要旨
新型コロナウイルス感染症は、第5波が去り、新規陽性者数が大幅に減少している。ただ、11月に出現したオミクロン株が、各国で、感染を再拡大させており、新たな懸念材料となっている。
そんななか11月に、厚生労働省は、2020年度の介護費用額等を公表した。そこには、昨年度、コロナ禍が介護に与えた影響が、さまざまなデータとして表示されている。
本稿では、そのデータをもとに、コロナ禍が介護費用額に与えた影響をみていくこととしたい。
はじめに
新型コロナウイルス感染症は、第5波が去り、新規陽性者数が大幅に減少している。重症者数も減少し、各地での医療の逼迫も緩和された。ただ、11月に出現したオミクロン株が、各国で、感染を再拡大させており、新たな懸念材料となっている。日本でも、空港での検疫等の水際対策を行うなかで、相次いで感染者が確認されており、今後の動向は予断を許さない状況となっている。
そんななか11月に、厚生労働省は、2020年度の介護費用額等を公表した1。そこには、昨年度、コロナ禍が介護に与えた影響が、さまざまなデータとして表示されている。
本稿では、そのデータをもとに、コロナ禍が介護費用額に与えた影響をみていくこととしたい2。
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1 「介護給付費等実態統計」(厚生労働省)。なお、2017年度までは、「介護給付費等実態調査」という名称だった。
2 本稿では、注記1の資料に掲載のデータを図示して、介護費用額等の傾向を把握していくこととしたい。
介護給付の全体像
まず、介護給付の全体像から、みていこう。
1|介護給付は、増加基調にある
介護保険で行われるサービスは、大きく、介護サービスと介護予防サービスの2つに分かれる。介護サービスは、要介護1~5の認定を受けた要介護者が対象となる。一方、介護予防サービスは、原則、要支援1~2の認定を受けた人が対象となっている3。
受給者数と給付額の推移をまとめると、次の図表1、2のとおりとなる。介護サービス給付は、受給者数、費用額とも、年々増加している。一方、介護予防サービス給付は、受給者数、費用額とも2016年度から18年度にかけて減少している。これは、2014年の介護保険法改正に伴い、2017年度末までに「介護予防・日常生活支援総合事業」の「介護予防・生活支援サービス事業」に移行することとされていた「介護予防訪問介護」や「介護予防通所介護」の給付分が、介護予防サービスの給付から徐々に抜けていったためとみられる。その移行が終わった後は、増加基調に戻っている。
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3 一部のサービスについては、65歳以上の人が、基本チェックリストの結果により、事業対象者に認定される場合がある。
2|介護サービス給付は、施設等への入居が約半分を占めている
介護保険に基づく給付には、現在、26種類、54サービスがある。これらは、①介護の相談やケアプランの作成をしてもらうもの、②自宅等に介護担当者に訪問してもらってサービスを受けるもの、③サービスを受ける人が施設に通うもの、④サービスを受ける人が施設等に短期間宿泊をするもの、⑤訪問・通い・短期宿泊を組み合わせたもの、⑥サービスを受ける人が施設等に入居して生活するもの、⑦福祉用具が貸与・販売されるもの、の7つに分けることができる。
費用額について、それぞれの内訳をみてみると、次の図表3、4のとおりとなる。介護サービス給付については、介護老人福祉施設(特養)や介護老人保健施設(老健)など、⑥施設等に入居するものが約半分を占めている。これに、③通いや、②訪問が続いている。その後に、④短期宿泊も続いているが、占率は低い。要介護の認定を受けた人は、特に要介護度が高い場合、施設等に入居して生活をしながら介護を受けるケースが多いものとみられる。一方、介護予防サービス給付は、③通いが多く、②訪問、⑦用具貸与等が続いている。要支援の認定を受けた人は、通いや訪問でサービスを受けつつ、用具貸与等で介護予防に取り組んでいるものとみられる。
コロナ禍が介護給付に与えた影響
本章では、介護保険給付の多くを占める介護サービス給付について、コロナ禍の影響をみていこう。具体的には、訪問、通い、短期宿泊、施設等入居の4つのサービスに着目していく。
1|通いと短期宿泊の費用額は2020年度に減少した
4つのサービスごとの費用額の推移をまとめると、次の図表5のとおりとなる。訪問と施設等入居は、年々増加している。一方、通いと短期宿泊は、2019年度まで増加していたが、2020年度は減少した。これは、コロナ禍により、自宅で生活している要介護者が、サービスを受けるために施設等に通ったり、短期間宿泊したりすることを控えた影響があらわれているものとみることができる。
2|通いと短期宿泊の費用額は緊急事態宣言発令時期に減少
2020年度の減少に注目して、通いと短期宿泊の月別の費用額推移をまとめたが、次の図表6だ。
通いについては、介護報酬の審査月が2020年5月~6月や、2021年2月~3月の時期に、費用額が前年より下がっている。通常、前月に行った介護サービスの審査が当月に行われるため、2020年4月~5月や、2021年1月~2月の緊急事態宣言発令時期4に減少していることがわかる。これらの時期は、要介護の人が、感染の懸念などから、施設への通いをためらうことが多かったものとみられる。
短期宿泊については、年間を通じて、増減率がマイナスで推移した。特に、審査月が2020年5月~7月や、2021年3月の時期には、マイナス幅が大きくなっている。緊急事態宣言発令中の時期に、要介護の人が、短期宿泊でのサービスを受けることを自重したケースがあったものとみられる。
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4 東京での緊急事態宣言の期間は、1回目は2020年4月7日~5月25日、2回目は2021年1月7日~3月21日であった。
3|1人当たり費用額は増えている
つづいて、2020年度の変動要因を探るために、前年度からの増減率を、受給者の増減と、受給者1人当たり費用額の増減に分解してみよう。4つのサービスで、それぞれ代表的な、訪問介護、通所介護、短期入所生活介護、介護福祉施設サービスについて分解したのが、次の図表7だ。
これによると、費用額が増えた、訪問介護や介護福祉施設サービスは、1人当たり費用額(②)の伸びが主因といえる。費用額が横ばい、もしくは減少した、通所介護、短期入所生活介護も、1人当たり費用額は増えており、これを、受給者の減少(①)が打ち消す構図だったことがわかる。
つまり、2020年度は、通いや短期宿泊のサービスで、受給者の数は減ったが、受給した人の1人当たり費用はむしろ増えているということになる。コロナ禍が進むなか、「サービスが受けにくくなったので、もし受ける機会があれば、そのときは以前よりも長時間のサービスにする」などと、1回のサービス内容を充実させる動きがあったものとみられる。
おわりに (私見)
今回公表された介護給付費等実態統計では、コロナ禍が介護費用に与えた影響が、明らかになった。今後、1回当たりのサービス内容を充実させたまま、以前のように、受給者数が増加していけば、介護の費用額はさらに増大するものと考えられる。
日本では、高齢化が進み、いわゆる団塊の世代が徐々に75歳以上に進んでいくなかで、長期的に、介護費用の増大が懸念されているところだ。
これからの介護費用がどのように推移するのか、引き続き、注目していくこととしたい。
篠原 拓也 (しのはら たくや)
ニッセイ基礎研究所 保険研究部 主席研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任
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