本記事は、加藤俊徳氏の著書『脳の名医が教える すごい自己肯定感』(クロスメディア・パブリッシング)の中から一部を抜粋・編集しています。
脳に刻まれた「過去」を書き換える
脳番地とその働きに即して、「自己肯定感」を考えてみましょう。
自己肯定感が低く、自己否定が強い人の中には、過去の体験=「記憶」に過剰に縛られているケースが目立ちます。
失敗体験や怒られた体験など、マイナスの体験をもって、自分はダメだという結論=認識を作り出しているのです。
医師でも弁護士でも、もともと秀才で、すんなり試験で高得点を挙げて合格した人より、何回か挫折を味わいながらいまの職に就いている人の方で、名医となったり名弁護士になったりしている人がたくさんいます。
挫折を経たことで、人の痛みや人情の機微がわかるようになった、ということがあると思います。
そう考えると、失敗体験は貴重な体験だと言えるわけです。
また、社会に出てからの失敗に関しても、そもそも、なんでも最初からできる人などいないという、じつに単純明快な事実を認識するべきでしょう。
誰でも、失敗を通じて成長するのです。過去の失敗体験は決してマイナスではなく、むしろプラスの体験なのです。
以上のことを脳番地で考えると、どう説明できるでしょうか?
まず「記憶系脳番地」に刻まれた「過去」を書き換えるのです。それは単なる失敗ではなく、貴重な経験であったと肯定すること。
それは自分の過去とその意味を、新しいストーリーで「理解すること」でもあります。
つまり、「理解系脳番地」が刺激を受けて働くことになります。
すると、これからは同じような体験をしても、マイナスに捉えるのではなく、プラスに捉える思考が身につきます。それによって「思考系脳番地」の新しい回路が生まれるのです。
認知の歪みを取り、正しい自己認知によって自己肯定感を取り戻す──。
脳番地の働きから、この流れが説明できるのです。
ここで、あなたの自己肯定感レベルがどれくらいかを、ざっくりと判定してみましょう。
下の表の「自己肯定感判定テスト」には、各脳番地ごとに2つの質問が設定されています。
それぞれに「よくあてはまる」(5点)、「どちらかと言えば当てはまる」(4点)、「どちらとも言えない」(3点)、「どちらかと言えば当てはまらない」(2点)、「まったく当てはまらない」(1点)として、採点してみましょう。
さて、その結果は何点だったでしょうか?
1つの目安として、65点以上の人は、まぎれもなく「自己肯定人間」と判定できます。
50点~64点の人は「準自己肯定人間」、35点~49点の人は「自己否定傾向人間」で、34点以下は「自己否定人間」と判定できます。
49点以下の人は、自分の中の「自己否定」の要素がどこにあるかを認識してみてください。
そしてそれが正しい認識であるのか、前に取り上げた「認知の歪み」ではないのか、考えてみてほしいと思います。
もちろん、この設問だけですべてを判定することはできませんが、自己肯定感が高いのか低いのかの目安ぐらいにはなるでしょう。
そして、表のテストの中で、どの脳番地がとくに低い点数かを確認し、質問項目が「よくあてはまる」と言えるように、自らの行動を意識的に変えてみることをお勧めします。
自己肯定感とは脳の成長欲求
「自己肯定感」も「自己否定感」も、脳の働きによって生まれてくるということです。
同時に知っておいてほしいのは、自己肯定感と自己否定感が、逆に脳に大きな影響を及ぼすということです。
「自己否定感」が強く、抑うつ状態になっている人の脳を調べると、全体的に脳の神経細胞の働きの低下に伴い、酸素消費量が低下していることがわかります。
つまり、脳が活動していない「フリーズ状態」になってしまっているのです。
自己否定することで、「自分は何をやってもダメだ」とか「失敗したらどうしよう」と考える。すると、新しいことに挑戦する意欲が減ってしまいます。
そうなると脳全体の活動量が低下し、それによって外部に対する関心や注意力が低下します。
すると、ますます脳の活動が弱くなる。自己否定の「負のスパイラル」が生じるのです。
逆に、自己肯定感に溢れている人の脳はどうでしょうか?
これが見事に自己否定脳の人と逆で、各脳番地の神経細胞が活発に働き、酸素消費量が増加していることがわかります。
本来、健康な脳は生涯成長をし続けます。そして刺激があれば神経細胞を伸ばし、どんどん密なネットワークを築いていくのです。
生物は基本的に自分の能力を最大限に発揮し、成長したいという本能があります。その本能を素直に開花させることが、自己肯定感につながると考えます。神経細胞一つひとつも、本来そのような生物の本能があります。
脳が活発に働いている状態はそれだけで「快」の状態であり、それが自己肯定感につながるのです。
逆に言うならば、自己肯定感とは「脳をもっと使いたい!」「もっと成長したい!」と脳が勝手に思うような状態だということ。「成長実感」こそが、「自己肯定感」なのです。
ちなみに2020年、私は世界で初めて「ラジオ聴取と脳の成長の関係」を調べました。1日2時間以上、ラジオを聴き続けてもらい、1カ月後に脳の状態をMRIで調べ、実験前と比較したのです。
その結果、ラジオを聴き続けた人の左脳の「聴覚系」、「理解系」の脳番地が活性化され発達していました。
左脳は「言語記憶」や「言葉の理解」を受け持つとされているので、これは予想していた結果でした。
意外だったのが、被験者ほぼ全員の右脳の「記憶系脳番地」も発達していたことです。これは実験前には想定していませんでした。
右脳の記憶系脳番地は、イメージ記憶に関係した場所です。つまり、ラジオの音声を聞きながら、被験者はさまざまな視覚的なイメージを思い浮かべていたのです。
それによって右脳の記憶系脳番地が刺激され、発達していたのです。ちなみに、MRIで見ると、発達した部分は黒い影の部分が広がって見えます。脳の神経細胞が複雑につながり、密になることで、黒い影になって見えるのです。
刺激ときっかけさえあれば、脳はつねに成長するということがわかると思います。
その視点から見ると、自己否定感にとらわれ、脳がフリーズしている人は、脳の本来の状態ではありません。
本来の脳の働きを妨げているものをはっきりさせ、それを取り除くことによって、脳は自然に動き出し、自己肯定感を取り戻すようにできているのです。
自己肯定感が「高すぎる」のも問題
ただし、自己否定感はつねに悪者で、完全に排除するべきものなのでしょうか? じつは単純にそうとは言い切れないのが、脳の不思議で、かつ奥深いところです。
クリニックを訪れた人たちに、先ほどのような自己肯定感のテストを行うと、あらゆる要素で自己評価が高く、高得点を記録する自己肯定感が非常に高い人たちがいます。
それはどんなグループかというと、中小企業の社長、とくに創業社長たちです。
自分で事業を興し、社員を雇い引っ張っていく立場ですから、自己肯定感が高いことは想像できます。
それにしても、ほぼすべての要素で最高得点かそれに近い点数を獲得し、ダイヤグラフで表すと、一番大きくきれいな多角形を描きます。
ほとんど彼ら、彼女らには、自己否定の要素がありません。まさに自信満々で行動力に溢れ、自分の目的や目標に突き進んでいく人たちです。
ただし、自己肯定感ばかりで、自己否定がほとんどない人は、それはそれで問題です。自己否定が強すぎる人と同じように、自己認知力が欠けている場合があるのです。
本来なら、自分の性格や行動を冷静に客観的に省察しなければなりません。
ところがマイナス点や反省すべきところがあっても、それに気づいていない。たんなる自信過剰で、現実から遊離してしまっている可能性もあるのです。
このような場合、起きがちなのが周囲の人たちとの関係が悪くなること。
なんでも自分が一番の自信満々の人の場合、自己肯定力の低い人たちの気持ちを理解することができません。
その結果、自分の考えや感性を強引に押しつけてしまいがちになる恐れがあります。
とくにそれが経営者のように立場が上の人間の場合、従業員など立場が弱い人にとっては大きなプレッシャーとなる場合があります。
自分では意図せずとも、モラハラやパワハラととられる言動をしてしまうことも大いにあり得るのです。
自己肯定感が「アクセル」としたら、自己否定感は「ブレーキ」です。両方が働くことで安全に走ることができます。ある程度の自己否定の要素があってこそ、健全な人格が保たれると言えるのです。
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