シンカー:おはよう寺ちゃんの会田の経済分析(加筆修正済み)

会田卓司,アンダースロー
(画像=PIXTA)

【アーカイブ放送のYoutubeリンク】 https://youtu.be/2_8Wegl0G6c (12月10日放送分)

問:政府・与党は来年度税制改正の大枠を固めました。
従業員の給与引き上げに積極的な企業を優遇する「賃上げ税制」の強化に重点を置き、法人税の負担軽減という「アメ」だけでなく、逆に消極的な企業は冷遇するという「ムチ」の施策も盛り込んでいます。
きょう決定する与党税制改正大綱に明記します。
※賃上げ税制の強化では、法人税額から差し引ける減税率の最大値を大企業では20%から30%に引き上げ、継続雇用する従業員の賞与などを含む給与総額が前の年度に比べ4%増えれば対象にする
※大企業は2023年度までの2年間限定とする
※中小企業は最大値を25%から40%に引き上げ、雇用者全体の給与総額を2.5%増やすよう求める ※こうした「アメ」の部分についてはどうみていますか?

答:岸田内閣の新たな経済政策は、これまでの新自由主義型から、分配・成長型へ転換しました。
新自由主義型の成長戦略では、企業の前にある規制という障害を取り除けば、財政支出がなくとも、改革という合言葉で、企業は自主的に投資と賃金を増やすであろうという政策哲学でしたが、企業は動かず、効果は不十分でした。
分配・成長型の成長戦略では、政府も財政支出を拡大し、成長投資と分配政策によって、企業と一体となり、投資と賃金を増やしていく政策哲学になります。
この「アメ」の部分は、政府の新たなコミットメントを示すものだと考えます。

問: 一方、継続雇用者の給与総額を、2022年度は前の年度に比べて0.5%以上、2023年度は1%以上増やさなかった大企業には、研究開発などの投資額の一部を法人税額から差し引く優遇措置を受けられなくする措置も併せて設け、賃上げ税制の実効性を高めることを狙っています。
※こちらの「ムチ」の部分についてはどう感じていますか?

答:日本のデフレ構造不況の原因は、企業の支出不足にあります。
企業は貯蓄をする部門ではありませんが、企業の貯蓄率は20年以上、異常なプラスになってしまっていて、この過剰な貯蓄が総需要を破壊する力になってしまっています。
そのままでは、総需要の弱さとマネーの収縮が、日本経済を恐慌にしてしまうリスクがあるため、政府は財政赤字を出して、支出を代わりに増やしてきたわけです。
この「ムチ」の部分は、なかなか動きだそうとしない企業に、政府もとうとうしびれを切らしたことを示すものだと考えます。

問:大企業向けの投資減税は、新たに採用した人を除く「継続雇用者」の給与総額が前年度より少しでも増えれば適用していた条件を厳しくしたわけですが…
※賃上げしない企業への「ペナルティー」とも言える見直しについて、税制で企業を動かす姿勢自体を疑問視する声が市場から出ていることについてはいかがですか?

答:これまでは、財政支出をともなわない成長戦略で、総需要を拡大する力が弱く、税制で企業を動かす効果は限定的でした。
しかし、これからは、小さな政府から大きな政府の方針に転換し成長投資と分配政策の財政支出で総需要を拡大することになりますから、効果はこれまでより大きくなると考えます。
政府も支出を増やすわけですから、企業に対しても説得力をもちます。

問:財務省の法人企業統計によると日本企業の昨年度の利益剰余金、つまり内部留保は484兆円と前の年度に比べて2%増えています。
※自民党内からは「これを使わない手はない」との意見が出ていたという
※企業が貯め込んでいる剰余金についてはどうご覧になっていますか?

答:最初から増税に走るのは悪い手です。
企業の支出不足を政府が財政赤字で補ってきたわけですが、企業の貯蓄をオフセットするだけで、総需要とマネーを拡大して、日本経済をデフレ構造不況から脱却させるには財政支出は全く不十分でした。 まずは、財政支出を拡大する足かせとなっていた、プライマリーバランスの黒字化目標を、デフレ構造不況からの脱却宣言まで凍結し、政府はより前に踏み出すべきだと考えます。
企業の支出不足に対する更なる「ムチ」はその後の話です。

問:本来、企業ごとに労使で決めるべき賃金の扱いに政府・与党が介入を強めることにも批判の声があります。
※一連の税制の見直しが企業を動かすのか否か? その効果についてはどう分析されていますか?

答:利益拡大という資本の論理が前面に出る新自由主義の考え方から、企業にも社会的責任を求める考え方に、グローバルに転換が起こっています。
この転換を政府も、税制や財政支出の拡大で支援するわけですから、正しい方向性だと考えます。
政府が財政支出を拡大して、総需要の拡大と格差の是正にどれだけコミットメントするかが、その正当性を左右します。
プライマリーバランス黒字化目標の撤廃など、新たな財政政策の在り方が必要で、自民党の新たな「財政政策検討本部」の提言に期待したいと思います。

問:来年度の税制改正では、「賃上げに本来必要な生産性向上を促す視点は乏しい」との指摘もあります。
※生産性向上についてはどうでしょうか?

答:生産性向上は、投資拡大の後からついてくるものです。
リストラや規制緩和などによる生産性の向上は、投資拡大をともなわなければ、一時的なものです。
バブル崩壊後、リストラでしか生産性が向上しなかったのが、投資拡大をともなった生産性の向上が起これば、30年来の上向きの転換点を日本経済は迎えることになります。
投資拡大には、リターンの向上のため、総需要を拡大する賃上げ促進策は必要です。

【番組紹介】
文化放送 「おはよう寺ちゃん」 月~金 5:00~9:00
パーソナリティ 寺島尚正
コメンテーター 会田卓司(金曜日レギュラー出演)

【会田の出演日時】
金曜日 6:00-7:30

【ニュースコメント】
▶賃上げ税制強化
▶金融所得課税強化 持ち越し
▶米緩和縮小で新興国が利上げ
▶75歳以上医療費 来年10月2割負担

岡三証券チーフエコノミスト
会田卓司

岡三証券エコノミスト
田 未来

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