本記事は、長谷川建一氏(著)、元榮太一郎氏(監修)の著書『世界の富裕層に学ぶ海外投資の教科書』(扶桑社)の中から一部を抜粋・編集しています

次世代への事業・資産の承継

事業承継
(画像=PIXTA)

相続をめぐる諸問題

ア はじめに

皆様は、「相続対策」を講じていらっしゃいますでしょうか。

金融機関や税理士などの勧めもあり、「相続税」に関する対策を行っている方は多いのではないかと思います。

ですが、税金以外の対策はいかがでしょうか。税金の対策だけ万全にして満足していらっしゃる方が少なくないように思います。相続対策は、何も税金対策にとどまりません。むしろ、人によってはそれ以上に大切なことがある場合もあります。

本稿が皆様の相続対策をよりよいものとする一助となれば幸いです。

イ 相続が発生した場合の流れ

相続が発生した場合の流れについて、ご存知の方も多いと思いますが、法的な観点からご説明いたします。

人が亡くなると相続が発生します。故人が生前に保有していた財産は、故人の法定相続人に承継されることとなります。この時、その財産は、相続人の間で「共有」という状態になります。この共有の状態は自動では解消されません。そのため、相続人の間で、遺産を誰にどのように分けるかの話し合い、いわゆる「遺産分割協議」を行うことが必要になります。

なお、故人が遺言書を遺していた場合には、原則として上記の遺産分割協議は不要になり、遺言の内容通りに遺産分けをすることになります。

ウ 相続対策が不十分な状態で亡くなった場合のリスク

故人が遺言等を作成していなかった場合、故人の財産は法定相続人に承継された後、相続人全員で遺産分割協議を行わなければならないことになります。

相続人が一人しかいない場合、その方がしっかりと判断能力を有している方であれば、財産の承継に関して問題が生じることは少ないと思います。

しかし、相続人が二人以上いる場合、問題が生じるリスクがあります。以下、相続人が複数いる場合に考え得るリスクについてご説明をいたします。

(1)相続人間の仲が良くない、疎遠な場合

相続人間の仲が良くない又は疎遠な場合、遺産分割協議を行うこと自体が難しいことが想定されます。

仮に話し合いが始められたとしても、誰がどの財産を承継するか、話合いがまとまらずに揉めてしまうということも十分に想定されます。揉めた挙句、裁判手続きを取らざるを得なくなることも少なくありません。

(2)相続人の仲が良い場合

この場合、何も問題は生じないようにも思えます。

しかし、相続が発生した場合、いわゆる「外野」の立場の方が、相続の問題に口出しをしてくることが少なくありません。相続人の配偶者や、相続人の知人といった「外野」が、相続人に入れ知恵をして、遺産分割協議がややこしくなってしまうことがあります。

(3)相続人が遠方に居住している場合

相続人の中に遠方に居住している人がいるような場合、その相続人の方と遺産分割協議をするのは、物理的に考えて一苦労です。最近では海外に居住している方も増えており、仮に相続人が海外に居住していたとしても、その方を含めて遺産分割協議を行う必要があります。

(4)相続人の中に、認知症や判断能力の乏しい人がいる

遺産分割協議は、相続人全員が欠けることなく話し合いに参加しなければなりません。すなわち、相続人の中に、認知症や判断能力が乏しい人がいたとしても、これらの人を除いて遺産分割協議を行うことはできません。

しかし、認知症や判断能力に乏しい方は、判断能力の問題から、その人単独で遺産分割協議に参加することができないことがあります。そのため、遺産分割協議を行う前提として、別途、成年後見人等を選任したうえで、遺産分割協議を行う必要があります。

(5)子供がいない場合

ご結婚されていて、お子さんがいらっしゃらない場合も、少なからずリスクがあります。例えば、ご夫婦のうち、ご主人様が亡くなったことを想定した場合、相続人は奥様と、ご主人様のご兄妹(甥姪)になります。ご主人様が何も対策をせずに亡くなられた場合、奥様は、ご主人様のご兄妹の方々と遺産分割協議を行う必要があります。ご兄妹と、日頃から交流があれば問題は少ないと思います。ですが、日常的な付き合いがなく、疎遠になっているような場合には注意が必要です。

(6)多様な資産を持っている場合

資産を築かれた方の中には、多様な資産をお持ちの方が少なくありません。国内の不動産や金融資産以外にも、海外に資産をお持ちの方や、暗号資産をお持ちの方も増えつつあります。財産が多様になればなるほど、相続人の間で、誰がどの財産を取得するのかという話し合いが難航してしまう可能性があります。

エ リスクを回避するために何をすべきか

では、これらのリスクがある場合に、どのような対策を考えるべきでしょうか。

どれだけ節税対策を施したとしても、財産を承継する相続人の間で問題が発生してしまっては意味がありません。

承継される財産は、故人が一代で築いたものかもしれませんし、先祖代々受け継がれている財産が含まれているかもしれません。いずれにしましても、大切な財産は、故人一代限りのものではないのです。

大切な財産を次代に円滑に承継していくためにも、可能な限りリスクは回避すべきです。そして、リスクを回避する方法を知ったうえで、ご自身にとってどのような対策を取るのが最善かを、じっくりと検討することが必要です。

世界の富裕層に学ぶ海外投資の教科書
元榮太一郎(もとえ・たいちろう)
1975年、アメリカ合衆国イリノイ州生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。1999年に司法試験に合格し、司法修習を経て2001年弁護士登録。第二東京弁護士会所属。アンダーソン・毛利・友常法律事務所に入所し、M&A、ファイナンス案件など先端的な企業法務に携わった後、2005年に独立、元榮法律事務所(現:弁護士法人Authense法律事務所)を開所。同年、オーセンスグループ株式会社(現:弁護士ドットコム株式会社)を起業。2014年には法律相談ポータルサイト「弁護士ドットコム」を運営する弁護士ドットコム株式会社を、弁護士として日本初となる株式上場(東証マザーズ)へと導く。2016年、第24回参議院議員通常選挙に自民党公認候補として千葉県選挙区から立候補し当選。2020年からは菅義偉内閣において財務大臣政務官を拝命。内閣の一員として国家運営に携わる。2021年、参議院文教科学委員長に就任。2022年からは日本の成長戦略を牽引する企業グループへと成長させるべく、Authense法律事務所と弁護士ドットコム株式会社のCEOとして、さらなる持続的な企業価値を創出していく。

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