣に強い影響を与えた緊縮路線の政治プロセスと勢力は力を失うだろう。安定政権になるのかは、新型コロナウィルスの感染抑制の成否だけではなく、国民への所得分配につながる財政拡大へのブレない態度で、国民に寄り添う姿勢を見せ続けることができるのかにかかっている。来年初の通常国会では、新型コロナウィルス問題が小さくなるなかで、政府の成長戦略に基づいて、第四次産業革命や脱炭素を背景に、企業の投資活動を促進させるための再度の経済対策が策定されるだろう。そして、夏の参議院選挙前にも、景気回復を促進させる経済対策が策定されるとみる。企業の設備投資がけん引役となることで、企業の新たな商品・サービスの投入が消費を刺激する好循環が、景気を緩慢なU字型から強いV字型に進展させることができるだろう。
プライマリーバランス黒字化の棚上げと60年償還ルール廃止の可能性
財政緊縮から財政拡大への一連の転換の中で、2025年度のプライマリーバランスの黒字化目標が棚上げされれば、財政政策の束縛がなくなり、株式市場にとってはポジティブ・サプライズになるかもしれない。政府の債務残高を継続的な借り換えで維持するのではなく、減らしていくという減債の制度を実行しているのは先進国では日本のみである。昨年に財務省で検討されたとの報道のあった財政運営としては異常な60年償還ルールの撤廃が実現すれば、政府の債務をどうやって現金償還していくのかという不安がもたらす財政規律に対する強迫観念が緩和されるかもしれない。
昭和の所得倍増計画は総供給の増加が必要=財政緊縮
岸田氏は、令和版の所得倍増計画を提言している。昭和の所得倍増計画は、第二次世界大戦後に豊かな生活を目指す旺盛な需要を満たすため、企業の投資と雇用の拡大により供給能力を高めることで達成された。よって、限られた資本を民間と奪い合い、金利の上昇や、国際経常収支の赤字につながる財政の支出には厳しい目が向けられた。為替が固定相場制であり、国際経常収支の赤字は、為替レートを維持するため、民間の投資を抑制しなければならなくなる。昭和の所得倍増計画は、大きい総需要に総供給を追いつかせることで、所得倍増が達成されたことになる。企業の経済団体は、政府に健全な財政運営を強く求めてきた。未だに財政黒字に拘る古い考え方が残っているのは、この時の経験がイデオロギー化してしまったからだろう。
令和の所得倍増計画は総需要の増加=財政拡大
昭和の所得倍増計画と令和の所得倍増計画は、経済環境が逆さまになっている。現在、投資に向けられる資本は潤沢にあり、投資活動が弱いのは生産性の劣る既得権益をもった企業が資金を囲い込むからではない。足らないのは総需要である。総需要が足りず、投資の期待リターンが低いため、企業は投資に躊躇してしまうことになる。令和の所得倍増計画では、財政を拡大し、家計に所得を回すことがまず必要になる。消費が増加することで、投資の期待リターンが上昇し、企業は刺激されて投資を拡大するようになる。企業の投資がイノベーションを生み、生産性が上昇し、雇用は拡大し、実質賃金も増加する。令和の所得倍増計画では、総需要と総供給が相乗効果でともに増加する好循環が生まれ達成される。企業の投資不足による過剰貯蓄が総需要を破壊する力となり、日本経済はデフレをともなう縮小均衡に苦しんできた。企業の投資が拡大すれば、デフレ脱却だけではなく、財政再建にもつながる。更に、実質所得が大きく増加すれば、家計は楽観的になり、少子化も緩和できるかもしれない。強いマクロ経済とともに、日本の国力の増強にもつながる。
インフレ経済下では企業支援、デフレ経済下では家計支援が必要
インフレ経済下の通常の経済分析では、最終需要である家計の貯蓄率からの因果関係が重要視される。貯蓄・投資バランスの残差として、企業貯蓄率が決定され、注目されない。一方、デフレ経済下では、金利がほぼゼロ%となり、企業が過剰貯蓄を抱えている状態で、企業活動の強弱が景気サイクルを決めていると考えられ、企業貯蓄率はその代理変数となる。企業の過剰貯蓄をオフセットすべき政府の支出が弱く、企業の貯蓄率と財政収支の合計であるネットの資金需要(GDP比、マイナスが強い)が消滅している状態が長く続き、家計への資金の流れが弱くなってしまったため、家計は弱体化し、企業と政府の動きに対する反応関数となり、自律的な動きがなくなってしまった。企業貯蓄率から家計貯蓄率への因果関係が強いことの前提が、デフレ経済下の分析には必要となる。インフレとデフレの因果関係の方向感が一方的に強くなり、インフレやデフレの問題が深刻になると、その負荷は最後のところに大きくかかることになる。インフレ経済下では企業、そしてデフレ経済下では家計に極端な負荷がかかる。この負荷が大きくかかった部分が改善しないかぎり、因果関係をひっくり返し、インフレやデフレの問題を解消することはできない。1980年代にインフレで苦しんだ米国や英国が、レーガノミクスやサッチャリズムというサプライサイドの政策で企業を支えたことは理にかなっていた。
岸田氏の新自由主義的政策からの転換は正しい
インフレ経済下の処方箋を単純に真似して、デフレ経済下の日本で規制緩和などの構造改革で企業ばかり刺激しようとしても、家計が疲弊して総需要が極めて弱いので、企業の投資の期待リターンは一向に上がらず、企業の投資活動は強くならず、経済政策の果実は実らない。日本は疲弊した家計を、財政拡大で支援することがデフレ脱却のために急務になっている。小泉改革以降の新自由主義的政策から所得分配の政策転換の岸田氏の考え方は正しい。インフレ経済下の処方箋が効いた経験を持つ海外投資家の評価を期待して、規制緩和を含む構造改革のみを推進しても、財政拡大による家計支援で総需要を拡大しなければ、デフレ構造不況は脱却できず、結局のところ海外投資家の失望を生み、日本の株式市場の上昇は持続的にはならないだろう。新たな内閣が国民への所得分配につながる財政拡大への態度がブレなければ、デフレ構造不況からの脱却の機運で、景気拡大と株価上昇は加速していく可能性がある。ただ、政府の負担を懸念して、財政拡大なしで増税のみの強引な所得分配は、経済とマーケットに縮小圧力をかけるリスクがあるので注意だ。
構造不況脱却には設備投資サイクルの上振れが必要
日本経済がデフレ構造不況を脱却するには、設備投資サイクルの上振れが必要である。設備投資サイクルの低く固い天井は、日本企業の長期的な成長期待と収益期待が低いままであったことを表しているからだ。バブル崩壊後になかなか打ち破ることのできなかった実質設備投資のGDP比の17%弱の天井を打ち破ることが、デフレ構造不況からの脱却の転換点となる。設備投資サイクルが天井の突破に向けて動き出すことで、企業の長期的な成長期待と収益期待がついに上昇したことが意識されるからだ。労働需給逼迫などによる生産性と収益率の向上の必要性、第四次産業革命を背景としたAI・IoT・ロボティクスを含む技術革新、遅れていた中小企業のIT投資、老朽化の進んだ構造物の建て替え、都市再生、研究開発、そして新型コロナウィルス感染拡大後の新常態への適応などの投資テーマがある。コロナショック下でのIT技術の活用の経験がイノベーションを促進するかもしれない。企業の投資に障害となる規制を取り除き、制度を改変し、既存の需要を取り込むだけではなく、新たな需要を創出するとともに、硬直化した行政が障害となっているのであれば改革を進めようとする河野氏の考え方は正しいだろう。
高市氏の改革ではなく投資中心の成長戦略への転換は正しい
財政政策はこれまでの緊縮路線から拡大路線に向かっていくことが、総需要拡大と財政資金の投資による支援を含め、設備投資サイクルの上振れという転換点への動きを後押しするだろう。規制緩和を含む構造改革を推進しようとしても、これまでは家計が疲弊していて総需要が足りず、投資の期待リターンが低いため、企業は投資に躊躇してしまうことになっていた。財政拡大をともなう所得分配で、家計に所得を回し、総需要を拡大し、企業の投資の期待リターンを上昇させ、企業の投資を拡大するアプローチは重要だ。更に、政府が成長戦略に基づき財政資金を投資することで、企業の投資のファイナンスを支援するとともにコストを削減し、投資の期待リターンを上昇させることも可能だろう。第四次産業革命や脱炭素、そしてサプライチェーンの強化という強い中長期的な投資テーマが存在し、成長戦略に基づく財政資金の投資の方向性は定めやすいだろう。アベノミクスの第三の矢の「民間活力を引き出す成長戦略」を、規制緩和を含む改革中心から、政府の投資中心へ転換し、総需要を拡大しながら成長戦略を推進する高市氏の考え方は正しい。
リフレ・サイクルの上振れが株式市場を押し上げた
日本の株式市場は米国に大きくアンダーパフォームしてきた。マーケットには誤解があった。日本のアンダーパフォームは、新型コロナウィルスのワクチン接種の遅れが主原因だとする考え方だ。日本のワクチン接種率は上昇して、米国に追いついてきているが、日本の株式市場の弱さは続いてきた。年末までには日本が接種率で上回る可能性が高いが、米国から日本に株式のポジションを大きく移そうという動きはなかった。日米ともに、新型コロナウィルスによる経済低迷にもかかわらず、株式市場が上昇したのは、リフレ・サイクルが上振れたからだと考えられる。企業の貯蓄率と財政収支の合計であるネットの資金需要(GDP比、マイナスが強い)が市中のマネーが膨張する力であるリフレ・サイクルを示す。日本では、これまで消費税率引き上げを含む財政緊縮路線でネットの資金需要が消滅していて、市中のマネーが膨張できなかった。財政拡大によりネットの資金需要が復活して、そして大きくなり、リフレ・サイクルがこれまでの腰折れた状態から上振れ、市中のマネーが膨張する力が生まれた。その後、財政拡大を続けている米国と、消極的な日本で、リフレ・サイクルの方向感に違いが出ていた。リフレ・サイクルが強いままである米国と、弱くなるリスクが感じられる日本の差が、ワクチン接種率の動きよりも、株式市場のパフォーマンスの差に表れてきていたと考えられる。
新型コロナウィルスの感染抑制だけでは内閣の支持率と株式市場は強く上昇しない
現在、マーケットにはまた誤解が生まれてきているとみられる。新型コロナウィルスの感染拡大が抑制されれば、株式市場が強く上昇するという誤解だ。緊急事態宣言が連発され、経済活動が抑制される中、所得環境が痛んでしまった国民も多く、感染拡大が抑制されても、所得環境が十分に改善されなければ、内閣への不満は解消されないだろう。企業は日々の流動性を負債の拡大でまかなっており、負債の安定的な返済が見えてくるほどに経済活動が回復するまで、内閣への厳しい見方が続くだろう。これまでの内閣を支持しない理由として、指導力がないという国民の回答が多いようだ。国民から評価されていない現行の政策の延長線上では、感染拡大が抑制されただけでは、新たな内閣も国民の強い支持は得られない。支持率の強い持ち直しには、新たな能動的な政策によって結果を出す必要があるだろう。
民主主義における政治に求められるのは徳性
権威主義的な国々が強権を発動し、経済活動を抑制することで、新型コロナウィルスの感染が抑制されたという印象があるようだ。指導力がないという評価を覆すために、新たな内閣が強権を発動し、都市のロックダウンなどで民間の犠牲のもとに経済活動を抑制するようなことになれば、感染拡大が抑制されても、内閣の支持率は下がると考える。緊急事態宣言下でも人流が減らないのは、家計と企業の体力が弱れば弱るほど、経済活動を維持するための人流が増加してしまうからだ。単純に慣れや気のゆるみが問題ではないだろう。ロックダウンの負担を民間に押し付けるような政策は支持されないだろう。国民は、民主主義における政治が試行錯誤と妥協を繰り返しながら遅々たる歩みで政策を遂行しなればならないことには、もどかしさを感じながらも、理解はしているだろう。決して、権威主義的な国家のような強権と人権抑圧をともなった政治の指導力を求めてはいないだろう。民主主義における政治に求められるのは徳性であると考えられる。国民に寄り添う形で政府が責任と負担を大きく負うことで、国民を目的に向かって動かすことが望まれる指導力だろう。
安定政権となるには国民に寄り添う財政拡大が必要
大規模な経済対策で、家計と企業への支援を大きくして、国民に寄り添う形を鮮明にすることが、政治の安定だけではなく、リフレ・サイクルの強さを維持し、日本の株式市場が上振れるための条件であると考える。自民党内の主導権がこれまでの主流派のミクロ政策からリフレ派のマクロ政策に再び移り、財政政策はこれまでの緊縮路線から拡大路線に向かっていくことで、堅調なリフレ・サイクルが、日銀の緩和的な金融政策とともに、デフレ完全脱却まで継続する可能性が高い。菅首相が総裁選への不出馬を決め、新たな政府による経済対策の期待で株式市場が上昇したのがその萌芽だ。経済対策の推進とともに感染拡大が抑制され、経済活動の回復につながれば、新たな内閣の功績として、支持率は上昇する可能性が出てくる。新たな政府が順調なスタートを切るには大規模な経済対策で国民に寄り添っていることを明確にする必要がある。
改革期待だけでは株式市場の上昇の持続性はない
結論は、次の自民党総裁と首相が誰であっても、自民党内の主導権がこれまでの主流派のミクロ政策からリフレ派のマクロ政策に再び移り、財政政策はこれまでの緊縮路線から拡大路線に向かっていくという経済政策のインプリケーションは変わらない。経済政策はアベノミクスとは違うものになるというのは間違いで、現行の金融緩和の枠組みは維持され、財政政策が緊縮から一線を引いて所得の分配を目指した拡大に転換し、成長戦略もコスト削減ではなく政府の投資を重視することで、事実上、アベノミクスの不完全であったリフレ政策が家計に所得を回すようなより完成したものになるだろう。新たな内閣が大規模な経済対策を策定し、デフレ構造不況脱却までの財政拡大のコミットメントを強くし、マーケットが転換を確信した時、株式市場の水準はもう一段切り上がるだろう。そして、総需要の拡大と成長戦略で企業活動が刺激されることで設備投資サイクルが上振れ、企業の長期的な成長期待と収益期待がついに上昇したことが意識されれば、デフレ構造不況脱却の機運で、株式市場は上昇が更に強くなるだろう。一方、規制緩和を含む構造改革の進展のみが期待されても、成長戦略が作用する設備投資サイクルが上振れるまでに、財政政策が拡大路線から緊縮路線に再び回帰してしまえば、総需要拡大の力がなく構造改革は果実を実らせることはできず、期待で上昇した株式市場には大きな失望が生まれるだろう。財政拡大のリフレ政策の基盤の上で、岸田氏の所得分配、高市氏の財政成長投資、そして河野氏の制度改革が合わされば、日本経済はデフレ構造不況脱却に向けて強い推進力を得ることができるだろう。次の自民党総裁と首相が誰であっても、他の候補を登用して政策を取り込み、一丸となって日本経済のデフレ構造不況脱却を目指してもらいたい。候補者同士が激しく対立するこれまでの総裁選とは違い、対立候補を排除するなどして自民党内を分断することはせず、一丸となることは可能だろう。
図1:インフレ経済下の因果関係の方向
図2:デフレ経済下の因果関係の方向
図3:リフレ・サイクルを示すネットの資金需要(企業貯蓄率+財政収支)
図4:設備投資サイクルを示す実質設備投資GDP比
田キャノンの政策ウォッチ:総裁選の主な候補者の主張と経済対策のメニュー
l 岸田前自民政調会長
小泉改革以降の新自由主義的政策を転換。
デフレ脱却が最大のマクロ政策の目標。
予算の単年度主義の弊害是正、複数年度の視点反映検討。
所得税負担率が1億円以上の高所得者層になると低下するのは是正すべき。金融所得税制を考え直す必要がある。中間層の復活へ。
令和版所得倍増計画の推進。看護師らの所得引き上げを実現する。
2%の物価目標は世界標準であり、変えるとおかしななメッセージになる。
数十兆円の規模の経済対策を速やかに実施する。
分配を重視した日本型資本主義を構築。
大胆な金融政策、機動的な財政政策、成長戦略のアベノミクスの継承。
公衆衛生上の危機発生時に強い指揮権限を有する「健康危機管理庁」創設の提唱。
国が主導して野戦病院などを開設、大規模宿泊施設を借り上げ。
財政出動や金融緩和をしっかり進める、続ける。
経済あっての財政。経済正常化はかり財政健全化も考える。
成長なくして分配なし、分配なくして消費需要も盛り上がらず、経済成長も実現できない。
消費減税は決して否定しない。消費税は当面触らない。
原発はクリーンエネルギーの選択肢。原発の新増設の前に、既存の原発の再稼働を進めることが大切。
年明けに通常に近い経済活動を取り戻すことを目標にする。
来年春までを見通せる家賃支援給付金、持続化給付金の再支給。地域や業種を限定しない。
(一律給付金については)コロナで悲鳴をあげている方がいる一方、巣ごもり需要の影響を受けている方もいる。
予約不要の無料PCR検査所を拡大。
半導体などの重要物資に関する経済安全保障推進法を作成、経済安全保障担当の専任大臣を設置。
経済対策のパッケージを示し、補正予算など財源はその後検討する。
正規・非正規にかかわらず、企業で働くすべての人が社会保険に入れるようにする。
子育て支援のための住居・教育費支援。
l 高市前総務相
菅内閣はアベノミクスの二本目の矢「機動的な財政出動」を踏襲していない。
アベノミクスを引き継ぐ、サナエノミクスを実行する。
第2の矢「機動的な財政出動」は緊急時の迅速な大型財政措置に限定。
第3の矢「民間活力を引き出す成長戦略」は「改革」が主だったが、これを「投資」に変える。
2%の物価上昇目標を達成するまでは、財政健全度を示す基礎的財政収支黒字化を時限的に凍結。安倍政権下では黒字化にこだわりすぎた。
経済を立て直すことが社会保障を確保する道。
一刻も早い補正予算の編成が必要。本当に必要なものに絞り込んで積み上げる。
仕事がなくなった人に定額給付金の再給付を考えている。
消費税率を下げる選択肢はない。
給付付き税額控除の検討。
金融所得税制は逆進性が大きい、増税を検討。中間層の再構築。
自然災害やサイバー犯罪などの危機管理投資が必要。
産業用ロボットやマテリアルなどの技術分野や新技術への成長投資が必要。
日本国債は自国通貨建て国債なのでデフォルトしない。
基礎的財政収支が赤字でも、名目金利を上回る名目成長率を達成すれば、財政は改善する。
企業は借金で投資を拡大して成長する。国も成長に繋がる投資に必要な国債発行は躊躇するべきではない。
行き過ぎたインフレの兆候が見られた場合には、年間の投資額を柔軟に調整。
国家安全保障・投資法、経済安全保障包括法の制定が必要。先端技術の海外流出を防ぐ。
外国人研究者へのビザ発給を厳格にする。
ロックダウンを可能にする法整備を早急に検討。
新型コロナウイルス治療薬の早期投与で重症者・死亡者数の極小化。
コロナ終息後は爆発的な消費拡大期が来るので、事業者を支える。
小型核融合炉を支援。原子力の平和利用は必要。
サイバーセキュリティー庁を創設。金融分野などのサイバー防御体制の高度化急ぐ。
令和の省庁再編にチャレンジしたい。復興庁の拡充。
迅速な敵基地無力化の能力が必要。
憲法改正を検討。
l 河野規制改革相
誰一人取り残されない国家を作りたい。企業から個人を重視する経済を考えたい。
所得が低い人には「マイナスの所得税」で直接給付。アベノミクスは賃金まで波及してこなかった。
消費減税は今のところ考えていない。
基礎的財政収支はさまざまな議論必要。
経済対策の原資は国債にならざるを得ない。規模感は研究したい。
GDPギャップ埋める中で必要な投資をする。有事の財政は避けられないが、どこに出すかの議論は必要。
インフレ率は経済成長の結果。こういう状況で2%目標に達成するのは難しい。
金融市場への配慮は必要だが、金融所得課税は一定程度引き上げる必要があるのでは。
賃上げ促進のため、労働分配率を一定以上引き上げた企業は、法人税の優遇税率の適用。人件費を増やした企業に法人税を減免。
防災・減災、復旧・復興を目的とした土地収用及び土地利用の制限。
再エネ転換のための規制改革。
産業界も安心できる現実的なエネルギー政策を進める。
カーボンニュートラルを目指すうえで原発はある程度必要。いずれ原子力はなくなるが、来年やめろというつもりではない。
原子力発電の新増設は現時点で現実出来はない。
運輸部門でもカーボンニュートラルは待ったなし。
職業別・年齢別の医療保険制度を止めて一本化。
レセプトデータを活用して、積極的に医療費を削減。
ワクチン接種進展は日本経済を前に進める上で大きな意味がある。
行政のデジタル化で、雇用のミスマッチの解消や所得の公正な再分配と格差の是正を目指す。
民主主義など共通価値観を持つ国々と一緒に外交を進めたい。
環境・気候変動対策と経済の好循環を創る。
コロナ対策で必要な時には思い切った人流抑制。
行為の安定継承へ政府の有識者会議の議論を尊重。
新しい時代にふさわしい憲法改正を進める。
国家安全保障戦略を見直し防衛力を強化。
経済対策の想定されるメニュー
l 医療への支援:感染症対応の医療提供体制を強化し、病床が最大限活用される流れを確保。感染者急増時には、専門病床を一時的に増やす緊急時対応の構築。感染症患者を受け入れる医療機関への経営上の支援や病床確保の支援。
l 教育・科学技術・インフラ投資:本年度中に運用開始する大学ファンドの規模を拡大。
l 家計支援(子育て支援):子ども庁創設。子ども・子育て支援の拡充、住居費の支援拡充。幼稚園・保育所一元化を目玉政策に。出産費用助成の拡充。高校生の医療費の無償化。大学・専門学校等においてデータサイエンス教育の拡充。非正規雇用から正規雇用への労働移動の支援。
l 成長戦略:先端半導体の設計や製造技術の開発を、研究開発基金などで積極的に支援することや、先端半導体の生産拠点の日本への立地を推進して、確実な供給体制の構築。
l 脱炭素:再生可能エネルギーの主力電源化を徹底、国民負担の抑制と地域共生を図りながら支援。急速充電設備の設置による電気自動車の普及拡大。
l デジタルトランスフォーメーション:5G整備計画を税制支援も通じて加速。データセンターの国内立地・新規拠点整備。
l サイバーセキュリティ:サイバー攻撃に対応する技術開発、人材育成、産学官連携拠点の形成。
l 企業支援:緊急事態宣言の休業対象である酒類事業者などを支援。賃上げ促進のため、「事業再構築補助金」を拡充。事業継続や事業再構築を支援したり、企業の財務基盤強化のため、資本性資金の供給や優先株の引き受けを更に推進。雇用調整助成金等の特例措置の継続や拡充。飲食・宿泊業などへの支援金の拡充。
経済対策のより能動的なメニュー
l 給付金
特別定額給付金の第2弾、家賃や通信料などの固定費支援
l 減税、支払い猶予、税還付、減免
消費税、所得税、住民税、社会保険料、法人税、公共料金
l 雇用支援
賃金助成金、所得損失補填、失業保険の拡充
l 子育て支援
若い子育て世帯の住居費や教育費の支援強化、学校の一斉休業に伴う臨時的な休業手当、仕事を休めない親に無料保育
l ワクチンパスポート
ワクチン接種のインセンティブの策定
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岡三証券チーフエコノミスト
会田卓司
岡三証券エコノミスト
田 未来