シンカー:おはよう寺ちゃんの会田の経済分析(加筆修正済み)
【アーカイブ放送のYoutubeリンク】 https://youtu.be/HMT5bUdnFVA (11月19日放送分)

会田卓司,アンダースロー
(画像=PIXTA)

問:おとといの東京外国為替市場で円相場が一時、1ドル=114円97銭付近まで下落して、およそ4年8カ月ぶりの円安水準となりました。
※アメリカの景気回復期待を背景に円売り・ドル買いが加速した
※この円安の要因などについてはどうご覧になっていますか?

答:エネルギー価格の上昇により、消費者の購買力は削がれていますが、それ以上にこれまで積み上がった貯蓄の取り崩しと、
それを可能にする雇用や賃金の環境が改善していく期待が強いことが、堅調な消費活動を支えています。
これまで、給付金などの巨額の財政支出が家計を支えていましたが、今後も、インフラ投資などの成長促進策で財政拡大が継続します。
政策当局が景気の過熱状態をしばらく容認する高圧経済の好影響が、インフレの悪影響より、まだ大きいと考えられ、アメリカの景気回復期待が続いています。更に、ドル高はインフレを抑制しますので、景気回復期待にネガティブではないと考えられているのでしょう。

問:円安は今年に入って本格化しています。
※アメリカとヨーロッパの中央銀行は新型コロナウイルスの衝撃を緩和するために去年から展開してきた金融緩和の動きをやめている
※アメリカの中央銀行にあたるFRBは3日にテーパリング=量的緩和の縮小実施を発表した
※イギリスの経済紙フィナンシャル・タイムズは、「他の主要国と違い、日本だけ大規模金融緩和を続けているため、円安が続いている」と報じている
※日本が大規模金融緩和を続けていることについてはどう感じていますか?

答:景気回復期待が強く、物価が目標の2%を大きく超えている米国などが金融政策の正常化に緩やかに動き出しています。
それでも、景気回復にブレーキを掛ける金融引き締めではなく、アクセルを緩める金融緩和の縮小でしかまだありません。
景気回復期待がまだ弱く、物価がまだ目標を大きく下回っている日本が大規模金融緩和を続けることが当然です。
確かに、緩和の継続による円安がコスト増につながりますが、拙速な引き締めによる円高が経済の収縮とデフレの復活につながるリスクの方がまだかなり大きいと考えます。

問:輸入価格の上昇と円安進行で、ガソリンのほか、パンやスナック菓子など食品の値上げが相次いでいます。
※今年7~9月期の実質GDPは年率換算でマイナス3.0%となり、2期ぶりのマイナスとなった
※そんな足踏みが続く国内景気を、円安がさらに冷え込ませる恐れについてはどう分析されていますか?

答:まだ消費者物価は全体としてほとんど上昇していません。今後、1%程度の上昇となったとしても、消費者への負担は3兆円ほどになります。経済対策によって、それをオフセットするほどの給付はなされます。
本当の「悪い円安」は日本からの強い資本逃避をともなうものでありますが、その兆候はほとんどありません。
理由は、この円安の中でも、日本の企業は輸出価格の引き上げに成功するほどの力が維持されているからです。
黒田日銀総裁も指摘するように、円安はまだ日本経済にポジティブです。
ただ、強い賃金上昇が生れる前の持続的な生活コストの上昇に対する懸念が消費活動を抑制してしまう恐れがありますから、政府は家計への支援を継続する必要があります。

問:こうした中、円の総合的な実力を示す実質実効為替レートというものが、およそ50年ぶりの低水準に近づいています。
※この実質実効為替レートとはどういうものなのかを教えて下さい

答:為替レートを物価で調整することで算出されるものです。実質実効為替レートは、一単位の日本の消費財で、何単位の海外の消費財が買えるのかを意味します。アベノミクス前から現在まで、実質実効為替レートは30%程度も落ち込んでいます。
購買力の減退によって、日本は貧しくなり、「悪い円安」が進行して、アベノミクスは日本を貧しくしたという批判が生れているようです。

問:国際決済銀行が17日に公表した先月の数値は1972年並みの低さになっています。※日本の物価上昇率が海外に比べて低く推移したことに加え、輸出競争力を重視して円安につながるような政策を進めたことが要因
※円の実力がおよそ50年ぶりに低水準に接近…。かつてとは経済構造が変わり、円安は成長力の底上げに寄与していないとの声についてはいかがですか?

答:消費者物価には、海外との取引のできない家賃や教育などの非貿易財・サービスが含まれています。
実質実効為替レートの下落で日本が貧しくなったかのような議論は、すべてが海外との取引が可能であるかのような
非現実的な仮定が暗におかれています。貿易財・サービスのみで考える場合は、GDPの輸出デフレーターと
輸入デフレーターの比で表す交易条件を使うべきです。輸出する物・サービスの価格に対して、輸入の価格が大きく上昇し、
交易条件が大きく悪化していれば、日本が相対的に貧しくなったと言えなくもありません。アベノミクス以降の交易条件をみると、
ほとんど一定であり、大きな変化はないことが確認できます。実質実効為替レートの下落だけで、
アベノミクスが日本を貧しくしたというのは言い過ぎでしょう。

問:アメリカとヨーロッパ諸国に比べ、経済回復が出遅れている日本ですが…
※1ドル=115円まで下がればドル投資需要の急増で円安は加速化するとみられている ※となると、物価上昇にも大きく影響することになるのでしょうか?

答:円安の悪影響を緩和する、即ち実質実効為替レートを上昇させたいのであれば、財政を拡大することです。
これまでは円安で企業収益が増加しても、財政緊縮でマネーを吸収してしまい、家計の所得の拡大と物価の上昇が起きませんでした。
財政拡大によって、資本逃避はなく円安にはならないでしょうから、需要拡大が物価上昇を生めば、実質実効為替レートは上昇します。
日本は購買力を取り戻します。実質実効為替レートの下落で日本が貧しくなったかのような議論は、財政を拡大して是正すべきだという結論になります

【番組紹介】
文化放送 「おはよう寺ちゃん」 月~金 5:00~9:00
パーソナリティ 寺島尚正
コメンテーター 会田卓司(金曜日レギュラー出演)

【会田の出演日時】
金曜日 6:00-7:30

【ニュースコメント】
次へ5年ぶり円安水準 物価にも影響か
次へ経済対策55.7兆円きょう決定
次へ半導体 最高益に
次へ新築マンション バブル期より高値

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岡三証券チーフエコノミスト
会田卓司

岡三証券エコノミスト
田 未来