1 ―― ふるさと納税の枠組みを活用したウクライナ支援

ウクライナに対する支援の動きが広がっている。役所に募金箱を設置するなど、ウクライナ支援のための寄付金を募る自治体も多く、中にはふるさと納税の枠組みを活用している自治体もある。ふるさと納税の枠組みを活用したウクライナ支援と一口に言っても、具体的な内容は自治体によってさまざまである(図表 - 1)。

ウクライナ支援とふるさと納税債
(画像=ニッセイ基礎研究所)

1 ― 1|返礼品購入費を含む事務手数料の取り扱い

まず、返礼品がある自治体もある(自治体1)が、ほとんどの自治体は返礼品がない。納税者から集めた寄付金の内、実際の支援に使われる額も自治体によって異なる。返礼品がある自治体は寄付額から返礼品購入費を含む事務手数料を除いた額が支援に回される。返礼品がない自治体でも、寄付額から事務手数料を除いた額を支援に回すと明記する自治体がある(自治体2)一方、納税者から集めた寄付金の全額を支援に回し、寄付受付にかかる事務手数料や寄付金受領証明書の発行にかかる費用はすべて自治体が負担することを明記する自治体もある(自治体3)。

寄付受付にかかる事務手数料や寄付金受領証明書の発行にかかる費用の取り扱いを明記していない自治体が多いが、返礼品がなければ、少なくとも寄付金の8割は支援に回されると考えてよいだろう。返礼品の購入費を寄付額の3割以下に抑えるルールに加え、返礼品の購入費を含む費用合計を寄付額の5割以下に抑えるルールもあるので、返礼品以外の費用は高々2割と考えられるからだ。

1 ― 2|寄附金の使途

寄付金の使途も自治体によってさまざまだが、使途は大きく二つに分けられる。一つ目は、ウクライナ支援を目的とした基金等への寄付で、自治体は寄付金を取りまとめる役割を担う。二つ目は自治体に避難された方々への支援などウクライナからの避難民受け入れを前提とした使途である。過半数の自治体が掲げる使途は、寄付金の取りまとめ(一つ目)である一方、避難された方々への生活支援(二つ目)を掲げて寄付を募る自治体もある(自治体7及び自治体8)。

しかし、避難された方々への生活支援(二つ目)を掲げる自治体も、避難された方々への生活支援だけでなく、物資支援などの人道支援も掲げている。現地への支援を自治体が単独で行うのは困難かつ非効率なので、程度の差はあるが、いずれの自治体にも寄付金の取りまとめ(一つ目)機能があると考えられる。

1 ― 3|寄附金の届け先(基金等)

取りまとめた寄付金の届け先(基金等)も自治体によって異なる。過半数は日本赤十字社が開設する「ウクライナ人道危機救援金」に寄付金を届ける。中には、在日ウクライナ大使館に寄付金を届ける自治体(自治体5)*1や、ウクライナからの避難民学生に対し、授業料の全額無償化や、安全で安心な居住環境を確保し、継続した学びの機会を提供する学校法人に寄付金を届ける自治体(自治体6)もある。

このように届け先(基金等)も多様だが、これら3つ基金等(日本赤十字社、在日ウクライナ大使館、学校法人)には、直接個人からの寄付を受け付けているという共通点がある。このため、同一の基金等に寄付する経路が少なくとも二つ存在する*2。ふるさと納税の枠組みを活用して支援する経路(図表 - 2、青い経路)と直接支援する経路(図表 - 2、赤い経路)である。

ウクライナ支援とふるさと納税債
(画像=ニッセイ基礎研究所)

そこで、これら二つの経路のどちらを選択するかによって、寄付者の負担及び、寄付者が居住する自治体の負担がどのように異なるかを確認する。


*1:ウクライナ支援を目的とした自治体5への寄付金のうち、3月中旬に定められた特定の期日迄の寄付金は在日ウクライナ大使館が開設する口座に届けられる一方、特定の期日以降の寄付金は日本赤十字社が開設する「ウクライナ人道危機救援金」に届けられることになっている。このため、厳密には、当レポート執筆時点において、在日ウクライナ大使館に寄付金を届ける自治体はない(筆者が調べる限り)。
*2:街頭募金、クレジット会社によるクレジット決済募金やECサイトのポイント寄付など経路は複数ある。


2 ―― 寄付する経路による寄付者の負担の相違

2 ― 1|ふるさと納税の枠組みを活用して支援する場合

まず、ふるさと納税の枠組みを活用して支援する場合、同年のふるさと納税額の合計が限度額以下ならば、同年のふるさと納税額から2,000円を差し引いた金額相当の所得税・住民税が減額される(図表 - 3)。ふるさと納税以外の寄付がある場合、ふるさと納税額の合計が限度額を超える場合を考えると複雑になるため、ここでは、寄付者はウクライナ支援目的のふるさと納税(寄付)のみを限度額の範囲内で行うものとする。この前提の下で、ふるさと納税の枠組みを活用して支援する場合の実質的な自己負担額は2,000円である。

ウクライナ支援とふるさと納税債
(画像=ニッセイ基礎研究所)

2 ― 2|直接支援する場合

直接支援する場合も所得税・住民税などの減免措置はあるが、ふるさと納税ほどの減税効果はない。住民税特例分の控除(図表 - 3の青色)は、ふるさと納税に限った特例だからである。しかも、所得税分の控除(図表 - 3の緑色)の取り扱いは3つ基金等(日本赤十字社、在日ウクライナ大使館、学校法人)でそれぞれ異なる。そして、3つの基金等の場合、住民税基本分の控除(図表 - 3の黄色)の適用はないと考えられる(図表 - 4)。

ウクライナ支援とふるさと納税債
(画像=ニッセイ基礎研究所)

まず、日本赤十字社による「ウクライナ人道危機救援金」の場合、所得税分の控除の対象となるが、住民税基本分の控除の対象とならない。日本赤十字社に対する寄付で住民税基本分の適用となるのは、寄付者が居住する都道府県内にある支部への寄付でかつ、総務大臣の指定を受けた事業に限られるからだ。

次に、在日ウクライナ大使館の場合、所得税分の控除の対象にも、また住民税基本分の控除の対象にもならない。寄付金控除の対象は、国や地方公共団体、特定の法人などに限られるからだ。

最後に、避難民学生を支援する学校法人の場合、所得税分の控除の対象となるだけでなく、所得控除の適用を受けるか、税額控除(特例)の適用を受けるかを寄付者が選択することができる*3。所得控除の場合、寄付額から2,000円を差し引いた金額に所得税率を乗じた金額の減税効果であるのに対し、税額控除(特例)の場合、寄付額から2,000円を差し引いた金額の40%の減税効果がある*4。よほどの高額所得者(課税所得が1,800万円以上)でない限り、所得税率は40%を下回るので、大部分の人にとっては税額控除(特例)の適用を選択した方が減税効果は大きい。

所得税分の控除では所得控除に代えて税額控除を選択できるという特例まで認められるが、住民税基本分の控除の対象になる可能性は極めて低い。学校法人への寄付の場合、住民税基本分の控除の対象になるのは、住民の福祉の増進に寄与する寄付金として、寄付者が居住する自治体の条例で定めるものに限られる。避難民学生への支援に意義はあるが、この支援が住民の福祉の増進に寄与する寄付金として寄付者の居住する自治体の条例で定められているとは考えにくい。

所得税率20%の納税者が、ウクライナ支援のために10万2,000円を直接寄付した場合、自己負担額がどれくらいになるのだろうか。日本赤十字社による「ウクライナ人道危機救援金」なら、寄付額10万2,000円から2,000円を差し引いた金額10万円の所得税率20%(2万円)分だけ所得税が減額されるだけなので、自己負担額は8万2,000円になる。在日ウクライナ大使館なら、寄付額10万2,000円全額が自己負担額となる。避難民学生への支援のための寄付金を募る学校法人への寄付の場合でも、寄付額10万2,000円から2,000円を差し引いた金額10万円の40%(4万円)分だけ所得税が減額されるだけなので、自己負担額は6万2,000円になる。

ウクライナ支援とふるさと納税債
(画像=ニッセイ基礎研究所)

いずれにせよ、ふるさと納税の枠組みを活用して支援するか直接支援するかによって、自己負担額は大きく異なる。自己負担額が異なるのは、寄付者の善意の大小、優劣といった類の問題ではなく、経路によって国や寄付者が居住する自治体の負担が相違するといった制度の問題である。


*3:所得控除の適用が認められるのは、一定の要件を満たした学校法人への寄付に限られるが、避難民学生への支援のための寄付金を募る学校法人は一定の要件を満たしている。
*4:復興特別所得税の影響もあるが、本旨とは関係がないので、簡略化のため本稿では割愛する。