シンカー:国内では、異常なプラスの企業貯蓄率が示す弱い企業活動が、総需要を破壊する力として、デフレ圧力になり続けてきた。物価を押し上げるマネーの拡大には、企業と政府の支出の拡大が必要になる。ウィルス問題に対処するための財政支出と岸田内閣の財政拡大への転換が、そのデフレ圧力を打ち消し、総じてみれば、物価を押し上げる方向に作用し始めている。第四次産業革命や脱炭素などの投資テーマによって企業の投資が拡大するだろう。サービス業の復調で失業率が低下し、賃金上昇によって消費が回復するだろう。設備投資と消費が両輪となる内需拡大が、物価を上昇させていくだろう。グローバル・インフレも、日本のデフレ脱却への動きを促進していくだろう。2022年には物価上昇率は1%台が定着するだろう。2023年度からは、設備投資サイクルの上振れで企業貯蓄率がマイナスの正常な状態に戻り、過剰貯蓄が総需要を破壊しなくなり、物価上昇が加速するだろう。2%の物価目標達成は、実際の物価上昇がインフレ期待を押し上げ、それが更に物価上昇を強くするサイクルが必要となり遅れて2025年度になろう。

会田卓司,アンダースロー
(画像=PIXTA)

物価−内需拡大とグローバル・インフレが日本のデフレ脱却への動きを促進

新型コロナウィルス問題による消費の減少と菅政権の携帯通信料引き下げなどの構造改革が物価をテクニカルに押し下げてきた。2022年度は、前年の落ち込みの反動に加え、経済活動の回復による需要の拡大と残る供給制約が物価を押し上げる局面に変化を始めるだろう。企業が供給制約を意識することで、シェアではなく収益を最大化するため、値上げと販売数量の減少のバランスをみる価格弾力性をより重要視するようになるかもしれない。輸入物価の大幅な上昇が、経済活動の回復にともない消費者物価に転嫁されていくとみられる。国内では、異常なプラスの企業貯蓄率が示す弱い企業活動が、総需要を破壊する力として、デフレ圧力になり続けてきた。物価を押し上げるマネーの拡大には、企業と政府の支出の拡大が必要になる。ウィルス問題に対処するための財政支出と岸田内閣の財政拡大への転換が、そのデフレ圧力を打ち消し、総じてみれば、物価を押し上げる方向に作用し始めている。第四次産業革命や脱炭素などの投資テーマによって企業の投資が拡大するだろう。サービス業の復調で失業率が低下し、賃金上昇によって消費が回復するだろう。設備投資と消費が両輪となる内需拡大が、物価を上昇させていくだろう。海外では、米中対立がグローバル・デフレからインフレへの動きにつながる可能性がある。民間主体の投資の効率性を内包する米国を中心とする自由資本主義国が、国家主導の非効率な投資を内包する中国などの国家資本主義国に対抗するためには、インフレ環境の方が有利だからだ。先進国の政策当局は、雇用の拡大を優先しながら財政拡大の継続などでインフレへの環境変化を促進し、これまでより高位のインフレ率を許容し、膨張した負債構造の安定化のためにも、低い実質金利の水準を維持していくことになるだろう。先進国の政策当局の金融緩和の出口への動きの速度は緩やかで、金融環境は緩和的な状態が維持されるだろう。グローバル・インフレも、日本のデフレ脱却への動きを促進していくだろう。2022年には物価上昇率は1%台が定着するだろう。2023年度からは、設備投資サイクルの上振れで企業貯蓄率がマイナスの正常な状態に戻り、過剰貯蓄が総需要を破壊しなくなり、物価上昇が加速するだろう。2%の物価目標達成は、実際の物価上昇がインフレ期待を押し上げ、それが更に物価上昇を強くするサイクルが必要となり遅れて2025年度になろう。

図1:コア消費者物価指数(除く生鮮食品・消費税)と企業貯蓄率

コア消費者物価指数(除く生鮮食品・消費税)と企業貯蓄率
(画像=出所:総務省、内閣府、日銀、岡三証券 作成:岡三証券)

潜在成長率−雇用から資本へのバトンタッチで生産性の向上へ

アベノミクスなどによる景気回復とフレキシブルな雇用形態の許容が、企業の投資の回復で資本投入量を、女性や高齢者の雇用拡大で労働投入量を押し上げ、日本経済の潜在成長率は1%程度まで緩やかに上昇し、構造的な回復が進行しつつあった。しかし、ウィルス問題で労働者が再び労働市場から退出し、潜在成長率の水準は一時的に+0.5%程度まで低下してしまった状態にある。ウィルス問題が小さくなっていき、労働者が労働市場に戻るとともに、デジタル・トランスメーションを含む企業の設備投資の拡大が資本投入量を押し上げ、新常態下の働き方の構造改革もあり生産性も若干押し上げられ、潜在性成長率は+1%程度まで再び回復していくだろう。労働需給逼迫による効率化・省力化の必要性、コスト削減が限界になる中で利益率を更に上昇させる新商品・サービスの開発の必要性が企業の投資行動を刺激し、設備投資サイクルの上振れとともに、資本投入量の押し上げが更に強くなっていくとみられる。政府投資によりグリーンやデジタル、先端科学技術などの投資フィールドをニューフロンティアとして拡大することも支えとなるだろう。労働生産性は資本投入量と全要素生産性の合計で、後者は遅行する。前者の増加にともない労働生産性は向上し、賃金の上昇にもつながるだろう。景気拡大とともに、投資も拡大しながらイノベーションで生産性が上昇するというバブル崩壊後初めての現象が確認され、潜在成長率がしっかり上昇すれば、日本経済は復活することになる。人口減少でも成長を続けることができるようになる。玉石混交の投資は、生産性以上に総需要を押し上げ、景気拡大とともに物価上昇加速でデフレを脱却し、リスク資産価格も上昇するだろう。投資の一部は非効率なものであろうから、いずれ投資が生産性と収益力の向上に本当につながっているのかの判断が必要となる。生産性と収益力が向上していれば、潜在成長率の上昇とともにインフレは安定化して、リスク資産価格の上昇は継続する。向上していなければバブルだと判断され、インフレの加速に対処するための政策の引き締めで、リスク資産価格は崩落するリスクとなる。そして、企業のデレバレッジとリストラによって、潜在成長率は低下し、長期低迷に戻るリスクとなる。

図2:潜在成長率と内訳

潜在成長率と内訳
(画像=出所:内閣府 作成:岡三証券)

表:日本経済見通し

日本経済見通し
(画像=出所:内閣府、総務省、財務省、日銀、Refinitiv 作成:岡三証券)

田キャノンの政策ウォッチ:11月失業率、有効求人倍率の予想

28日に総務省が発表する11月失業率は2.6%と、10月(2.7%)から改善すると予想する。失業率は低下するも、就業者数は対面型サービス業を中心に前年比マイナスの状態がしばらく続くため、業種によっては雇用情勢が厳しい状態が続くだろう。同日に厚生労働省が発表する11月有効求人倍率は1.17倍と、10月(1.15倍)から上昇すると予想する。中小企業の従業員判断DIが改善していることから、有効求人倍率は改善すると思われる。

岡三証券チーフエコノミスト
会田卓司

岡三証券エコノミスト
田 未来

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