金利返済のみの不動産担保ローンでキャッシュフロー改善

話はこれでまとまるかと思いきや、Aさんのもとに、スイス系プライベートバンクから以下のような提案が届いた。

「それ(上記の資金調達手段)でもマンションは購入できますが、固定資産税や管理費などに加え、毎月の返済だけで約70万円(証券担保ローン10万円+住宅ローン60万円)ですから、年収1,700万円とはいえ、返済負担が大きくはないですか? 当社の不動産担保ローンであれば、元本返済ではなく、金利のみ返済すればよいので、キャッシュフローが一気に改善します。1億円はこれまで通り、証券担保ローンで賄ってもらうとして、当社なら残りの2億円を金利0.8%(毎月の返済は約13万円)で出しますよ。これで毎月の負担は一気に3分の1になります」

実は、スイス系プライベートバンクのなかには、元本返済が不要な「不動産担保ローン」を取り扱っているところがある。この不動産担保ローンであれば、約定弁済(期限よりも前に元本を返済すること)ではないので、返済時のリスクは増すものの、スイス系プライベートバンクの言う通り、キャッシュフローの改善が期待できる。ちなみに証券担保ローンも約定弁済ではなく、金利のみ返済すればよいタイプの借金だ。

3億円マンションは買うものとして、あなたであれば、どちらの方法で資金調達するだろうか?

「期限の利益」について確認を 案件自体の再検討も必要に思える

このような状況に対して、筆者は以下のようなアドバイスをした。

●スイス系プライベートバンクの不動産担保ローンは不動産市況がどんなに大幅下落しても「期限の利益」は喪失しない契約になっているか確認すべき(つまり、市況次第でロスカットされてしまう可能性があるかどうか)

●「期限の利益」が喪失しない前提に立つと、コツコツ返すか、最後に一気に返すかの違いなので、経済的には大きな差はないと感じる(金利水準も妥当な印象)

●人間は与えられた環境に適用できる生き物である。メガバンクの住宅ローンでわざと固定費を上げて、限られた可処分所得で生活するほうが、よりリスクは小さいと感じる(住宅ローンの元金返済分=純資産の増加なので「自宅」という引出困難な定期預金口座に強制積立をしているイメージ)

●スイス系プライベートバンクの不動産担保ローンだと、キャッシュフローがそこまで傷まず、資金効率が上がる一方、返済時のリスクは大きい。都心部物件とはいえ、必ず値上がりするわけではない

●「自社株への自信の有無」も判断要素となる。今後の自社業績に自信がない(=自社株価がどんどん上がるストーリーは描きづらい)のであれば、リスク許容度は下がるので、メガバンクの住宅ローンがよさそう(反対に自信があるのであれば、スイス系プライベートバンクの不動産担保ローンで資金効率を高める判断もあり)

●そもそも論として「現在の家計状況で3億円マンションを買うべきなのか。もう少しサイズダウンする選択肢はないのか」という大前提の検討は必要に思える。月70万円の住宅費負担となると、毎月の家計がトントンもしくは赤字転落する恐れがあり、証券担保ローンはロスカットの可能性が常にあるため、一定のリスクを感じる。

cool