若さというのは、かけがえのないものだ。人生にとって本当に大切なものは何か、幸せとは何か、自由とは何か……ロンドンで学生生活を送っていた10代の頃、そんなテーマで友人たちと一晩中議論したことがある。あの頃はどんな話題でも、議論のネタになった。12月のその晩、宿を提供してくれた友人はアルバイトを3つ掛け持ちしながらビジネススクールに通うベネズエラ出身の苦学生だった。彼女が英国人の老夫婦から間借りしていた部屋は「クリスマスとイースターサンデー以外の日の午後8時以降はヒーターをつけない」がルールであった。12月のロンドンの寒さは厳しい。でも、当時の筆者と友人たちは、そんな寒さをものともせず熱い議論を交わした。

その日のテーマは「起業」だった。ベネズエラ出身の彼女が「たとえ学生でも、その人にとって心の底からやりたいものを見つけることができれば、そこに人生の全てをかける価値があると考えるなら、迷わず起業すべき!」と主張したのに対し、「ろくな知識もないのに起業するのは無謀よ」「泳ぎ方を知らないのに、いきなりドーバー海峡に飛び込むようなもの」と反論されていた。彼女は「そんなことは関係ない。まずは勇気をもってドーバー海峡に飛び込むことが大切だよ。泳ぎ方はそれから覚えればいいんだ」といった感じで、売り言葉に買い言葉の舌戦が続いた。しばらくして友人の一人がベネズエラ出身の彼女に問いかけた。「で、あなたは何をやりたいの? 人生の全てをかける価値があるものって何?」「……分からない。それが問題なのよね」そう、それが最大の問題だった。カーテンの隙間がうっすらと白み始め、睡魔が忍び寄ってきた頃、彼女は突然立ち上がり「あたしは起業家として大成功してみせる!」と叫んだ。

その後、彼女がどうなったかはさておき、近年は若い世代のセルフメイド・ビリオネア(自力で純資産10億ドル以上の大富豪になった人)が続々と誕生している。そこで今回は、新型コロナ禍で誕生したセルフメイド・ビリオネアの中から特に注目される若い世代(Young Self-Made Billionaires)にスポットを当ててみよう。

オースティン・ラッセル「最年少のセルフメイド・ビリオネア」

起業,成功例
(画像=cba / pixta, ZUU online)

若い世代のセルフメイド・ビリオネアで、まず注目したいのがルミナー・テクノロジーズのオースティン・ラッセルCEO(最高経営責任者)だ。現在26歳のラッセル氏は、自動運転車(AV)で車両の周辺環境を検知する高精度センサー「LiDAR(ライダー)」の生みの親でもある。米経済誌フォーブスのWebサイトで公表されている「リアルタイム純資産」によると、ラッセル氏の純資産は2021年10月2日時点で16億ドル(約1777億607万円)となっている。