『オリックスが2000億円超で「弥生」売却へ、ベインやKKRが応札』そんな見出しがブルームバーグのヘッドラインに並んだのは2021年10月26日のことだった。総合金融サービス大手のオリックス <8591> が、子会社で会計ソフト大手の弥生の売却に向けて、すでに入札手続きに入っていると記事は伝えていた。
この報道に対してオリックスは、株式譲渡を含めてさまざまな検討を行っていることを認めながらも、決定の事実はないと発表した。しかし、同日のオリックス株は前日比で一時4.9%高の2,256円まで買われ、人気のバロメーターである出来高は601万8,600株と前日(186万3,100株)の3.2倍に膨らんだ。その後もオリックス株は水準を切り上げ、11月25日には年初来高値となる2,414円を記録する場面も観測されている。1月4日の年初来安値1,551円から55.6%の上昇である。
ちなみに、オリックスが「弥生会計」などのビジネスソフトで有名な「弥生」の売却を正式に発表したのは12月17日のことだ。後段で述べる通り、オリックスは大阪府と大阪市が誘致を目指すIR(統合型リゾート)の話題や、日経平均の臨時入替えの候補となる可能性も指摘されており、今後さらに人気化する場面もあるかもしれない。
今回はオリックスの話題をお届けしよう。
オリックス、投資会社としての色彩を強める
オリックスの設立は57年前の1964年4月にさかのぼる。日綿実業(現在の双日)や三和銀行(現在の三菱UFJ銀行)など3商社・5銀行が出資して設立した「オリエント・リース」が同社の始まりである。設立当初は資本金1億円、社員13人であったが、2020年3月31日現在の資本金は2,211億1,100万円、従業員数は単独で2,842人、連結で3万1,233人となっている。
オリックスは旧社名のオリエント・リースが示す通り、もともとはリースを中心としたサービスを提供してきた。しかし、2008年のリーマン・ショックによる債権の焦げ付きに加え、金利低下も進んだことでリースやローンでの収益が厳しくなった。そうした時代の流れとともに、近年のオリックスは事業の軸足を「融資から投資」に移し、投資会社としての色彩を強めている。
投資会社としてのオリックスを象徴する案件が、冒頭でも紹介した弥生の買収と売却である。オリックスが2014年に弥生を買収した金額は約800億円であった。それが今回、米投資ファンドのKKRに売却した金額は推定で約2,400億円とされている。買収金額の実に3倍である。
弥生はかつては米国の会計ソフト大手インテュイットの日本法人であったが、2003年にMBO(マネジメント・バイアウト)で独立、翌2004年にライブドアに230億円で買収され、さらに2007年にライブドアホールディングスから投資ファンドのMBKパートナーズに710億円で売却されたという経緯がある。
前述の通り、2014年にはオリックスがMBKパートナーズから弥生を約800億円で買収した。オリックスは自社の営業網を活用して弥生の事業拡大を目指し、当初125万件だった登録ユーザー数を250万件に増やしたという。そうした弥生の企業価値を高める努力が実を結び、買収金額の3倍に相当する2,400億円(推定)で売却することができたと見られる。まさに投資会社としてのオリックスを象徴する案件であり、投資事業は同社の業績をけん引するドライバーとなっていることがうかがえる。
2022年3月期は過去最高益に迫る?
11月4日、オリックスは2022年3月期第2四半期累計(2021年4月~9月)決算を発表した。売上高に相当する営業収益は前年同期比14.5%増の1兆2,415億円、営業利益は74.3%増の2,089億円、株主に帰属する四半期純利益は56.3%増の1,467億円と増収増益だった。投資していた米国企業の売却による利益が膨らんだほか、国内でも防犯・監視等のクラウド録画サービスを運営するセーフィー <4375> のIPO(新規株式公開)の評価益や売却益が業績に寄与した。
オリックスは同日、2022年3月期(通期)の見通しについて、株主に帰属する当期純利益で前期比29.9%増の2,500億円と従来予想を据え置いた。
しかし、前述の通り、12月17日には子会社の弥生を米投資ファンドに売却したことで、2022年3月期に子会社株式売却益として1,632億円を計上することを発表している。その結果、株主に帰属する当期純利益も前期比61%増の3,100億円と、従来予想から600億円引き上げた。予想通りとなれば、2019年3月期に記録した過去最高益3,237億円に迫る高水準となる。