シンカー:2021年度は、新型コロナウィルスの感染拡大が続いたが、経済対策の効果などで信用サイクルが持ちこたえることで、景気が回復のないL字型となるのは回避され、ワクチン接種が進む中で、緩やかなU字型の回復が継続するだろう。しかし、経済活動の停滞感はまだ残るだろう。2022年度には、第四次産業革命、デジタル・トランスフォーメーション、脱炭素などの投資テーマで設備投資サイクルが上振れ、企業の新たな商品・サービスの投入が消費を刺激する好循環が、グリーンやデジタルなどのニューフロンティアを拡大する政府の成長投資を含む経済対策の効果と合わせて、景気回復をU字型から経済活動の停滞感を払拭するV字型に変えるだろう。ウィルス問題の終息後は、企業の成長期待の上振れによる投資拡大と失業率低下にともなう賃金上昇による消費回復が両輪となる内需拡大が、成長を自立的にけん引するようになるだろう。

会田卓司,アンダースロー
(画像=PIXTA)

成長—内需主導の自立的な形に進化していく

2021年度は新型コロナウィルスの感染拡大が続いたが、昨年と比較をすれば経済活動の水準は緩やかに回復してきている。感染拡大が継続しても、都市のロックダウンのような措置がとられない限り、実質GDP成長率への影響は限定的だとみる。一つ目の理由は、企業・家計ともに体力が低下し、経済活動を維持するための人流を必要としていることで、緊急事態宣言下でも人流は減少しにくくなってきている。二つ目の理由は、感染拡大が続けば、企業・家計の支援の必要性が増し、政府の経済対策の規模と回数も増加するとみられるからだ。衆議院選挙に続き、2022年夏の参議院選挙までには景気回復を促進しなければならない。2021年秋、2022年初、そして2022年夏までに三段ロケットの経済対策が実施されるだろう。希望する国民すべてが2回目のワクチン接種を完了する10−12月期からは経済活動の回復速度が上がるだろう。2021年度の実質GDP成長率は+3.2%となり、2020年度の同−4.5%からリバウンドするだろう。後ずれしてきたサービスの消費需要が戻り、第四次産業革命、デジタル・トランスフォーメーション、脱炭素などの投資テーマで設備投資も押し上げとなり、2022年度の実質GDP成長率は同+3.5%と高い水準を維持するだろう。投資テーマを背景とした海外の需要は強く、円安水準が維持されることもあり、輸出も堅調に回復していくだろう。ウィルス問題の終息後は、企業の成長期待の上振れによる投資拡大と失業率低下にともなう賃金上昇による消費回復が両輪となる内需拡大が、成長を自立的にけん引するだろう。

図1:実質GDP成長率と水準

実質GDP成長率と水準
(画像=内閣府、Refinitiv 作成:岡三証券)

労働−信用サイクルが持ちこたえ景気はU字型の回復が継続

日本経済は輸出・製造業から内需・サービス業中心に変化し、在庫サイクルより信用サイクルの影響を強く受けている。日銀短観中小企業貸出態度DIは、民間の信用が拡大できる環境かを示す信用サイクルとして、雇用の拡大を牽引するサービス業の動向を表し、失業率に明確に先行する。DIは異次元の金融緩和などでバブル崩壊後の圧倒的な高水準に到達し、信用サイクルは堅調である。ウィルス問題が長引いていることが下押しリスクだが、政府・日銀は企業の流動性対策を既に大幅に拡充してきた。企業は流動性を負債の拡大で維持してきた。流動性から負債の維持が困難となるソルベンシーの問題に深刻化することは、経済活動の水準が底割れないことと、政府の数度の経済対策で防がれるだろう。DIは高水準を維持し、信用サイクルは腰折れず、景気が回復のないL字型となるのは回避され、ウィルス問題が小さくなるに従い、緩やかなU字型の回復が継続するだろう。しかし、経済活動の停滞感はまだ残るだろう。2022年度は、ウィルス問題が小さくなるとともに企業活動は再活性化し、失業率が2%台前半に低下する中で賃金上昇が強くなり、内需は強く拡大するだろう。ウィルス問題で労働市場から退出していた労働者が、デジタル環境の拡充を含めた就業環境の改善で戻るだろう。サービス業の復調などで企業の労働者需要は旺盛で順調に雇用され、総賃金もしっかり拡大するだろう。デジタル技術革新は労働生産性向上の力になり、実質所得を増加させるだろう。

図2:信用サイクル(日銀短観中小企業貸出態度DI)と失業率

信用サイクル(日銀短観中小企業貸出態度DI)と失業率
(画像=総務省、日銀 作成:岡三証券)

企業—設備投資サイクルが強くなり景気回復はV字型に進展

異常なプラスの企業貯蓄率が示す弱い企業活動が、総需要を破壊する力として内需低迷とデフレの長期化の原因となってきた。ウィルス問題で業績が悪化している飲食・宿泊などの設備投資は極めて弱い。一方、デジタル・トランスフォーメーションや脱炭素などの投資テーマがあり、ウィルス問題下の新常態に対応するためのデジタル投資の拡大もあり、設備投資サイクルは腰折れなかった。堅調な信用サイクルと合わせ、企業貯蓄率の上昇による総需要の破壊の力は強くならなかった。第四次産業革命を背景としたAI・IoT・ロボティクスを含む技術革新、デジタル・トランスフォーメーションという新しいビジネスモデル、遅れていた中小企業のIT投資、脱炭素への取り組み、老朽化の進んだ構造物の建て替え、都市再生、研究開発、そしてウィルス問題後の新常態への適応などの投資テーマには広がりがある。コロナショック下でのIT技術の活用の経験もイノベーションを促進するだろう。経済活動が回復してくれば、労働需給逼迫で、生産性と収益率を投資によって向上させる必要性が強く意識されるだろう。2022年度から2023年度にかけては、企業の新たな商品・サービスの投入が消費を刺激する好循環が、グリーンやデジタルなどのニューフロンティアを拡大する政府の成長投資を含む経済対策の効果と合わせて、景気回復をU字型から経済活動の停滞感を払拭するV字型に変えるだろう。設備投資サイクルを示す実質設備投資のGDP比率はバブル崩壊後初めて17%弱の強固な天井を打ち破り、企業の期待成長率・収益率が上振れ始めたことを示すだろう。企業貯蓄率は低下していき、2023年度にはマイナスとなり、総需要を破壊する力がなくなることでデフレ脱却の条件が整うだろう。内需の拡大は、貯蓄・投資バランスとして、国際経常収支の黒字額を抑制していくだろう。

図3:設備投資サイクル(実質設備投資GDP比)と企業貯蓄率

設備投資サイクル(実質設備投資GDP比)と企業貯蓄率
(画像=内閣府、日銀、岡三証券 作成:岡三証券)

表:日本経済見通し

日本経済見通し
*寄与度 **資金循環統計ベース(画像=内閣府、総務省、財務省、日銀、Refinitiv 、岡三証券 作成:岡三証券)

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岡三証券チーフエコノミスト
会田卓司

岡三証券エコノミスト
田 未来