シンカー:おはよう寺ちゃんの会田の経済分析(加筆修正済み)
【アーカイブ放送のYoutubeリンク】 https://youtu.be/tqcUKyO2Bag (12月3日放送分)

会田卓司,アンダースロー
(画像=PIXTA)

問:新型コロナウイルスの新たな変異株「オミクロン株」が、回復の道を歩み始めた世界経済を揺るがしています。
※市場が警戒感を強めているのは、オミクロン株の感染拡大で経済活動への制約が再び強まりかねないからです
※そうなれば、年末年始という消費が最も盛り上がる時期が直撃され、景気への打撃も大きいものとなる
※オミクロン株の詳しい性質はまだ判明していませんが…、世界経済への影響についてはどうみていますか?

答:感染拡大が深刻化すれば、需要と供給の両面で、世界経済は下押し圧力を受けます。
飲食・宿泊などの対面サービスは、当然ながら、感染拡大の抑制のため、需要が減少します。
一方で、再び巣篭り状態に消費者が戻れば、物やデジタル関連の需要は増加するかもしれません。
しかし、安心して働けないことによって、物流をはじめとしてサプライチェーンの滞りを更に深刻化させれば、供給が減少し、物やデジタル関連の需要に応じきれない中で、経済活動は更に下押されるリスクとなります。
ただ、オミクロン株の感染力や重症化度合いなどによって、経済活動への影響は変わります。
感染力が強くても、ワクチン効果などで重症化度合いが小さければ、医療体制の準備などで、経済活動への影響を最小限にとどめることもできます。

問:OECD=経済協力開発機構は、世界の実質経済成長率が今年は5.6%になるとの見通しを公表しました。
新型コロナウイルスからの回復は進みますが、新たな変異型「オミクロン型」などの出現が回復の脅威になっており、先行きにリスクと不確定要素は大きいと指摘しています。
※9月時点の世界経済の成長率は5.7%で、0.1ポイント下方修正した
※国・地域別の今年の成長率をみると、アメリカは6.0%から5.6%に0.4ポイント下方修正。ユーロ圏は5.3%から5.2%に、日本は2.5%から1.8%に見直した
※日本の成長率を0.7ポイント下方修正したことについてはいかがですか?

答:7-9月期の実質GDPが、緊急事態宣言の影響などによって、前期比年率-3.0%の大きな落ち込みになったことが、下方修正の原因です。
オミクロン型の影響はまだ織り込まれていないと考えます。
一方、2022年の日本の成長率の予想は2.1%から3.4%に大きく上方修正しています。
財政支出で56兆円程度の大規模な経済対策の効果を織り込んだことが理由です。
株式マーケットはこの大規模な経済対策の効果を過小評価していると考えます。
来年の成長率は、米国とユーロ圏が今年から減速する予想になっていますが、日本は大きく加速する予想になっています。

問:OECDは日本経済について、急速に進んだワクチン接種や他国よりも高い接種率を評価しています。
※その一方で、資源高が消費者物価に反映されず、「企業の収益性や賃金の伸びに悪影響を及ぼしている」と指摘した
※これについてはどう受け止めていますか?

答:この数十年の経済低迷で、企業はリストラなどにより、コスト削減を進めてきました。
企業の支出が弱くなることで、経済低迷という犠牲は払いましたが、企業のコスト体質が強化されたことは確かだと思われます。
結果として、資源高などのコスト増加を、消費者にすべて価格転嫁せずに、耐えることができています。
これは日本の企業の強さでもあります。
しかし、企業の資金繰り、そして雇用の維持に問題が発生するリスクは徐々に高まるわけですから、経済対策で企業を引き続き支援することが重要です。
そして、来年には消費者への価格転嫁も始まるでしょうから、家計への支援を拡大することが重要です。

問:OECDは、世界各国が新型コロナの感染拡大にうまく対応していること、財政・金融政策も来年に向けた景気の支援材料となることから、経済活動の回復が続くとの見通しを基本シナリオに据えています。
※ただ、オミクロン株に対し、海外に進出する企業の間で警戒感が広がっている
※去年からコロナ対策に取り組んできた大半の企業はオミクロン株の確認以前から海外出張などには慎重で、大きな混乱は生じていないが、感染拡大が続けば生産活動や物流などに悪影響が出るのは避けられないためです
※トヨタ自動車は東南アジアのコロナ流行や世界的な半導体不足で部品調達難に陥り、9月に年間の世界生産台数の見通しを当初から30万台減の900万台に引き下げた
※オミクロン株が最初に確認された南アフリカでもカローラシリーズなどを生産していて、社員の出入国については「状況を注視して、日本政府の規制に準じて対応していく」という
※海外に進出する企業の間で警戒感が広がっていることについてはどう受け止めていますか?

答:グローバル企業は、昨年からの教訓で、社員の出入国が滞っても、業務が滞らないように、デジタルを含め、体制の構築と、投資を拡大してきました。
問題は、海外の生産工場が当地の感染拡大により止まって、部品不足に陥るケースがリスクとして残ります。
オミクロン株の不確実性により、サプライチェーンの強靭化を含む経済安全保障について、政府だけではなく、企業も更に強く意識するようになると考えられます。
その意味で、円安はポジティブで、日本への生産工場の回帰と、労働コストの上昇をロボティクスなどにより軽減する投資の拡大が見込まれます。

問:オミクロン株の出現によって、物価の上昇を招いているサプライチェーン=供給網の混乱がさらに悪化する可能性もあることが指摘されています。
※各国がどんどん国境を閉ざしていってしまったら、物価はどうなってしまうのでしょうか?

答:国境を閉ざすのが、人の往来の規制だけで、物の流通が順調であれば、需要減退の分、物価は安定化していくはずです。
オミクロン型の懸念が高まる前に、経済対策の規模を膨らませて、企業と家計への支援を拡充したのは、岸田内閣のファインプレーで、経済活動の底割れを防ぐ力になるでしょう。
やはり、経済活動の自律的な回復頼みの局面ではなく、十分な規模の経済対策で経済活動を支える局面にあったということです。
ただ、各国、供給面での対応も必要です。
日本では、グリーンやデジタル、先端科学技術、経済安全保障などの投資フィールドをニューフロンティアとして拡大しようとする政府の成長投資は追加の経済対策で積み増される可能性があります。
来年の通常国会では、景気回復の促進策の追加と、春にまとめられる自民党の「新しい資本主義実行本部」の提言と民間からの意見を取り入れ、成長投資の拡大を含む更なる経済対策が策定される可能性があると考えます。

【番組紹介】
文化放送 「おはよう寺ちゃん」 月~金 5:00~9:00
パーソナリティ 寺島尚正
コメンテーター 会田卓司(金曜日レギュラー出演)

【会田の出演日時】
金曜日 6:00-7:30

【ニュースコメント】
▶景気回復への脅威「オミクロン・ショック」
▶国際線予約停止を撤回
▶原油 増産計画を維持
▶沖縄 酒税軽減廃止へ

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岡三証券チーフエコノミスト
会田卓司

岡三証券エコノミスト
田 未来