この記事は2022年6月9日(木)配信されたメールマガジンの記事「岡三会田・田 アンダースロー(日本経済の新しい見方)『本当の基礎からわかる生産と失業率と消費』」を一部編集し、転載したものです。


本当の基礎からわかる日本経済
(画像=Maxim P/stock.adobe.com)

目次

  1. 要旨
  2. 生産
    1. 生産の公表文
    2. 業種別寄与度
    3. 予測指数
  3. 失業率
    1. 失業率の公表文
  4. 消費
    1. 消費活動指数の公表文

要旨

  • 「本当の基礎からわかる日本経済」セミナーの第8回目で、エコノミストの田が生産と失業率と消費について解説しました。かつてはエコノミストが消費の動きを把握するのはかなり労力を要しました。家計調査や業界データなどを探りながら、できるだけ早く消費の動きの変化を知ろうとしました。今は、日銀が様々なデータを取り入れて、消費活動指数を公表してくれています。極めて便利です。ただ、景気の動きは、消費の動きからはつかみにくいことがあります。消費は、天候要因や特定のブームなど、景気の動きと乖離したり、変動が大きくなったりするものだからです。

  • 一方、在庫の動きを含めた生産や失業率の動きを含めた雇用は、サイクルがよりきれいに出て、景気の動きをつかむのに有用です。鉱工業生産指数では、エコノミストの予測より正確な、企業の将来の生産計画を調査してくれています。どのような計画になっているかが直接的に景気の方向性を示すだけではなく、計画に大きな修正を生じることが起きていれば、景気に何らかの変化が起きていることを示します。

  • 失業率には、その水準を下回れば、急激に人手不足感が強くなり、強い賃金上昇が起きる、「自然失業率」という考え方があります。失業率の動きだけではなく、自然失業率の水準はどの程度なのか、その水準にいつ到達するのかで、賃金や物価のシナリオも変わってきます。当然ながら、中央銀行の金融政策の動きにも関わります。日銀の金融緩和に批判的なエコノミストは、自然失業率を高い水準にしたものを前提とし、デフレ脱却のためにはまだ金融緩和の継続が必要であると考えるエコノミストは、低い水準を前提にシナリオを組み立てる傾向があります。

生産

まず生産とは、鉱工業生産のことで、製造業と鉱業に属する、日系と外資系両方の国内事業所の生産量を示しています。価格の変動は含まれません。生産が注目される理由は3つあります。

1つめは、GDPに占める鉱工業の割合は約2割、関連産業も含めると約4割と、日本経済を幅広くカバーしています。2つめは、生産は景気変動を反映します。3つめは、速報性が高いことです。

当月データは翌月末の8時50分に経済産業省が公表します。生産は品目別の付加価値額でウェイト付けして、指数にしています。業種別のデータからは、業種ごとの生産動向や業種間のばらつきが分かります。

ただ注意点として、例えば業種別データの生産用機械工業とは、生産用機械セクターのメーカーの動向ではなく、様々なセクターのメーカーが生産した生産用機械全体の数量を表しています。

業種別の他、経済的用途で区分した財別データもあります。例えば自動車産業が生産調整された影響は、耐久消費財で確認できます。設備投資は資本財で確認できます。

生産の公表文

実際に公表文を見ていきます。下図は2022年2月分の公表文の1ページ目です。最初に経済産業省の生産に対する基調判断が書かれています。その下は生産の季節調整済み指数と前月比、原指数と前年同月比があります。

▽生産の公表文の1ページ目

生産の公表文の1ページ目
(画像=出所:経済産業省、作成:岡三証券)

業種別寄与度

下図は、ホームページで公開している、業種別寄与度です。オレンジ色の自動車工業が生産全体の動向を左右しているのが分かります。つまり自動車工業のウェイトが大きいことを示しています。

▽生産の業種別寄与度

生産の業種別寄与度
(画像=出所:経済産業省、作成:岡三証券)

予測指数

下図は予測指数といって、企業の生産計画に基づいた見通しです。生産計画は生産実績よりも上振れる傾向があるため、経産省はこうしたバイアスを補正した試算値も公表しています。

▽生産の予測指数

生産の予測指数
(画像=出所:経済産業省、作成:岡三証券)

失業率

次は失業率です。失業率は、労働力調査という統計の一部で、総務省が公表しています。当月データは翌月末の8時30分に公表されます。

まず下図を見てください。15歳以上人口を労働力人口と非労働力人口の2つに分けます。労働力人口とは、経済に労働力を供給できる人たちのことで、就業者と完全失業者の合計です。

就業者とは、調査期間中に1時間以上働いている人が含まれますので、アルバイトの学生や内職をしている主婦も就業者に含まれます。産休育休などの休業者も含まれます。

完全失業者とは、仕事がなく働いていないこと、仕事があればすぐ働けること、仕事を探していること、の3つの条件を満たしている人です。

非労働力人口は専業主婦、学生、高齢者などの働いていない人です。失業していても、働くつもりが無い人もここに含まれます。

失業率は、分子が完全失業者、分母が労働力人口で求めます。分母の労働力人口は言い換えると労働市場に供給されている人的資源であり、分子の完全失業者は活用できていない人的資源なので、失業率は活用できていない人的資源の割合とも言えます。

▽失業率の定義

失業率の定義
(画像=作成:岡三証券)

失業率の公表文

次に公表文を見ていきます。失業率は、原数値ではなく、季節調整値を見るのが一般的です。なぜなら、原数値の場合、農業就業者数の季節変動の影響を大きく受けるからです。

2月の失業率は2.7%でした。対前月増減を見ると、0.1%ポイントの低下でした。失業率が変動する要因を見るときは、分子と分母の両方を見る必要があります。完全失業者を見ると、12月に3万人減少しました。就業者は横這いでした。その結果、分子が減少、分母が横這いのため、失業率は低下しました。

▽失業率の公表文の5ページ目 2022年2月分

失業率の公表文の5ページ目 2022年2月分
(画像=出所:総務省、作成:岡三証券)

消費

最後に消費について話します。最も包括的で正確な消費統計はGDPですが、公表が遅いです。今回は、足元の消費動向をつかむのに有効な、日銀の消費活動指数を取り上げます。

消費活動指数はGDPと整合的になるよう作成されており、包括的です。GDPの消費の予測にも使えます。速報性もあります。

当月のデータは、翌々月の第5営業日の午後2時に公表されます。また、家計調査などの需要側統計を基本的に使用していないので、統計的な振れも小さいです。

消費活動指数の対象は、日本国内の消費です。つまり、下の図より、国内の日本人と、訪日外国人のインバウンド消費が含まれています。企業側からみた消費動向を確認するには、消費活動指数が適切です。

しかし、日本人だけの消費動向を見るには、インバウンドを控除して、アウトバウンドを含めた、旅行収支調整後の指数が適切です。これは、GDPの家計最終消費支出と整合的です。

▽消費の定義

消費の定義
(画像=出所:日本銀行 作成:岡三証券)

消費活動指数の公表文

下図は公表文です。上段を見ると、2017年以降グレーの消費活動指数が、濃い黒色の旅行収支調整済み指数より強いですが、これはインバウンド消費の影響だとわかります。コロナで両指数とも大きく落ち込み、足元は落ち込み幅の半分程度の水準で推移しているのが分かります。

下段は、財とサービスです。左の耐久財は足元コロナ後のボトム付近で低迷しているのが分かります。右のグレーのサービスは、足元上向いていますがコロナ以降の落ち込み幅の半分程度で推移しています。

また、消費活動指数プラスという指数もあります。これは新しいオルタナデータを取り入れて、最近の消費動向の変化を迅速に捉えるために作成されました。例えば、Eコマースの動向も反映されています。

▽消費活動指数の公表文 2022年2月分

消費活動指数の公表文 2022年2月分
(画像=出所:日本銀行)
会田 卓司
岡三証券 チーフエコノミスト
田 未来
岡三証券 エコノミスト
松本 賢
岡三証券 エコノミスト

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