先日、アマゾンプライム・ビデオで映画『ヴァレリアン 千の惑星の救世主』を視聴した。2017年に公開されたリュック・ベッソン監督のスペースオペラだ。西暦2740年、宇宙のあらゆる種族が共存する「千の惑星都市」と呼ばれる宇宙ステーションで、極秘任務を託された連邦捜査官の男女2人の活躍を描いた物語である。SF好きの筆者としては十分楽しめた作品だった。
しかし、『ヴァレリアン 千の惑星の救世主』は興行的には失敗とされている。公開当時、この映画を製作したヨーロッパ・コープは1億3,500万ドルの損失を計上し、CEO(最高経営責任者)が辞任する事態となった。映画.comが2018年2月7日に伝えたところによると、この映画の興行的失敗でヨーロッパ・コープの市場価値は一時6割も減少したという。投資家からすれば『ヴァレリアン 千の惑星の救世主』は救世主どころか、疫病神のような作品だった、と言えるのかもしれない。
ところで、救世主はスペイン語で「El Salvador」というのをご存知だろうか。そう、中米のエルサルバドルという国名には「救世主」という意味が込められている。エルサルバドルといえば、2021年9月7日に暗号資産(仮想通貨)のビットコインを法定通貨にする法律を施行、11月20日にはナジブ・ブケレ大統領がビットコインに裏付けられた10年債(ビットコイン債)を発行し、戦略都市「ビットコインシティ」を建設する計画を明らかにしている。
ブケレ大統領は、2019年の大統領選挙に37歳で勝利した若きリーダーだ。同大統領は今回明らかにした「ビットコインシティ」について、紀元前332年にアレクサンドロス大王が建設した都市(アレクサンドリア)になぞらえ、「ビットコインを広めたいのであれば、アレクサンドリアをいくつか作るべきだ」と発言している。若きリーダーが掲げる国家戦略が成功すれば、文字通りエルサルバドルの「救世主」となるかもしれない。だが、専門家からは懐疑的な意見も少なくない。
果たして、エルサルバドルの若きリーダーは救世主となるのか。
今回はエルサルバドルの国家戦略「ビットコインシティ(Bitcoin City)」の話題をお届けしよう。
ビットコインシティ、若きリーダーが掲げる国家戦略
11月20日、エルサルバドルのミサタ海岸で開催された「中南米ビットコイン・ブロックチェーン会議」の演説で、ブケレ大統領は戦略都市「ビットコインシティ」を建設する計画を発表した。2022年にビットコインで裏付けられたビットコイン債で投資家から総額10億ドル(約1,140億円)の資金を調達し、その資金でエルサルバドル東部のラ・ウニオンに「ビットコインシティ」を建設するという計画である。
ビットコインシティは火山の地熱発電を利用した「完全に生態学的な都市」(ブケレ大統領)になる予定で、空港や居住スペース、ビットコインのデザインを模した商業施設などを建設する。また、ビットコインシティでは消費税以外の税金を免除する方針だ。徴収した消費税の半分は都市建設のために発行された債券に、残りの半分はゴミ収集などのサービスに充てる。ブケレ大統領はビットコインシティの公共インフラ費用について30万ビットコイン(約2兆円)程度を見積もっている。
ビットコイン債の発行については、カナダのブロックチェーン・テクノロジー企業ブロックストリームがサポートすることも明らかになった。ビットコイン債はブロックストリームが提供するサイドチェーンベース決済ネットワーク「リキッド・ネットワーク」を介して発行され、仮想通貨取引所のビットフィネックスの協力を得て100ドル単位で売られる見通しだ。
ブロックストリームのサムソン・モウCSO(最高戦略責任者)によると、ビットコイン債は「10億ドル相当のビットコイン」に裏付けられた10年債で当初の利回りは6.5%になるという。エルサルバドルは5年間のロックアップ期間後、保有するビットコインの一部を売却し、債券保有者に追加配当を支払う。ちなみに、ニューヨークに本拠を置くニュースメディアのコインデスクはブロックストリームの予測として「(ビットコイン債の)年間利回りが10年目に146%に達する可能性がある」との見通しを紹介した。また、11月22日付の日経電子版では『エルサルバドル、「ビットコイン都市」建設を表明』のタイトルの記事のなかで「ブロックストリームは5年以内に1ビットコインの価格が約1億円になると推定している」との予測を紹介している。