オランダから英国に戻って2カ月余り。最近は散歩をかねて、毎週土曜日に地元のこぢんまりとしたアンティーク・マーケットを訪れるのが習慣となっている。広場には簡易テントの露店が並び、結構なにぎわいだ。

その日、筆者はアンティークコインを取り扱っている露店で「永楽通宝(えいらくつうほう)」と彫り込まれた硬貨を見つけた。スマートフォンで調べてみると、中国明朝の1408年から1424年に鋳造された銅銭で、日本においても室町時代から江戸時代初期にかけて標準的通貨として流通していたという。しかも、戦国武将の織田信長は永楽通宝の意匠を旗印として用いていたそうだ。

その古銭を手にとってしげしげと眺めていると、心なしか何とも言えない異質な存在感を放っているようにも感じられる。いにしえの「戦国ロマン」のなせる技だろうか。

21世紀の現在、筆者が暮らす英国でもキャッシュレス決済が広く浸透している。カードやスマホを端末にかざして支払うのが当たり前になり、現金(キャッシュ)という概念そのものが変わろうとしている。

その「変化」はビジネスの観点からも、投資の意味においても大きなチャンスと言えるのかもしれない。たとえば、世界で流通している暗号資産(仮想通貨)の種類は2020年3月末時点で5,000種類以上(日本暗号資産取引業協会『暗号資産取引についての年間報告(2019年度)』)とも言われ、さながら戦国時代の群雄割拠のようでもある。

最近ではMeta(メタ=旧フェイスブック)が、デジタルウォレット「Novi(ノビ)」の試験運転を開始したと発表した。筆者としては同社が提唱するステーブルコイン「Diem(ディエム)」の行方も気になるところだ。2004年に設立し、SNSの覇者として急成長を遂げたメタは、暗号資産でも「天下布武」を成し遂げることができるのだろうか?

今回は「ノビ」の話題を中心にお届けしたい。

国際送金の常識が変わる? デジタルウォレット「ノビ」

ノビ,デジタルウォレット
(画像=metamorworks / pixta, ZUU online)

10月19日、メタは米国と中米のグアテマラでデジタルウォレット「ノビ」の試験運転を開始したと発表した。ノビは米国の暗号資産交換業大手のコインベース・グローバルやパクソスと組んでサービスを提供する。

利用者がノビのアプリ(デジタルウォレット)に入金したお金は、米ドルに連動するステーブルコイン「USDP」に交換される。1ドル=1USDPのレートで「USDP」に交換し、その「USDP」をデジタルウォレットの間でやりとりする仕組みだ。デジタルウォレット間で送金する手数料は無料で、即座に送金することが可能だという。

一般的に国際送金(海外送金)といえば、手数料がかかるうえに、為替変動リスクや送金に時間を要するものである。筆者も国際送金を利用しているが、これらはデメリットというよりも「半ば常識的なコスト」だと考えていた。しかし、ノビを利用すれば手数料は無料で、即座の送金も可能になる。

ノビの公式サイトでは、まるで「メッセージを送受信するのと同じくらい簡単に送金できる」と説明している。前述の通り、現在は米国とグアテマラで試験運転中であるが、世界中どこからでも迅速にお金のやりとりが可能になるとすれば画期的だ。