それでも円安・ドル高傾向は止まらない
「まさかこんなに円安が進むなんて……。うちとしてはありがたい話だが」
ある輸出メーカーのIR担当者は2022年9月13日、ドル円のグラフを見ながらこうつぶやいた。9月1日に円がドルに対して140円台まで下落し、24年ぶりの安値水準となって以降も円安は加速、この日も1ドル144.13円まで下落していたからだ。
ここ最近の急激な円安を受けて政府・日銀は、連日のように市場を牽制する発言を繰り返している。9月7日には鈴木俊一財務相が急激な為替の変動には「必要な対応をとる」と発言。翌9月8日には財務省、日銀、金融庁の3者が会合を開き、為替相場の急変に強い警戒感を示した。そして9月9日には日銀の黒田東彦総裁が官邸の岸田文雄首相を訪ねて市場を牽制した。
それでも円安・ドル高傾向は止まらない。そのため日銀は9月14日、銀行など金融機関で為替売買をするディーラーたちに電話で「ドル売りだと、いくらのレートでいけますか」と問い合わせた。これは「レートチェック」と呼ばれるもので、いわゆる口先介入から一歩踏み込んで為替介入の「準備」に動いているということをアピールするものだ。つまり政府・日銀も、あまりに急ピッチな円安進行に強い警戒感を抱いていたのだ。9月22日夕方には実に10年10カ月ぶりに政府・日銀は為替介入を実施した。
円安がなければ赤字に転落
ただ円安は、輸出企業にとっては追い風だ。日本経済新聞によれば、日経平均株価採用の主要製造業が2022年4~6月期に計上した円安による利益影響額は、差し引きで1兆470億円のプラスだったという。
このうちトヨタ自動車は、営業利益段階で1,950億円の押し上げ効果があり、営業外収益でも為替差損益として1,832億円を計上した。ホンダは642億円の営業利益押し上げ効果、マツダも179億円の営業利益押し上げ効果に加え、332億円の為替差損益を計上している。
自動車メーカー以外でも住友化学が568億円の為替差損益を、村田製作所が300億円の営業利益押し上げ効果と120億円の為替差損益を計上するなど、輸出型の製造業はいずれも円安の恩恵を大きく受けているのだ。
「円安が利益の底上げとなった」と語る製造業の幹部は「円安でなければ赤字に転落していたのは間違いなく、本当に助かった」と胸をなで下ろす。