その日は気持ちの良い秋晴れだった。こんな日は外で原稿を書くのも悪くない。
ノートパソコン片手に自宅から5分ほど歩くと、マロニエの木々に囲まれた大きな公園が見えてきた。秋風が心地良いこの季節、およそ3平方キロメートルの公園の地面は茶色い絨毯を敷き詰めたように、マロニエの木から落ちた枯れ葉とコンカー(トチの実)に覆いつくされる。日本では秋になると子どもたちがどんぐり拾いに夢中になるように、英国の子どもたちはコンカーを拾って遊ぶのだ。
実はこの公園、1938年に地元の有力者で富裕層のハーバート・マックヴァイカー氏が、自らの所有地を市に寄付して造られたものだ。マックヴァイカー氏に関する個人的な情報はほとんど公表されていないが、地元のお年寄りからは「マックヴァイカーさんは立派な人だったよ」「すべての子どもたちには『スポーツを平等に楽しむ権利を与えられるべき』と主張していたんだ」「子どもたちのためにスポーツ用品をたくさん提供してくれたんだよ」といった話を耳にする。マックヴァイカー氏は1957年7月に85歳で亡くなられているが、地元の人には現在も敬愛されているようだ。
さて、マックヴァイカー氏の公園の誕生から80年余り。人類は戦争やオイルショック、 IT革命、金融危機など様々な変化を経験してきた。
特に近年は新型コロナウイルスの感染拡大に起因する、景気後退から経済が回復する過程でインフレ懸念が台頭、一部メディアからは「世界経済に物価上昇の逆風」(10月16日付、ロイター通信)と報じられる状況となっている。
富裕層といえども変化の波を避けるのは難しいようで、インフレ懸念の台頭とともに、富裕層が好む「超高級品」で構成される「Cost of Living Extremely Well Index(以下、CLEWI)」も2008年以来最大の上昇率を記録している。
今回は新型コロナ禍における、富裕層の台所事情を紹介したい。
オーデマ・ピゲの腕時計、ジョン・ロブの革靴…超高級品にもインフレの影
富裕層は収入も多いが、支出も多い。当然、物価変動の影響も小さくはない。そうした中で注目されるのは米経済誌フォーブスが発表している「CLEWI」だ。
「CLEWI」は日本語に訳しにくいのだが、前述の通り、富裕層が好む「超高級品」で構成されることから、あえて意訳すると「富裕層生活費指数」とでも呼ぼうか。10月10日に同誌が発表した最新情報によると、過去1年間で「CLEWI」は10.1%上昇し、2008年以来最大の上昇率を記録した。2008年といえばリーマン・ショックが発生した年でもある。