先進的な取り組みで市場にイノベーションを起こそうとしている未上場企業、その経営者たちは、大変化時代のどこにビジネスチャンスを見出し、その先をどのように捉えているのか。本特集ではZUU online総編集長・冨田和成が、成長株の未上場企業の経営者と対談を行い、その経営戦略に迫る。

今回のゲストは、株式会社バルクオム代表取締役CEOの野口卓也氏。バルクオムは、「メンズスキンケアブランド全世界シェアNo.1」を掲げ、国内はもちろんグローバルでもメンズビューティ市場でのシェアを拡大しつつある。最近では、TV-CMでも話題の同社に、その戦略と未来構想を聞いた。

(執筆・構成=三ツ井香菜)

株式会社バルクオム
(画像=株式会社バルクオム)
野口 卓也(のぐち・たくや)
株式会社バルクオム代表取締役
東京都出身。慶應義塾大学環境情報学部中退。ITベンチャー、飲食店など複数の企業を立ち上げ、2013年4月にTSUMO・JP株式会社BULK HOMME事業部を発足し、男性化粧品ブランド「BULK HOMME(バルクオム)」を立ち上げ。。2017年、組織再編を経て株式会社バルクオムを設立、代表取締役CEOに就任。
冨田 和成(とみた・かずまさ)
株式会社ZUU代表取締役
神奈川県出身。一橋大学経済学部卒業。大学在学中にIT分野で起業。2006年 野村證券株式会社に入社。国内外の上場企業オーナーや上場予備軍から中小企業オーナーとともに、上場後のエクイティストーリー戦略から上場準備・事業承継案件を多数手掛ける。2013年4月 株式会社ZUUを設立、代表取締役に就任。複数のテクノロジー企業アワードにおいて上位入賞を果たし、会社設立から5年後の2018年6月に東京証券取引所マザーズへ上場。現在は、プレファイナンスの相談や、上場経営者のエクイティストーリーの構築、個人・法人のファイナンス戦略の助言も多数行う。

メンズビューティ市場にすべてのリソースを割き、シェアを伸ばしてきた

冨田:この対談企画で初めての未上場企業となります。まさに飛ぶ鳥を落とす勢いで成長されていますが、創業からこれまでどのように事業を展開してこられたのでしょうか。

野口:バルクオムというブランド自体は、2013年4月に発売しました。当時からグローバル志向で、日本から世界に出て勝てる領域は何かを考え、日本の技術や品質の高さから化粧品事業に着目しました。なかでもメンズの領域では、グローバルで突出する企業がなかったため、そこに勝機を感じたんです。

株式会社バルクオム

当時は独立した企業ではなく私の親族の会社で新規事業として始めたもので、タイミングがあればその事業部ごと買い受けするという前提でした。そして、2017年にMBOという形で、株式会社バルクオムを新設してその事業部を買い取りました。

ブランドとしては、D2C企業だと言われることが多いのですが、実は2013年の発売開始から自社ECサイトと卸がバランスよく立ち上がっていました。自社ECでは、2015年にサブスクリプションサービスを開始してからユーザー数が積み上がっていき、ドライブをかけることができました。

商品展開は顔用のスキンケアがメインでしたが、最近はボディケアにヘアケア、そして今年は男性用のメイクアイテムも発売し、コスメティクスというカテゴリーを網羅しつつあります。海外への進出は、2017年に台湾を皮切りにして、今では十カ国以上の国と地域で販売していただいている状況です。

冨田:一気に拡大しましたね。ここ数年はメンズの美容市場が急拡大している印象ですが、どのあたりまでマーケットを捉えておられるのですか。

野口:まさにそこは、会社の長期ビジョンを策定するときに何度も考えている核心的な部分です。現段階では、ビジョンに「世界のメンズビューティをアップデートする」と掲げている通り、メンズのビューティ市場のみの展開を考えています。

株式会社バルクオム

我々は男性のスキンケアという領域に非常にバーティカルにすべてのリソースを割いてきて、それがシェアを伸ばしてこられた1つの要因だと思っています。なのでそこは退路を断って、バルクオムというブランドは男性のビューティにまつわる事業だけをやっていくと決めているんです。

冨田:なるほど。ミッションでも「メンズスキンケアブランド全世界シェアNo.1」と言い切っているので、カテゴリーを広げずに全資本を集中投下することによって戦い方を研ぎ澄ませていくということですね。

野口:仰る通りです。

認知度や好感度を着実に積み上げる王道ルートで、全チャネルを制す

株式会社バルクオム

冨田:これからメンズビューティ市場が伸びていく中で様々な企業が参入してくると思うのですが、バルクオムさんにはどのような競争優位があるとお考えですか。

野口:たしかにプレイヤーは年々増えていますが、各リージョンの中で成立しているブランドが多く、グローバルという観点ではまだそこまで目立つブランドはありません。なので、優秀なチームをつくって資本を投下し、日々しっかりと戦略を進めていけば、着実に成長すると考えています。現時点でここまできちんとリソースを揃えて世界シェアを伸ばしにいっている会社は、国外にもほとんどない状況ですから。

冨田:この領域に特化しているから、ある一定以上は競争が激しくならないという認識でしょうか。

野口:実態としてはそれに近いと思います。なので、高度なマーケティング論が必要であるというよりは、教科書通りにしっかりと認知度や好感度を形成していって、ブランドエクイティを制していくというやり方を考えていますね。

社内では「自分たちは王道を行くんだ」と言っています。これまでの経験則からも、ここをストイックにやっていけば、じわじわとシェアが伸ばせていくと考えているんです。

冨田:おもしろいですね。カテゴリーを絞ることで、他社とは戦い方を変えていると。経営戦略上、もちろんメンズビューティ市場というマーケットの選択は重要だと思うのですが、収益モデルの変換も一つの肝になるのでしょうか。

野口:たしかにサブスク化は当時だと新しい手法だったのですが、手法自体はいくらでも真似できるので、それ自体に優位性があったとは思っていません。一方で、見方を変えれば、サブスク化してからは先行者メリットのような形でシェアをしっかりと伸ばせているので、その積み上げが今につながっている部分はあると思います。

とはいえ基本の考え方は、ウェブはもちろん、世界中のリテールも含めた全チャネルで勝てるブランドづくりを目指していくということです。

株式会社バルクオム

冨田:サブスクに特化するブランド、リテール展開に強いブランドと、両極端なブランドが多い中で、両方のチャネルを伸ばしていくという考え方はユニークですね。ただ、それはあくまでも過程の話であって、最終的に世界で一番有名で、どこでも買えるブランドを目指すのであれば、どのチャネルを伸ばそうが結局は変わらなくなっていくということなのですね。

野口:そうですね。

いかに最速で世界No.1を取るかが意思決定の基準

冨田:経営者としての考えも伺いたいと思います。ブランドの戦略としては、認知を取りながらカテゴリーを拡大していくという経営者の方が多い中で、徹底して1つのカテゴリーを攻めるという姿勢に1つの哲学が表れているのではと思いますが、1つひとつの意思決定において重視している基準は何でしょうか。

野口:まず、なぜここまで会社のビジョンやミッションを明確にしているかというと、僕自身がカリスマ性やリーダーシップで付いてこいというタイプではないので、ビジョナリーな目標を掲げたいと思っていたんです。自分は生涯をかけてメンズビューティを突き詰めていくんですと言い切ることで、採用や資金調達などでもステークホルダーをしっかりアトラクトできていると考えています。

普段の意思決定は結構単純で、メンズビューティで世界No.1を取るまではバルクオム一本でやっていくという枠の中で、いかに最速で達成できるかという観点で判断しています。判断に迷ったときは「失敗する可能性があっても、挑戦すれば結果的には最速で目標達成できる」と時間軸で意思決定することが多いですね。

株式会社バルクオム

冨田:なるほど。では、もし世界No.1を取ったら、そこからさらに拡大することもあり得るということでしょうか。

野口:そう考えています。そのときはまた新しいミッションをつくり変えなければならないと思っていますね。ただ、バルクオムという会社である以上は、メンズビューティをグローバル単位で考えていく企業体だということは不変です。

冨田:バルクオム社、もしくは個人として、どのような未来を思い描いていますか。

野口:やはりグローバライゼーションを達成したいです。展開国は徐々に増えていますが、展開したということに留まらず、各国でしっかりとシェアを積み上げていきたいと考えています。そしてブランドだけでなく会社としてもグローバル水準になって、組織としてAppleやP&Gのようなエクセレントカンパニーを目指していきたいと思っています。

冨田:世界を目指すにあたり、何が野口さんの原動力になっているのでしょうか。

野口:僕が中高生のころはライブドアさんやサイバーエージェントさんが世間を賑わせていて、それを見ていた僕も学生のころからずっと起業したいと思っていたんです。当時から、自分も経営者として世界で戦っていけるレベルになりたいと思っていました。

今、ようやく日本での基盤ができてきて、今年10月から来年1月にかけてニューヨークでポップアップストアを展開するなど、会社の拡大に伴って世界進出も進んでいます。こうした好循環が生まれてきているのが原動力です。今後も歩みを止めず「世界のメンズビューティをアップデートする」というビジョンと「世界No.1シェアのブランドをつくる」というミッションを実現していきます。

プロフィール

氏名
野口 卓也
会社名
株式会社バルクオム
役職
CEO 兼 代表取締役社長
ブランド名
BULK HOMME(バルクオム)
出身校
慶應義塾大学 環境情報学部 中退