先日、『FACTFULNESS(ファクトフルネス) 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』(日経BP)を再読した。思い込みに惑わされず、ファクトフルネス(データ)など確固たる裏付けのある事実に目を向ける習慣を身につけることで、客観的な判断力が養われ、それが日常生活のみならずビジネスや投資の成功にもつながるといった内容だ。スウェーデンの医師で公衆衛生学者のハンス・ロスリング氏らによって書かれたこのビジネス書はビル・ゲイツ氏やバラク・オバマ元米大統領などの著名人にも絶賛され、世界的なベストセラーとなった。

このビジネス書で特に筆者の印象に残っている記述は、第10章で取り上げられた「焦り本能」である。人間は焦りに支配されると「誤った判断を下す傾向が強くなる」というもので、たとえば「いますぐ手を打たないと大変なことになる」という思い込み(焦り)が失敗を呼ぶことになる。逆にどんなときも焦らず、冷静に対処するように心がけていれば、そうしたリスクを低減することも可能ということだ。確かに筆者自身の行動を振り返ってみても、焦って何かをして上手くいった試しがない。

しかしながら、世の中にはデータや科学で説明できないことが多々存在するのも事実だ。過去のサンプルデータや統計学などに基づいて、運用モデルを構築したり予測を立てることが日常的に行われている投資の世界にも、合理的な説明ができない「アノマリー」や「相場格言」がある。

今回は「アノマリー」と「相場格言」について考察してみたい。

年末にかけて株価が上がる? 「掉尾の一振」「サンタクロースラリー」

アノマリー,株
(画像= metamorworks / pixta, ZUU online)

英単語の「Anomaly」には(基準や規則から外れた)例外や変則、逸脱、矛盾という意味が含まれている。金融市場でも同様の現象は数多く見られており、「Anomaly 」「Market Anomaly」「Economic Anomaly」などと呼ばれている(以下、アノマリーに統一)。また、ニューヨークに本社を置く金融Webサイトのインベストぺディアは、経済学と金融学におけるアノマリーについて「特定の一連の仮定の下での実際の結果が、モデルによって予測された期待される結果と異なる場合を指す」としている。簡単にいうと、経済モデルや財務モデルなど理論的あるいは科学的根拠は見当たらない「経験則」のようなものだ。

たとえば、代表的なアノマリーに「カレンダー効果」がある。株の取引などで1日が休日で、2日から始まる月の相場は荒れやすいとされる「2日新甫(しんぽ)は荒れる」のほか、1月の投資収益率が他の月に比べて高くなる傾向にある「1月効果」、日本株は4月に上昇しやすい傾向にある「4月効果」、夏場になると相場が低迷する「夏枯れ相場」、10月の投資収益率が他の月に比べて低くなる傾向があるとされる「10月効果」、年末にかけて株価が上がる「掉尾の一振(とうびのいっしん)」「サンタクロースラリー(クリスマスラリー)」などがある。

そのほか、時価総額の小さな小型株ほど収益率が高くなる傾向を示す「小型株効果」、PER(株価収益率)の低い銘柄ほど収益率が高くなりやすいという「低PER効果」、相場が一方向に進みやすい傾向にあるとされる「モメンタム効果」、モメンタム効果とは正反対の「リターン・リバーサル効果」もよく知られたアノマリーだ。

金曜ロードショーで「ジブリ作品」が放映されると相場が荒れる?

ユニークなところでは、米国最大のスポーツイベントのスーパーボールでAFC(アメリカン・フットボール・カンファレンス)のチームが勝利すると弱気相場になり、NFC(ナショナル・フットボール・カンファレンス)や元のNFL(ナショナル・フットボールリーグ)のチームが勝利すると強気相場になるという「スーパーボール・インジケーター」がある。

さらに、日本テレビ系列(NNN)で毎週金曜日の21時から放送している金曜ロードショーでスタジオジブリが制作したアニメ映画が放映されると、株式・為替相場が荒れやすくなるという「ジブリの呪い(ジブリの法則)」も知られている。

ちなみに、「ジブリの呪い」については2013年8月2日に米紙ウォール・ストリート・ジャーナルが『日本の株・外為投資家が身構える「ジブリの呪い」』のタイトルで記事を掲載したが、取材を受けた日本テレビの広報部は「コメントに値しない」と回答している。

2022年、「寅(とら)」は千里を走るのか?