シンカー:欧米では、政府や政党から独立した機関(独立財政機関)による財政見通しの策定・検証が財政規律を高めているため、日本でも設立するべきだという意見が多いようだ。独立財政機関の効果として、財政規律を高めることのみを強調するのは間違いで、経済政策が単年度の財源の制約から自由になり、複数年度の視野で推進できるようになることの効果の方が大きい。政府ではなく民間に本当に必要な支出先を選択させる究極のワイズ・スペンディングである減税を経済政策として実施する余地を大きくする。更に、グリーンやデジタル、そして新技術などの投資フィールドをニューフロンティアとして政府の成長投資で拡大する余地も大きくなる。政府の成長投資や減税が将来の成長率を押し上げ、税収の増加につながることが期待でき、それが財源になるという柔軟な財政運営に、独立財政機関が複数年度の視野でお墨付きを与えるからだ。成長投資や減税に単年度の増税や支出削減などの財源がいらなくなる。または、成長率が十分に高まり、景気が過熱した後の増税が財源となる。新たな経済政策は未来への投資であるため、財源は主に国債であるという考え方が正当になる。独立財政機関の設立は、財政の単年度主義からの脱却と表裏一体である。独立財政機関の設立によって、欧米のように、成長投資や減税が複数年度の視野で、国債を主な財源に積極的に推進することができるようになるとみられる。

会田卓司,アンダースロー
(画像=PIXTA)

財政出動に関して「賢い支出(ワイズ・スペンディング)」の議論がある。短期的な家計・企業支援より、中長期の成長力に結び付く財政支出に限定すべきだという意見を伴う場合が多いようだ。ワイズ・スペンディングを実現するためには、会計年度ごとに予算を編成し、当年度の歳出は当年度の歳入でまかなうべきであるとする財政の単年度主義を脱する必要がある。ワイズ・スペンディングは、政府の成長分野への投資と、政府ではなく民間に本当に必要な支出する先を選択させる減税(究極のワイズ・スペンディングとも言える)を複数年度の視野で実施することが重要であるからだ。

欧米では、政府や政党から独立した機関(独立財政機関)による財政見通しの策定・検証が財政規律を高めているため、日本でも設立するべきだという意見も多いようだ。まずは、財政の単年度主義を維持するのであれば、長期的な財政見通しを議論したところで、単年度の予算に反映することには限界があり、財政規律を高める効果は小さいだろう。独立財政機関は、財政の単年度主義を脱し、複数年度の視野で財政運営がなされることで効果を発揮する。OECDに加盟する38か国での内約30か国で独立財政機関のような機能が存在し、財政は複数年度の視点で運営されているとみられる。独立財政機関の設立は、財政の単年度主義からの脱却と表裏一体である。独立財政機関の設立によって、欧米のように、成長投資や減税が複数年度の視野で、国債を主な財源に積極的に推進することができるようになるとみられる。

独立財政機関の効果として、財政規律を高めることのみを強調するのは間違いで、経済政策が単年度の財源の制約から自由になり、複数年度の視野で推進できるようになることの効果の方が大きい。政府ではなく民間に本当に必要な支出先を選択させる究極のワイズ・スペンディングである減税を経済政策として実施する余地を大きくする。更に、グリーンやデジタル、そして新技術などの投資フィールドをニューフロンティアとして政府の成長投資で拡大する余地も大きくなる。政府の成長投資や減税が将来の成長率を押し上げ、税収の増加につながることが期待でき、それが財源となるという柔軟な財政運営に、独立財政機関が複数年度の視野でお墨付きを与えるからだ。成長投資や減税に単年度の増税や支出削減などの財源がいらなくなる。または、成長率が十分に高まり、景気が過熱した後の増税が財源となる。新たな経済政策は未来への投資であるため、財源は主に国債であるという考え方が正当になる。

企業と政府の合わせた支出をする力(企業貯蓄率+財政収支)が消滅し、家計に所得が回らない形が継続していた上に、新型コロナウィルスによる経済活動の下押しもあり、日本の中間層は瓦解前の最終防衛ラインまで既に追い込まれてしまっているように感じる。金融危機とアジア通貨危機による景気後退に対するため、1999年に恒久的減税として導入された定率減税(2007年に廃止)が検討されてもよいだろう。もちろん、困窮している家計への支援は急務だ。家計支援による家計ファンダメンタルズの強化は、投資による新たな商品・サービスの提供に消費を反応しやすくさせ、企業の投資の期待リターンを押し上げる可能性がある。給付金などの家計支援も、企業の投資の期待リターンを上昇させ、成長率を押し上げるのであれば、財源は主に国債でも問題ないことになる。

・本レポートは、投資判断の参考となる情報提供のみを目的として作成されたものであり、個々の投資家の特定の投 資目的、または要望を考慮しているものではありません。また、本レポート中の記載内容、数値、図表等は、本レポート作成時点のものであり、事前の連絡なしに変更される場合があります。なお、本レポートに記載されたいかなる内容も、将来の投資収益を示唆あるいは保証するものではありません。投資に関する最終決定は投資家ご自身の判断と責任でなされるようお願いします。

岡三証券チーフエコノミスト
会田卓司

岡三証券エコノミスト
田 未来