◉証券会社セールスの罠②〜投資目的とリスク許容度の設定〜
証券会社で資産運用をするにあたり、顧客は自分のリスク許容度に応じて、証券会社側から複数のカテゴリに分けられています。
「安全性重視」の人は基本的に国債のみしか提案を受けることが出来ません。また「分散投資」の人は基本的に何でも購入できる分類になります。そして「収益性重視」の人のみが、デリバディブや先物等の複雑な商品の提案を受けることができます。
ここで問題になるのは、新規口座を開設する際に証券会社が顧客の投資目的欄をチェックする時です。顧客の中には、安全性の高い債券を購入するために来店される方もいらっしゃいます。しかし担当者の方の中には、一部ですが執拗に「分散投資」にしようと働きかける人も出てきます。
前述の通り、「安全性重視」の人は手数料の低い債券しか提案できないので、証券会社にとって収益性のある顧客にはならないためです。
また、顧客の分類は金融商品取引法の施行後から始まったのですが、当然以前からの顧客には投資目的が登録されていない方が数多くいらっしゃいました。本来は録音されている電話で顧客意向を残して登録するはずだったのですが、一部の証券会社や支店では、顧客に確認を取ることなく勝手に保有商品から投資目的を登録する事案があったという話を耳にします。このようなことは止めるように本社側も通達を出したのですが、「安全性重視」にされてはリスク商品の提案が限られてしまうので、独自判断で動いてしまった支店や営業マンもいたと言われています。
冒頭の通り、証券会社を含む金融業界のほとんどが、“手数料ビジネス”です。そのため営業マンは手数料にならないものは販売しづらいという事情があります。
だからこそ、顧客側は営業マンが「どうしてこの商品を自分に勧めてくるのか?」、背景を探る習慣を持った方が良いのかもしれません。また、証券会社のホームページを見ることも参考になります。そこには、今証券会社側が何を顧客に売りたいのかがお勧めの形で掲載されています。過去の証券会社のお勧めで購入した商品は、その際の新発商品・キャンペーン商品であったということは、証券会社のみならず金融業界ではよく起こります。
◉証券会社セールスの罠③〜「募集もの」の営業〜
一般的に“募集もの商品”と言われる、新規に設定された投資信託や新規募集の債券などがあります。
これらは、時に、本部の営業企画サイドから各支店毎に販売量のノルマが決められることがあります(近年は少しこの体制が弱まってきました)。このノルマは大変強力で、まず本社から各支店の支店長に下ろされ、続いて各課長に下ります。このようなプロセスで、現場の営業マンには非常に大きなプレッシャーがかかり、このノルマ額が大きいときは、支店の顧客に広く提案していきます。
そこで現場では、まず現預金を持っている人に営業に行きます。しかし、そこで顧客に新たな買い増し余力が無いとなると、マネージャーと相談し「保有している投資信託から乗り換えたいのだが、いかがでしょうか?」という交渉に入ります。そのシーンでは、残念ながら顧客の意向が無視されがちです。
最初は、営業マンが単独でセールスに行くことが多いですが、それが難しいとマネージャーが同行してセールスをします。支店の中では、収益を稼ぐ以外にも「募集もの」にコンスタントに取り組んでないと周囲の目も厳しくなり、皆が必死になってしまいます。
顧客が保有している売却できるもの(債券・株・投資信託等)をリストとして営業マンに渡し、そのリストに添って営業させる方もいらっしゃいます。
また、本来は投資信託の乗り換え営業をする際は通常、事前に申請を上げ、上司の決裁を仰がなければなりません。しかし事前にできない場合は、顧客意向があるようにわざと外交先で携帯から支店に電話をして、顧客との説明の中で意向が出てきたので申請したいと口頭申請という事で済ませようとされる方も少なくありません。
参考:
英国視察を通して見えたもの 後編~金融先進国に学ぶ日本のリテール金融の未来
以上、現場から見た証券営業の世界の裏側をお伝えしました。証券業界に対してやや辛辣な書き方となってしまった部分はありますし、全ての証券マンがこうだという訳では決してありません。しかし、残念ながら上述のような証券マンや支店が多くあるのも事実です。
そのため、リスク商品を通した資産運用をされている方は、証券会社はもちろんのこと、金融業界の裏側の事情をよく理解した上で、自分の担当者は本当に信頼に値する人間なのかよくよく注意して付き合う必要があると思います。
BY L.U