シンカー:おはよう寺ちゃんの会田の経済分析(加筆修正済み)
【アーカイブ放送のYoutubeリンク】https://youtu.be/NoWmm5Heir0 (12月24日放送分)

会田卓司,アンダースロー
(画像=PIXTA)

問:世界的にインフレ懸念が強まる中、日本にもその影響が及び始めています。
日銀が発表した11月の「企業物価指数」は前の年の同じ月に比べてプラス9.0%と、およそ41年ぶりの伸び率を記録しています。
※足元のインフレ圧力は円安や資源高などが原因
※日本は長らくデフレに苦しんできたわけですが…、コロナ禍からの経済活動の急速な回復で物価が世界的に上昇している状況についてはどうご覧になっていますか?

答:物価は需要と供給の両方の影響を受けます。グローバルに経済活動の回復が始まり、モノの需要も回復してきました。一方、新型コロナウィルスや自然災害などの影響が残り、モノの供給が追い付きませんでした。需要が供給を上回れば、物価は上昇します。特に、その需要と供給の差が、原油などの資源価格を大きく押し上げました。更に、感染への警戒感などで、労働者がなかなか戻ってこないことも、人手不足として、サービスを含めた物価の押し上げに作用しています。

問:世界的なサプライチェーン混乱や原材料価格の高騰に加え、円安も重なっているため、輸入物価の上昇幅はさらに大きいものとなっています。
※日銀は物価上昇率2%の目標を掲げている
※ある委員はこれを踏まえ、「インフレ圧力の強まりが日本の経済を低下させる可能性は低い」との見解を示した
※この見方についてはいかがですか?

答:まずは、経済活動の回復による需要の回復が、物価上昇圧力になっていることが重要です。
OECDの予測によると、2021年の世界の実質GDP成長率は5.6%と強くなっています。
この拡大に供給が追い付かないのが、物価上昇の理由です。
需要には遅れますが、経済活動の回復は、遅れて供給も回復させます。
長い目でみれば、日本の経済を低下させる可能性は低いというのは正しいと考えます。

問:インフレ圧力が強まっている中、原材料価格が上昇しても、日本企業は小売り価格の引き上げにはなかなか踏み切れずにいます。
※ただでさえ消費が低迷している状況で値上げすれば、消費者が財布のひもを締めかねないと懸念しているため
※値上げで消費がさらに低迷する懸念についてはどうみていますか?

答:日本の物価上昇圧力が弱いのは、三つの理由があります。
一つ目は、携帯電話通信料の引き下げなどのテクニカルな下落要因があることです。
二つ目は、まだ経済活動の回復が弱いことです。
OECDの予測によると、2021年の日本の実質GDP成長率は1.8%でしかありません。
三つ目は、雇用助成金などで雇用が維持されたため、人手不足感がそこまで強くないことです。
経済活動の回復が弱いということは、当然賃金の上昇も弱いわけですから、短期的に輸入価格の上昇などの価格転嫁だけ物価が大きく上昇すれば、消費がさらに低迷するリスクになります。

問:日銀の複数の委員は、原材料価格の上昇などを念頭に、「上昇分に対する商品への価格転嫁が進みやすくすることが重要だ」としています。
※物価を押し上げるためにはどういったことが必要になってきますか?

答:価格転嫁が順調に進むには、家計の体力がしっかり回復していなければいけません。
そのためには、家計にしっかり所得を回すことです。
岸田内閣の新しい資本主義の考え方は間違ってはいないと考えます。
家計にしっかり所得を回すためには、企業と政府の合わせた支出をする力を拡大する必要があります。
マクロ経済では、誰かの支出が誰かの所得になるからです。
企業活動の回復はまだ弱いですから、当然ながら、まずは財政拡大で、家計にしっかり所得が回るマクロの構図を生み出さなければなりません。
消費税率を引き下げてもよく、増税など、もってのほかです。

問:では、来年度は物価に関して、どういった局面に入るのでしょうか?

答:2022年には、政府の経済対策の効果もあり、OECDの予測によると、日本の実質GDP成長率は3.4%まで拡大することで、企業の価格転嫁も進み、物価はしっかり上昇すると考えます。
ただ、この数十年間、企業と政府の合わせた支出する力はほぼ消滅していて、家計に所得が回らず、家計は疲弊してきました。
供給の制約も残る可能性もあります。
政府は、更に経済対策を上積して、家計と企業を支援し続ける必要があります。
強者の論理であるバラマキ批判には屈せず、家計にしっかり所得を回すことを続けるべきです。

問:その動きによって、日銀が掲げる2%の物価目標達成は、決して遠くはなくなるのでしょうか?

答:財政拡大に加え、企業活動も回復し、企業と政府の合わせた支出する力が十分に強い状況を維持し続ければ、家計に所得が回り続けて、家計の体力も戻り、供給制約が解消しても、需要の拡大の力で、物価の上昇は強くなっていくとみられます。
2022年には物価上昇率は1%程度、2023年には1.5%程度、2024年には2%弱、そして2025年には2%を上回り、日銀が掲げる物価目標が達成する可能性があります。
しかし、この間に、増税などの緊縮財政に転じれば、家計はまた疲弊し始め、デフレの闇に戻るリスクになると考えます。

【番組紹介】
文化放送 「おはよう寺ちゃん」 月~金 5:00~9:00
パーソナリティ 寺島尚正
コメンテーター 会田卓司(金曜日レギュラー出演)

【会田の出演日時】
金曜日 6:00-7:30

【ニュースコメント】
▶オミクロン株 市中感染拡大
▶ワクチン5〜11歳接種 3月にも開始
▶来年度成長率プラス3.2%見通し
▶インフレ圧力 企業物価指数上昇
▶自動運転"レベル4" 法制化 岡三証券チーフエコノミスト
会田卓司

岡三証券エコノミスト
田 未来

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