シンカー:岸田内閣の成長戦略は、分配政策で家計に所得を十分に回して消費を増加させることと、政府の成長投資を呼び水としてグリーンやデジタルなどの投資フィールドをニューフロンティアとして活性化させることで、投資の期待リターンを上昇させ、企業が刺激されて投資を拡大するようにすることで達成する。自民党の衆議院選挙公約で最も力が入っているのは、成長投資のメニューである。「成長投資とは、日本に強みのある技術分野を更に強化し、新分野も含めて研究成果の有効活用と国際競争力の強化に向けた戦略的支援を行うこと」と定義している。自民党の公約には、岸田氏の分配政策、河野氏の制度改革、高市氏の成長投資、そして野田氏の少子化対策がしっかり盛り込まれている。総裁選のすべての候補の主張を取り入れた公約は成長戦略として力がある。総裁選の岸田前政調会長と4人の合作の選挙公約に乗った岸田首相は違うと見るべきだ。あとはどれだけ大きな予算をつけられるかだろう。予算のつかない成長戦略は動かない。まずは衆議院選挙後に、家計と企業への支援、そして医療体制の拡充を含む、財政支出で30兆円程度の補正予算を国会で速やかに可決させるだろう。時間の制約で30兆円程度の積み上げができない場合は、来年度の本予算や来年初の追加補正予算でその不足分を補充することになるだろう。来年初の通常国会では、新型コロナウィルス問題が小さくなる中で、政府の成長戦略に基づいて、第四次産業革命や脱炭素を背景に、企業の投資活動を促進させるための再度の経済対策が策定されるだろう。そして、夏の参議院選挙前にも、景気回復を促進させる経済対策が策定されるとみる。三段ロケットの経済対策で「分配・成長」の好循環に推進力を与えるだろう。

会田卓司,アンダースロー
(画像=PIXTA)

株式市場のキシダノミクスに対する過小評価の原因は三つの誤解である。一つ目の誤解は、キシダノミクスはアベノミクスのリフレ政策から距離をおくことになるということだ。アベノミクスの大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略の枠組み(三本の矢)は、「新自由主義」モデルと「分配・成長」モデルを包含する上位概念であり、リフレ政策の枠組みに変化はなく、引き続き2%の物価目標を目指す。二つ目の誤解は、岸田内閣は変化より安定を重視しているということだ。これまでの「新自由主義」モデルの小さなミクロ政策の積み上げではなく、「分配・成長」モデルの政府投資を含むマクロ政策で経済を一変させようとする、より大きな改革が行われることになる。三つ目は、岸田内閣の分配政策は経済の効率化に逆行し、株式市場にネガティブだという誤解だ。不足している家計への所得分配を財政支出で促進することで、疲弊していた家計を立て直し、消費意欲を向上させることなどで、企業の投資に対する期待リターンが上昇するため、政府投資の拡大との相乗効果で、企業の投資が拡大し、将来の成長と収益の期待が高まる。

岸田内閣の成長戦略は、分配政策で家計に所得を十分に回して消費を増加させることと、政府の成長投資を呼び水としてグリーンやデジタルなどの投資フィールドをニューフロンティアとして活性化させることで、投資の期待リターンを上昇させ、企業が刺激されて投資を拡大するようにすることで達成する。これまでは家計への分配がなく、投資に消費が反応できなかったことで、投資の期待リターンを押し下げていた。官・民一体となった投資拡大で、資本ストックの積み上げ(資本投入量の増加)を目指す。企業の投資がイノベーションを生み、生産性が上昇し、雇用は拡大し、実質賃金も増加する。資本蓄積に全要素生産性を加えたものが労働生産性であり、労働生産性の向上は賃金上昇につながる。1990年代から企業貯蓄率は恒常的なプラスの異常な状態となっており、企業のデレバレッジや弱いリスクテイクカ、そしてリストラが、企業と家計の資金の連鎖からドロップアウトしてしまう過剰貯蓄として、総需要を追加的に破壊する力となり、内需低迷とデフレの長期化の原因になっていると考えられる。企業の投資を活性化し、企業貯蓄率を正常なマイナスに戻し、総需要を破壊する力を消滅させる必要がある。

自民党の衆議院選挙公約で最も力が入っているのは、成長投資のメニューである。「成長投資とは、日本に強みのある技術分野を更に強化し、新分野も含めて研究成果の有効活用と国際競争力の強化に向けた戦略的支援を行うこと」と定義している。衆議院選挙では連立与党は、自民党が総裁選のすべての候補の主張を公約に取り入れて一丸となり、新たな政策に対する期待感で支持率の水準は上昇しているため、過半数の議席を獲得し(自民党だけでも過半数)、政権は維持されるだろう。自民党の公約には、岸田氏の分配政策、河野氏の制度改革、高市氏の成長投資、そして野田氏の少子化対策がしっかり盛り込まれている。総裁選のすべての候補の主張を取り入れた公約は成長戦略として力がある。総裁選の岸田前政調会長と4人の合作の選挙公約に乗った岸田首相は違うと見るべきだ。あとはどれだけ大きな予算をつけられるかだろう。予算のつかない成長戦略は動かない。

まずは衆議院選挙後に、家計と企業への支援、そして医療体制の拡充を含む、財政支出で30兆円程度の補正予算を国会で速やかに可決させるだろう。時間の制約で30兆円程度の積み上げができない場合は、来年度の本予算や来年初の追加補正予算でその不足分を補充することになるだろう。来年初の通常国会では、新型コロナウィルス問題が小さくなる中で、政府の成長戦略に基づいて、第四次産業革命や脱炭素を背景に、企業の投資活動を促進させるための再度の経済対策が策定されるだろう。そして、夏の参議院選挙前にも、景気回復を促進させる経済対策が策定されるとみる。三段ロケットの経済対策で「分配・成長」の好循環に推進力を与えるだろう。

田キャノンの政策ウォッチ:衆院選自民党公約と自民党総裁選候補者主張の対応表

衆議院選挙に向けて自民党が発表した政権公約と、9月の自民党総裁選候補者の主張の対応表を作成した。4候補者の主張が政権公約に反映されている。また、政権公約は重点政策なのに対して、政策集を記した「政策BANK」にはより細かい記載がある。候補者の主張によっては、政権公約ではなく、政策BANKに反映されているものもあるが、ここでは掲載していない。なお、以下の政権公約は一部抜粋であることに注意していただきたい。

衆議院選挙に向けて自民党が発表した政権公約と、9月の自民党総裁選候補者の主張の対応表 自民党が発表した政権公約と、9月の自民党総裁選候補者の主張の対応表
(画像=出所:自民党、岡三証券 作成:岡三証券)

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岡三証券チーフエコノミスト
会田卓司

岡三証券エコノミスト
田 未来