「ガイ・フォークス・ナイト」をご存じだろうか? 1605年に英国で起きた出来事に由来する祝日である。当時、ローマ・カトリック教徒たちが、プロテスタントの国王ジェームズ1世の暗殺を企てていた。しかし、同年11月4日の深夜、首謀者の1人であるガイ・フォークスという人物が逮捕されたことによって計画は失敗に終わり、翌5日には一般市民がたき火をして国王の生存をお祝いした。以来、11月5日は祝日となり、英国各地でガイ・フォークスを模(かたど)った人形を燃やしたり、花火を打ち上げてお祝いするのが習慣化したのである。ちなみに、ガイ・フォークス・ナイトは「ボンファイア・ナイト(たき火の夜)」とも呼ばれている。
さて、2021年11月5日も英国各地でガイ・フォークスの人形を燃やしたり、花火大会が開催されたのだが、首都ロンドンでは祝日(国で定めた祝いの日)とはほど遠い光景が見られた。ネルソン提督記念塔とライオン像で知られる「トラファルガー広場」では反コロナ規制のデモが行われたほか、国会議事堂前では抗議者がボリス・ジョンソン英首相の肖像を燃やし、警察官に向かって花火を発射するなど過激な行動におよんでいた。
筆者の暮らす英国では新型コロナ禍の規制もさることながら、ブレグジット(英国のEU離脱)後の移民制限なども影響して、食品・飲料業界やトラック運転手の労働力不足が深刻化している。その影響はサプライチェーンの寸断におよび、スーパーマーケットでの欠品が相次いだ。10月21日付の当コラム『光熱費の値上がりが止まらない!? 新型コロナ禍の世界を襲う「エネルギー危機」』で紹介した通り、エネルギー価格の高騰を受けてガソリン等の品不足も続いている。国民の不満は日を追うごとに蓄積されているように見受けられる。
そうした中、注目されるのは緑の党に象徴される「グリーンポリティクス(Green Politics)」の勢力拡大だ。後段で述べる通り、今年5月の地方選挙で緑の党の躍進が目立ったが、一方でボリス・ジョンソン政権も気候変動対策等を打ち出し、英国を「世界最高のグリーン投資国に成長させる」方針を打ち出しているのが現状だ。
今回は英国で広がる「グリーンポリティクス」の話題を中心にお届けしたい。
次世代を担う政策? 「グリーンポリティクス」
「気候への影響に関する情報開示、英国企業に義務化」(10月18日付、英BBCニュース)、「英政府、アジアの再生可能エネルギー投資信託に投資」(11月4日、英紙フィナンシャル・タイムズ)、「COP26:自然保護強化、炭素吸収源拡大、英政府が宣言」(11月6日付、ビジネスグリーン)。
上記は、英グラスゴーで10月31日~11月13日に開催された「COP26(第26回気候変動枠組条約締約国会議)」に関連したメディア各社のタイトルである。いずれも、COP26の議長国である英国の気候変動対策への積極的な取り組みを印象づける内容だ。
COP26は国際連合(国連)による「気候変動枠組条約」の参加国が、環境保護対策について議論するための会議である。今回はジョー・バイデン米大統領やエマニュエル・マクロン仏大統領を含む、約120カ国の首脳や代表団など約2万5,000人が参加した。いまや、国際政治においてSDGs(持続可能な開発目標)が重要な課題となっているわけであるが、英国でも次世代を担う政策として存在感を増しているのが「グリーンポリティクス」である。
まず、「グリーン」という言葉から想像がつくように、グリーンポリティクスはエコロジー・環境問題などに焦点を当て、目標達成に向けて活動するための政治的イデオロギーや社会運動を指す。たとえば、英国で存在感を増している緑の党もグリーンポリティクスを理念とする政党の1つだ。グリーンポリティクスは、エコロジー・環境主義のほか、反原発・反核、多文化主義、社会的弱者の保護、物質主義からの脱却、反戦など広範囲な問題に取り組む傾向にある。
世界各国の環境政党が所属する国際組織、グローバルグリーンズによると、世界には80近くの緑の党が存在する。また、ニューヨークに本部を置くCFR(外交問題評議会)が今年7月7日に公表したリポートによると、オーストリアやベルギー、フィンランド、ニュージーランドなどで緑の党が連立政権を確立している。先進国ではドイツで1970年代に発足した「ドイツ緑の党」が、1998~2005年にわたりSPD(社会民主党)と連立政権を樹立。2021年9月の総選挙では過去最高の約15%という得票率を獲得した。