本記事は、どこ氏の著書『USCPA(米国公認会計士)になりたいと思ったら読む本』(中央経済社)の中から一部を抜粋・編集しています
USCPAという資格がどのように活かせるかイメージはできたでしょうか? ここからは、USCPAだと具体的にどのようなキャリアが築けるのか見ていきましょう。
USCPAは、日本の公認会計士ほどには会計に特化したキャリアの道を歩むわけではありません。USCPAになったらどのようなキャリアの選択肢があるのか、幅広く考えてみるとよいでしょう。
USCPAのキャリアパスについて、「プロフェッショナル」としてのキャリア、「企業内スペシャリスト」としてのキャリアに分け、さらに海外で働く場合について具体的にご説明していきます。
海外で働く場合については、「海外駐在」と「現地採用」に分けてご説明しています。USCPAが日本人として海外で働く場合、どのような点を考慮するとよいのかヒントをご紹介します。
- どこ:資格というのは、自分の人生に役立てるために取るのだから、取ったあとのキャリアについてじっくり考える必要があるね。 「プロフェッショナル」か「企業内スペシャリスト」か、国内か海外か。 USCPAという資格で、自分が思い描くキャリアが実現できるかどうか具体的に考えてみてね。
クライアントに知識を提供する「プロフェッショナル」になる!
USCPAのキャリアパスとしては、クライアントに専門的な知識を提供して、その対価として報酬をもらうという「プロフェッショナル」になる道があります。「プロフェッショナル」になる場合は特に、クライアントにより多くの付加価値が提供できるように、USCPA試験の勉強で身につけた知識に加え、実務を通してさらなる知識やさまざまなスキルを身につけていく必要があります。
USCPAの「プロフェッショナル」としての業務は、大きく分けると監査業務、税務業務、コンサルティング・アドバイザリー業務ですので、それぞれについて見ていきます。
■USCPAの「プロフェッショナル」としてのキャリアパス■ (1)監査法人で英語力を活かした監査 (2)税理士法人で国際税務 (3)コンサルティング・アドバイザリー会社でクライアントのサポート
監査法人で英語力を活かして監査をする
監査法人というのは、企業の財務諸表が適正に作成されているかを監査する会計事務所のことです。監査法人は、大手監査法人と中小監査法人があります。大手監査法人は、世界の4大会計事務所のメンバーファームで、4大監査法人やBig 4などと呼ばれます。
■4大監査法人と提携先■ (1)EY新日本有限責任監査法人:EY(アーンスト・アンド・ヤング) (2)有限責任あずさ監査法人:KPMG(ケーピーエムジー) (3)有限責任監査法人トーマツ:DTT(デロイトトウシュトーマツ) (4)PwCあらた有限責任監査法人:PwC(プライスウォーターハウスクーパース)
日本の公認会計士の場合は、公認会計士試験に合格後、大部分が大手監査法人に就職します。USCPAも同じく、大手監査法人をUSCPA試験合格後のファーストキャリアに選ぶ人は多いです。
大手監査法人で働くメリットは、ネームバリューがあり、優秀な人材が集まっていること、グローバルな案件が揃っていること、世界の4大会計事務所の監査ツールが使えるため、最先端の監査手法が学べることなどが挙げられます。法人によってカラーが違うので、法人ごとの特徴を押さえ、自分に合った法人を選ぶとよいでしょう。
USCPAも日本の公認会計士も同じですが、試験に合格しただけでは一人前とはいえず、現場でさまざまな経験を積む必要があります。監査法人では、監査業務を通じて、公認会計士に必要な知識やスキルが身につけられます。いろいろなクライアントを担当し、財務諸表の読み取り方やビジネスの仕組みを理解し、わからないことがある度に調べて知識を身につけていくことで、公認会計士としてやっていく基礎ができます。
USCPAの場合は、監査法人に残って出世するよりは、3年ほど監査法人で働いてセカンドキャリアに進む人が多い印象です。監査法人を辞めても、監査業務を通して身につけた知識やスキルは他の道でもおおいに活かすことができ、監査法人で働いていたこと自体が箔となり、セカンドキャリアの幅が広がります。
USCPAとして監査法人で働いていた経験から、USCPAが監査法人で特に活躍できるのは、以下の2つの業務だと思いますので、ご紹介します。
■監査法人でUSCPAが特に活躍できる業務■ (1)外資系企業の監査 (2)リファードワーク(ReferredWork)
(1)外資系企業の監査
外資系企業の監査の場合、クライアントは英語で帳簿を作成している場合が多いので、英語の勘定科目がわかり、英語の財務諸表が理解できるUSCPAは有利です。
また、米国企業や欧州の企業を多く担当するため、USGAAP(米国会計基準)やIFRS(国際財務報告基準)の知識が必要になります。よって、JGAAP(日本会計基準)しか勉強していない日本の公認会計士より、USCPAのほうが有利です。
USCPAは英語力があるといっても、人によって英語力のレベルはピンキリなので、それぞれの英語力に合ったクライアントにアサイン(割り当て)されていました。必要な英語スキルの目安は以下のようになります。
■外資系企業の監査で必要な英語スキル■ (1)クライアントが用意する証憑は英語なので、英文読解力は必須 (2)クライアントの経理担当者は、大抵は日本人だが、CFO(最高財務責任者)だけ外国人(Expat)ということが多いので、CFOインタビューは英会話力が必要 (3)監査メンバーに1人でも日本語がわからない人がいる場合は、英語で監査調書を書くことになるので、英作文スキルが必要
英語力はあればあるほど重宝されますが、たとえば英会話がそれほど得意ではなくても、それだけで仕事を任せてもらえないということはないので、英語力に関してはそこまで心配する必要はないでしょう。
(2)リファードワーク(Referred Work)
リファードワークというのは、海外に本社がある企業の子会社が日本企業の場合、海外の提携事務所の監査人から、実施すべき手続きの指示書が送付されてきますので、指示に基づき手続きを実行し、報告する仕事です。海外の親会社の監査人の指示に基づいて行われる監査で、日本側の監査人は補助的な位置付けで、監査意見は出しません。
リファードワークでは、指示書は英語で書かれており、提携事務所の監査人とのやりとりも英語になり、報告書も英語で書くため、英語ができないと仕事になりません。英語力に自信があれば、リファードワークでもUSCPAとして活躍できるでしょう。
私の場合は、外資系企業の監査が90%、リファードワークが10%くらいで、リファードワークにはあまりアサインされませんでした。リファードワークは、手すきな時期に、突然1週間くらいアサインされるくらいでした。これは、私の英語力が足りなかったからなのか、他の外資系企業の監査で手一杯なことが多かったからなのかはわかりません。
また、外資系企業は、米国系が10%、欧州系が90%くらいで、監査法人で働き始めてから、国際財務報告基準(IFRS)の勉強に時間をかけることになりました。既に米国会計基準(USGAAP)の勉強をしていたので取り組みやすかったですし、英語で会計用語や文書が理解できるため自分で調べられますので、問題はなかったように思います。
大手税理士法人で国際税務に携わる
日本では税理士に税務業務の独占業務権限があり、税理士事務所が多くありますが、USCPAは日本の税務業務ができないということもあり、そのような個人の税理士事務所に転職することはあまり考えられないでしょう。
税理士法人には、大手税理士法人と中小税理士法人があり、中でも国際的な4大監査法人系の大手税理士法人が、USCPAの転職先の選択肢となるでしょう。
■4大監査法人系の大手税理士法人■ (1)EY税理士法人 (2)KPMG税理士法人 (3)デロイトトーマツ税理士法人 (4)PwC税理士法人
日本の公認会計士の場合は、公認会計士試験に合格した段階では税理士登録ができないため、基本的には最初は監査法人で働き、税理士登録をした後、系列の税理士法人に転籍または転職することになります。一方、USCPAの場合は、監査法人を経由せず、USCPA試験合格後のファーストキャリアに大手税理士法人を選ぶことがあり得ます。
大手税理士法人は、クライアントは日系の大手企業や外国企業で、連結や組織再編などの難解な税務や、国際税務を取り扱っています。日本企業に対しては、海外進出や海外でのM&A(合併・買収)の実施などで発生する国際税務の問題について、アドバイザリーを行います。そして、外国企業に対しては、日本で事業展開する上での日本の税制について、アドバイザリーを行います。日本の企業をM&Aする際の税務、日本子会社との移転価格税務などへのアドバイザリーも需要が多いようです。
税務申告書については、日本の大企業は社内で作成することが多く、また日本企業の米国子会社は米国側に依頼しますので、日本の税理士法人に作成を依頼することは少ないようです。ただし、アメリカ人の駐在員の米国の所得税申告書は、日本の税理士法人に作成を依頼することがあるようです。
USCPAの場合は、英語力が評価されますので、国際税務で活躍できるでしょう。また、米国の申告書の作成でも、税理士や日本の公認会計士より有利でしょう。ただし、日本の税理士法人で働く場合は、日本の税法の知識が必須です。日本の法人税法の勉強や、日本の税理士試験の受験も視野に入れる必要があるでしょう。
コンサルティング・アドバイザリー会社でクライアントをサポートする
コンサルティング・アドバイザリー業務は、クライアントの課題やニーズを把握し、解決策や改善案を提案し、実行することです。コンサルティング業務は、どちらかというと狭く深く短期的にクライアントにアプローチし、アドバイザリー業務は、広く浅く長期的と考えるとシンプルでしょう。
コンサルティングについては、グローバルに展開をしている欧米発のファームの知名度が高いでしょう。たとえば、マッキンゼー・アンド・カンパニーやボストンコンサルティンググループ(BCG)などが有名です。USCPAを比較的多く採用しているのは、国際的な4大監査法人系の経営コンサルティング会社でしょう。財務・会計・経営コンサルタント部門であれば、USCPA資格が求める人材の資格に含まれていることがあります。
コンサルティングの分野は幅広いため、どの4大監査法人も、何社も各分野に特化したコンサルティング会社を抱えています。
■4大監査法人系の経営コンサルティング会社の例■ (1)EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 (2)KPMGコンサルティング株式会社 (3)デロイトトーマツコンサルティング合同会社 (4)PwCコンサルティング合同会社
アドバイザリーについても、国際的な4大監査法人系の財務アドバイザリー会社が、USCPAの転職先の選択肢となるでしょう。
■4大監査法人系の財務アドバイザリー会社の例■ (1)株式会社KPMGFAS (2)デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社 (3)PwCアドバイザリー合同会社
コンサルティング・アドバイザリー業務は、USCPAや日本の公認会計士という資格があればできるというわけではなく、試験に合格した時点では戦力にならないため、通常は監査法人などで経験を積み、実力をつけてから、コンサルティング会社やアドバイザリー会社に転職することになります。
コンサルティング会社やアドバイザリー会社では、クライアントに価値が提供できるかが大切で、結果を出せなかったら辞めることになります。その代わり、生き残れた場合は高収入が得られるので、実力で勝負したいUSCPAには人気があります。
専門知識だけではなく、交渉力・プレゼンテーション能力・コミュニケーション能力・論理的思考能力・戦略立案力などさまざまなスキルが必要となります。USCPAという資格があるかよりも、経験・能力が重要視されることを念頭に置く必要があるでしょう。
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