「このガソリンスタンドも売り切れのようだ。隣町に行ってみよう」

次々と行列から離脱する前方の車から状況を察した夫は、そう言ってハンドルを切った。これでもう5軒目だ。我が家のディーゼル車に残されたわずかな軽油で無事に次のガソリンスタンドへ辿り着けるのか。給油ランプが普段以上に気にかかる。不安な思いを抱えながら、家族を乗せた車は隣町へ向かって走り出した。

結局、その日は夫が遠方で予定していた仕事や、娘の習い事を延期するなど生活に支障をきたした。10月最初の週末、英国全土でガソリンスタンドが大混乱に陥っていた。

英国ではエネルギー価格の高騰を受けて格安ガス・電気会社の経営破綻が相次いでいる。加えて、新型コロナ禍の規制やブレグジット後の移民制限などを背景に、トラック運転手の労働力不足も深刻化、全国各地のガソリンスタンドに輸送する物流システムに支障をきたしている。10月4日には英陸軍の輸送部隊が投入される事態となったが、消費者の不安は募るばかりだ。

エネルギー不足は筆者が暮らす英国だけの問題ではない。他の欧米諸国や中国、日本でもエネルギー価格が上昇しており、一部メディアからは「世界的エネルギー危機(Global energy crisis)」に警鐘を鳴らす声もある。新型コロナ禍の世界で何が起きているのだろうか。詳しく見てみよう。

エネルギー不足、光熱費が3~4倍に跳ね上がった国も

エネルギー危機,とは
(画像= Graphs / pixta, ZUU online)

『コラム:世界的エネルギー不足、需要急拡大に追いつけない生産』そんなタイトルがロイター通信のヘッドラインに並んだのは9月24日のことだった。欧州では天然ガスと電力、中国では石炭の価格がともに過去最高水準に達したほか、米国でもガス価格や原油価格が高値圏で推移していると記事は伝えていた。エネルギー価格が高騰しているのは需要の急拡大に生産が追いついていないためだ。